"初"変な人
ある日突然お客さんが来た。
男の子だった。
マスターは嬉しそうに声を掛けた。
「何をお探しですかな?」
すると男の子は言った。
「この本屋を探してました。」
変な人が来たと思った。
日々、平凡を加速させる要素の中で唯一お気に入りであったこの空間を壊されたくなくて、思わずため息をつきそうになったが、何故かそうはしなかった。
男の子がこちらを見つめていたからだ。
またか。と思った。
どうせ一目惚れしたとか、連絡先が知りたいとか、どこの学校か、とか質問攻めにあうのだろうなと。
男の子は、静かに口を開いた。
「何を読んでいるんですか?」
「、、という本です。」
「へぇ。面白そうですね。」
「、、はい。」
なに?と言いそうになったが、別にどうでもいいか、と手元に視線を戻し再び文字をなぞり始めた。
右隣の景色が変わった。思わず目をやると、
男の子が座っていた。
「CD買ったんですか?」
自分だって買わずに居座っているくせに鬱陶しくなって聞いてみた。
「買いましたよ。ほら。」
手元の袋を見せて男の子は言った。
「そうですか。」
それだけ言って再び本を読み始めた。
男の子が買った曲が流れる。
クラシックだった。
なんで、クラシックなんだろう、と思ったが、
特に聞く理由もないので、触れないでおいた。
「僕、ピアニストなんです。」
「へぇ。」
なぜか答えてくれた。
心の内がバレた感じがしてそわそわしたが、もちろん表に出す事は無く、平然を装う。
気づいたら夕暮れになっていた。
帰ろうと本を閉じると、まだ隣で男の子が本を読んでいた。
「、、まだいたんだ。」
思わず声に出してしまった。
「帰るんですか?じゃあ、また今度だね。」
男の子は本から目を離さずに言った。
「、、あー。はい。」
とりあえず適当に返事だけしておいて、
マスターに「ごちそうさまでした。」と言って店を後にした。
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