第4話 かわいい弟
「はぁ、結局なんにもわかんなかったね。」
「先生が新婚だということ、すっかり忘れてました。」
「なにする?他の遊びでもする?」
「やだー、ぜったいに『あい』をみつけるのー!」
啓介の提案を即決で切り捨てると、その場に転がって駄々をこねだしました。今日は雪之助は少しばかりご機嫌斜めなようです。啓介はまるで自分が年上になったかのように、ゆっくりとしゃがんで雪之助に声をかけました。
「そっか、どうしても見つけたいんだね。じゃあ、他の遊びをしながら、探すのはどうかな?」
「ぶぅ…」
まだ気に食わなさげな雪之助を見かねて、菊太郎はしょうがなく助け舟を出しました。
「それなんですけど、自分が持ってきた本にはこうも書いてありました。」
「菊太郎、今まで持ってきていたんだ・・・」
「当然です!書は宝ってものですよ」
菊太郎は得意げな顔で本を見せつけました。
「えーと、なになに…愛し合う人同士が、せつぶつ?やハグをすると、幸福ホルモンが分泌され、快感を得られます…?」
「つまり、せつぶつ?やハグをして心地よくなったら、愛といえますね。」
「なるほど!で、その節分?って何?」
「さぁ、少なくとも節分ではないです。」
「えー、菊之助頭いいのに知らないのー?」
「わからないものはわからないんです!」
「まぁまぁ、自分もせつぶつ?はしらないけど、ハグならわかるよ」
「じゃあ、とりあえず誰かとハグしてみようっと!」
そう言うなり、雪之助は忍び足をしながら大通りの方へ向かって行きました。
「その行動力をもう少しだけ頭脳側に回してくれたらなぁ。」
思わず啓介の口から本音がぽろりとこぼれました。
「雪ってば!道行く人全員、なんて非効率ですよ!」
「じゃあどうすればいいの?」
菊太郎の大声を聞いて雪之助が戻ってきました。
「あ、戻るの早いですね。」
「今そんな事はどーでもいーの!どうしたらいいか教えてよ!」
ベタっと引っ付く雪之助をうざったがりながら、
「分かったから離れてください。そう、それでいいです。そうですね、『あい』は、恋人や夫婦間だけでなく、友人間にもあるものらしいです。」
と、菊太郎はおしえてあげました。
「じゃあ、僕とユッキーがハグすればいいの?」
「よっし!いくぞー!」
「ぐえっ、苦しいって。いきなり抱きつかないでよ。心構えってものがあるでしょ。」
「どうですか、心地よいですか?」
啓介の文句に耳を貸さず、感想を聞く菊太郎。その様子は彼の兄に似ているな、と啓介は思いましたが、怒らせるだろうと思って言わずにいました。
「うーん、あったかい、というか、あつすぎる。」
「ええー。せっかく苦しいの我慢したのに。菊くん、一回それ貸して。」
何も収穫がなければ抱きつかれ損だと思って啓介は本をぺらぺらとめくりました。
「なになに・・・」
「なんかあったー?」
ぴこっと上から雪之助が覗き込んできました。
「えっと、『あい』って家族間にもあるらしいよ!」
ゴチン!
「うべっ!」「っだ!」
頭を上げた拍子に啓介の後頭部と雪之助の顎がぶつかりました。
「いたた…えーっと、つまりユキが、菊太郎とハグすればいいってことら!」
痛そうにしていたのも束の間、舌を噛んで発音が少し変なものの雪之助はすぐに復活して目を輝かせながら抱きつこうとしました。
「げ、こっち来ないでくださいよ。いやですよ、雪となんて」
「なんでそんな事言うの〜。いっかいハグするだけりゃん。」
雪之助は手で押しのけられて不満なよう。ジリジリと体重をかけていきました。
「だからそれが嫌なんです!」
「いいりゃん!」
「絶対に嫌です!」
「わがまま言わないれ!」
「僕のセリフです!」
「もー!菊太郎はいつもイヤイヤばっかりで可愛くない!」
「べつに雪に可愛く思ってほしくなんかありません!むしろキモいんですけれど!」
「ひどい!そんな事言うんだったら、菊太郎だってちょっと遊んでたくらいで、「宿題やりなさい!」って怒って、お説教するじゃん!あれ、ちょームカつく!」
「全面的に雪が悪いじゃないですか!それに雪はいつも人のお菓子を食べますよね!楽しみにしてたのに!」
いつも喧嘩ばかりの二人ですがヒートアップしすぎていたので、啓介は仲裁しようとしました。
「ちょっとふたりとも、やめなって」
「いいよ、今日の冒険は終わり!帰るから!」
「そうやって人を振り回すのも嫌いです!」
どうやら仲裁は逆効果。二人とも怒って別々の方向へ歩いて行ってしまいました。
いつも二人の喧嘩に巻き込まれてばかりの啓介ですが、今回ばかりはどうしようかと、頭を抱えました。しかし、彼が普段から仲裁していることを神様が不憫に思ったのでしょうか、啓介の頭の中に一人、解決してくれる…かもしれない、いやおそらくできなさそうだけど、0%ではない人物が思い浮かびました。
「どうしよう・・・頼りにならなさそうだけど、行くしかないかなぁ。」
啓介は、太陽が空高くから下がり出している青空の下、ゆっくりと歩き出しました。
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