第7話 プリンの待つ家に帰ろう

足をあまり上げずに前に出すことをイメージしながら走ると実が落ちないような気がすることを発見して、かなり進むスピードが速くなりました。

雪之助の家の前に着くと、玄関の扉の前に菊太郎がぼうっと何かを待っているように立っていました。啓介に気づくと申し訳なさそうに頭を下げました。

「あ、啓介さん。その、きょうは恥ずかしいところを見せちゃいました。」

「全然気にしてないよ。それよりユッキーは?」

啓介の質問を聞いた途端に表情から申し訳なさが消えて、プリプリと怒ったような表情になりました。

「雪なんてもう知りません!あんな自分勝手なひとが兄弟だなんて!」

おそらく本気で怒っているのですが、啓介からすれば菊太郎はかわいい猫ちゃんのようなものなので全く怖くありませんでした。

「菊くんは真面目だね。ユッキーのこと、嫌い?前はよく遊んでたと思うんだけど」

でも、そんなことがバレてしまうと、絶対にややこしくなることは目に見えているので、啓介は神妙な顔つきで菊太郎を宥めました。

「べ、別に普通ですよ。兄弟一緒に遊んでいる方が珍しいんです。だから、雪のことは、き、きらいじゃなぃ…」

後半につれどんどん菊太郎の声が小さくなっていくので、真剣に聞き取ろうとじっと向き合おう啓介はしました。が、何か違う意味と取ったのか、菊太郎はだんだん顔が赤くなっていきました。

「勘違いしないで欲しいです!別に雪のことなんて好きでもなんでもないんですから!しょうがなく巻き込まれてやってるんです!」

あまりにも必死になって言うので啓介は話題を逸らすことにしました。

「そうかもしれないね。それでもユッキーに悪気はないと思うよ。ユッキーは超絶マイペースだけど、菊くんが楽しめるようにユッキーなりになんとかしようとしている気も、するぅ、ょ…?」

雪之助のことをフォローしようとしましたが、だんだんと確証が持てなくなり、目を逸らしました。

「知ってます。それなのに空回ってばかりで、全く目が離せないんです!」

しかし、啓介の先ほどの予想とは裏腹に菊太郎は意外ともう怒っていないようです。

「じゃあ、また一緒に遊んであげる?」

「しょうがないですね。しかたなく、ですよ。」

菊太郎は鼻をフンと鳴らして、そっぽをむいてしまいました。そのせいで後ろから近づいてくる雪之助に気づかなかったのでした。

「なんだー、菊太郎だって自分と遊びたいと思ってたんだー。謝ろうと思って損した。」

「はぁ?なんで聞いてるんですか?」

まさか聞かれていると思っていなかった菊之助は夕日のせいなのか、そうでないのか全身が真っ赤かになりながら雪之助にすね蹴りを喰らわせました。

「いっっったい!!」

「ごめんね菊くん。ユッキーが来てたのは知ってて、質問したんだ。」

目を逸らしたした時に口に人差し指を当てている雪之助が啓介からは見えていたのでした。それを説明しようとした、その瞬間、啓介のすねに強烈な蹴りが入りました。

「あっっっだ!!」

「なんでそんなことするんですか!」

「うーん…やっぱり二人が喧嘩したままだと遊びづらいし。それに、みんなで食べようと思って、これ持ってきた!」

啓介は自身のシャツの包まれていた部分をほどいて二人に持ってきたものを見せました。

「おいしそー。食べていいの?」

目をキラキラさせて雪之助は尋ねました。そういえば、今日はケンカをしたせいで、おやつを食べるタイミングを失っていたのでした。もうお腹はぺこぺこで晩ごはんまでのわずかな時間も待てなさそうでした。

「雪ったら、晩ご飯の前ですよ。まぁ三人で分けるなら、大した量でもないので特別に良いですよ。」

「かわいくなーい。でもそんなところがかわいいよね。でしょ?」

「急に同意を求めないでよ」

急に啓介の方に視線を向けた雪之助に、啓介はたじたじしました。世の中には、本当に思っていても言ってはならないタイミングや内容があるのです。そのため啓介は誤魔化して笑うことにしました。

「可愛くないです!もう、これもらいます!」

「あっ、ずるい!いっぱい取った!」

「僕の分なくなるじゃん!」

菊太郎が、バッと一掴み取ったのを皮切りに雪之助と啓介も続いて実を口に入れました。

「?」

啓介は不思議な気分になりました。

「けいちゃん?どうしたの?」

「いや、さっき食べたときよりも美味しいんだよ。なんていうか、ちょうどいい感じ?」

「はえ〜不思議だね。」

「それは舌が慣れたからじゃないですか?まぁ、さっき食べたものを持ってないので比較はできないですけれど。」

「そっか。それにしても『あい』ってこれなのかな?」

「「えっ?」」

二人の声が揃って聞こえたので啓介は思わず笑ってしまいました。

「竹中先生がそう言ってたよ。」

啓介は二人に、先生に相談した時のことを話しました。

実際は先生が伝えたかったことからずれているのですが、誰も知らないので誰も突っ込まないまま話が進みました。

「そっかー。『あい』ってあんなに小さくて、腕の上に乗ったんだね。」

雪之助は大事そうに菊之助の胃袋のあたりをさすりました。

「まったく、『あい』は近所の裏の森にあったのに、雪に振り回されて疲れました。」

菊太郎はやれやれと言わんばかりの大袈裟な振る舞いで肩をすくめた後、仕返しと言わんばかりに雪之助のお腹を撫で出しました。

「それじゃあ、明日は、なにする?」

「まずは、宿題からです。」

そんな菊之助のかわいらしいイタズラを気にせずに雪之助が話し出したので、菊太郎は恥ずかしくなって、手を引っ込めました。ついでに照れ隠しで嫌味もオマケしました。

「えー」

「よかったねユッキー。これで愛の漢字が書けるね。」

すっかり仲直りできた二人の様子に啓介は小さく安堵の息をつきました。

「じゃあ終わったら絶対、ゼーったいに、遊びに行くから!」

「期待せずに待っていてください。」

そう口では言いながらも今日への満足感と、お別れの寂しさが菊太郎の蚊をには書いてありました。

「じゃ、ばいばーい!」

啓介は暗くなる前に帰ろうと家路を急ぎ、二人に手を振ります。

「ばいばい!」

「さようなら。また、明日です!」

雪之助も菊太郎も手を振りかえしました。

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