第2話

豪華客船での船旅は、夏休みを挟んだ私たちの、言わば「語りのリセット期間」だった。いじめ事件を解決し、学校という「制度」に一つの結論を提示した私たちは、この広い海の上で、自分たちの「語り」について考え直していた。

​あの事件の後、セレナの「心の声を聴く力」は、単なる「感性」を超え、「語りの歴史」を読み解く力へと進化していた。彼女は、触れた場所や物に残された、時間や空間を超えた「語りの残響」を、より鮮明に聴き取れるようになっていた。

​そして、私の役割も変わっていた。私は、セレナの聴く「語りの残響」を、ただ記録するだけでなく、その「語り」が生まれた背景や、それがもたらす「論理」を分析する、「語りの歴史家」としての役割を担っていた。

​父がこの船旅に私たちを誘ったのは、あの事件の疲れを癒すためだと思っていた。しかし、父の友人である船医の久我山医師が、私たちを部屋に招いた際、私には妙な違和感があった。

​彼の「語り」は、穏やかで冷静なものだったが、その心の声には、まるで「秘密」を隠しているかのような、微かな歪みがあった。私は、セレナが聴いた「心の声」を、父の友人という「制度」の中で、どのように位置づけるべきか悩んでいた。

​事件は、私たちが乗船して三日目の夜に起きた。セレナの両親と食事をしている最中、船内に緊急放送が流れる。老夫婦の転落。それは、いじめ事件の「語り」の再来のようだった。

​「…密室だね。語りが、途切れちゃったか」

​セレナが静かに呟いた。

​私たちが老夫婦の部屋に駆けつけると、すでに警備が敷かれていた。船長のアンドレ・カミーユが、私たちを制止する。彼の「語り」は、船という「制度」を体現しているかのようだった。

​その時、私たちは、この事件が、前回の事件と全く違う構造を持っていることに気づいた。いじめ事件では、「語り」は隠蔽され、沈黙の中に存在していた。しかし、この密室殺人は、物理的に「語り」が断絶されている。誰もが語ることを許されない「密室」という空間の中で、事件は起こっていた。

​「私たちは、この部屋に残された、声なき声を拾い集めなければならない」

​私は、セレナに告げた。私たちの能力は、この「語りの断絶空間」を解き明かす、唯一の鍵なのだと。


私は、セレナが老夫婦の部屋のドアに手を触れるのを待っていた。密室という「語りの断絶」は、セレナの能力にとって最大の壁であり、最大の鍵となる。物理的に閉ざされた空間は、その中に残された「語りの残響」を、外に漏らすことなく閉じ込めているはずだ。

​「聞こえる…」

​セレナが静かに呟いた。彼女の顔が、わずかに苦痛に歪む。

​「たくさんの声が、ぐちゃぐちゃになってる。怒り、悲しみ、憎しみ…でも、一番強く残ってるのは…」

​私はノートを構え、ペンを握る。

​「…『嘘の語りを暴いて』…って。老婦人の方の声」

​その言葉を書き留めながら、私の頭の中で、前回の事件の記憶が蘇った。いじめ事件で、加害者たちが巧みに作り上げた「嘘の語り」。それが、この密室の中にも存在しているのかもしれない。

​「…そして…」

​セレナは、さらに深く集中する。

​「『語りを、誰にも渡すな』って、男の人の声。それは、老夫婦の夫、アルフレッドさんの…」

​その時、セレナは首を横に振った。

​「…違う。その声は、アルフレッドさんのものじゃない…それは、三条ミナトさん…マジシャンの心の声…」

​私は、驚きを隠せないでいた。なぜ、マジシャンの心の声が、この殺害現場に残っているのか? マジックは、観客の目を欺く「嘘の語り」だ。三条ミナトは、この密室に隠された「嘘の語り」の共犯者なのだろうか?

​その時、私たちの様子を見ていた船医の久我山医師が、私たちに近づいてきた。

​「彼女の能力は、本物のようですね」

​久我山医師は、セレナの「感性」を、まるで科学的な現象を観察するように見つめていた。彼の心の声には、依然として微かな「秘密」の歪みが残っている。

​「彼女は、『語りの探偵』。君は、『語りの記録者』。そして、私は、この船の『語りの守護者』です」

​久我山医師は、私たちに意味深な言葉を残し、立ち去ろうとした。その時、セレナが彼の背中に、微かな「語りの残響」を聴き取る。

​「…『すべては、この海に沈めるべきだった』…」

​その言葉に、私ははっとした。この「語り」は、今回の事件だけでなく、前回のいじめ事件、そして、私たちの知らない、もっと古い「語り」の歴史と繋がっているのかもしれない。

​「セレナ。久我山医師の心の声、もっと詳しく教えて」

​セレナは、久我山医師が去った後も、彼の「語りの残響」を追っていた。

​「…深い音。海の底の音…『悲しい語り』…」

​私は、この「悲しい語り」が、かつて久我山医師が経験した、何か痛ましい出来事と関係しているのではないかと推測した。

​老夫婦の部屋に残された、「嘘の語り」を暴いてほしいという「語りの遺言」。

​マジシャン、三条ミナトの、「語りを誰にも渡すな」という「語りの検閲」。

​そして、船医、久我山医師の、「すべては海に沈めるべきだった」という「語りの封印」。

​私たちは、この三つの「語りの断片」を頼りに、密室殺人の謎と、豪華客船に隠された「語りの歴史」を紐解いていくことになる。


私は、ノートに書き留めた三つの「語りの断片」を何度も見返していた。

​老婦人、アメリア・クロフォードの「嘘の語りを暴いて」。

​マジシャン、三条ミナトの「語りを誰にも渡すな」。

​船医、久我山トオルの「すべては、この海に沈めるべきだった」。

​これらの言葉は、それぞれ異なる人物の心の声でありながら、一つの事件の真相を指し示しているように思えた。私たちは、三条ミナトという人物に焦点を当てることにした。彼の語る「嘘」が、この事件の鍵を握っている。

​翌日、私たちは三条ミナトのマジックショーを観に行った。煌びやかなステージの上で、彼は観客の心を巧みに操っていた。彼の手から繰り出されるカードは、まさに「虚構」そのものだ。

​「マジックは、真実を隠すための芸術だ」

​三条ミナトの言葉は、セレナの能力を否定するかのような挑発に満ちていた。しかし、彼の心の声は、その言葉と完全に一致しているようには見えなかった。

​セレナは、目を閉じ、集中していた。彼女は、三条ミナトの「語り」の奥に隠された、真実の断片を聴き取ろうとしていた。

​「…聞こえる。でも、とても複雑な音。何重にも重なってる…」

​セレナが呟く。私は、彼女の能力が、三条ミナトという人物の心の声を聞き取るのに苦戦していることを理解した。彼の「嘘」の語りは、あまりにも巧妙で、幾重もの層で守られているのだ。

​ショーが終わり、私たちは三条ミナトに声をかけた。

​「三条さん、マジックは素晴らしいですね」

​私の言葉に、彼は不敵な笑みを浮かべた。

​「お嬢さん。嘘を見破るのが、そんなに得意なのかい?」

​その時、セレナは三条ミナトの手に触れた。彼の「語り」が最も集中する場所、マジックを繰り出す手だ。

​セレナは、息をのんだ。そして、私に、震える声で告げた。

​「…『許さない』…この声、いじめ事件の時と同じ…復讐の語り…」

​私は、三条ミナトも、かつて誰かにいじめられた被害者であり、その復讐のために、この事件に関わっているのではないかと推測した。

​「あなたは、あの老夫婦に、何か復讐したかったのですか?」

​私の言葉に、三条ミナトの表情が固まった。彼の「嘘の語り」が、わずかに揺らいでいる。

​「何のことだ。私は、ただのマジシャンだ」

​彼はそう言って、私たちから離れようとした。しかし、セレナは諦めなかった。彼女は、三条ミナトの「語り」の最も深い層に触れようとした。

​「…いいえ、違います。あなたの心の声は、こう言ってます。『私は、あなたたちを許さない。私をこんな目に遭わせた、船という制度を』…」

​セレナが聴き取ったのは、三条ミナトの個人的な復讐の「語り」ではなかった。彼が憎んでいたのは、老夫婦ではなく、この豪華客船という「制度」だったのだ。

​彼は、かつてこの船で何かを経験した。そして、その経験が、彼に深い心の傷を与え、復讐の「語り」へと繋がった。彼は、マジックという「嘘」の語りを使って、この船という「制度」に復讐しようとしていたのだ。

​その時、セレナは三条ミナトの心の声の奥に、もう一つの「語り」を聴き取った。それは、老夫婦が残した「語り」と、奇妙に共鳴していた。

​「…『この船には、もう一つの真実が隠されている』…」

​その声は、三条ミナトが憎んでいる「制度」そのものに、別の「語り」が隠されていることを示唆していた。

​私たちは、密室殺人の謎を解く鍵が、三条ミナトの「復讐の語り」の奥にある、この船の「真実の語り」にあると確信した。


三条ミナトとの対話の後、私の頭の中は整理されていた。この事件は、単なる密室殺人ではない。それは、この豪華客船という「制度」に隠された、もう一つの「語り」を巡る争いなのだ。

​私たちは、船医である久我山トオルに話を聞きに行くことにした。彼の「すべては、この海に沈めるべきだった」という言葉は、この船の過去に、何か隠された「悲しい語り」があることを示唆していた。

​彼の診察室は、静かで、冷たい空気が漂っていた。彼は、セレナと私を静かに見つめ、語り始めた。

​「セレナさんの能力は、『語りの探知機』ですね。そして、君は、その語りを『論理』で記録する。素晴らしい。だが、この船には、『語りの守護者』がいることを忘れてはならない」

​久我山医師の言葉は、まるで謎かけのようだった。

​「…その『語りの守護者』とは、あなたですか?」

​私の問いに、久我山医師は静かに頷いた。

​「この船は、かつて、悲しい事件があった。いじめだ。だが、それは、学校という閉鎖された空間ではなく、この船という、海の上に浮かぶ閉鎖空間で起きた」

​私は、思わず息をのんだ。いじめ。前回の事件と同じテーマ。

​「いじめの被害者は、私を信じて、心の声を語ってくれた。しかし、加害者たちは、その語りを「嘘」だと否定した。そして、その語りの真実を、誰も証明できなかった」

​久我山医師は、深い悲しみを帯びた声で語る。

​「その結果、被害者は、この船から…身を投げた」

​私は、ノートにその言葉を書き留めた。久我山医師は、その時、被害者の「語り」を証明することができなかった。そして、その悲劇を、この船という「制度」が、なかったことにしたのだ。

​「私は、その『悲しい語り』を、二度と繰り返さないと誓った。この船で起きた、いじめという『歪んだ語り』は、すべて海に沈めるべきだったと…」

​久我山医師は、セレナと私を見つめた。

​「そして、今、君たちが、その『語り』を再び掘り起こそうとしている」

​その時、セレナが久我山医師の心の声の奥に、もう一つの「語り」を聴き取った。それは、悲しみや絶望ではなく、かすかな希望に満ちた、透明な音だった。

​「…『もう二度と、誰にも同じ苦しみを味わわせない』…」

​その言葉は、久我山医師が、この船の「語りの守護者」となった、本当の理由だった。彼は、過去の悲劇を繰り返さないために、密かに、この船の「語り」を監視していたのだ。

​私は、久我山医師の「語り」を聞き、老夫婦の死の真相に近づいた。

​「老夫婦は、その『悲しい語り』を知っていたのですね?」

​私の問いに、久我山医師は静かに頷いた。

​「彼らは、この船の設計者だった。そして、この船で起きた悲劇を、誰よりも深く知っていた」

​老夫婦は、この船に隠された「悲しい語り」を、世に公表しようとしていたのではないか?

​そして、その「語り」を隠蔽しようとしたのが、三条ミナトだ。彼は、この船という「制度」に復讐するため、老夫婦を殺害した。

​しかし、セレナは、三条ミナトの「語り」に「許さない」という復讐の感情を聴き取った。それは、この船の過去のいじめ事件と繋がっているはずだ。

​「三条さんは、あの事件の加害者だったのですか?」

​私の問いに、久我山医師は首を横に振った。

​「違う。彼は、いじめの傍観者だった。そして、その罪の意識が、彼に復讐の『語り』をさせた」

​私たちは、この事件の全ての「語りの断片」を、ついに一つに繋げた。

​老夫婦: この船の「悲しい語り」を世に公表しようとした者。

​久我山医師: その「語り」を封印しようとした「守護者」。

​三条ミナト: 過去の罪から逃れるため、老夫婦を殺害し、船に復讐しようとした「傍観者」。

​そして、この事件の真犯人は…

​私たちは、この船の「真実の語り」を、今、目の当たりにしている。


​私は、久我山医師の語りを聞き、この事件の全体像を理解した。この船は、いじめという悲劇的な「語り」を隠蔽し、その真実を知る者たちが、それぞれの「語り」の中で苦しんでいたのだ。

​老夫婦は、船の設計者として、この船に隠された「悲しい語り」を公にしようとしていた。久我山医師は、過去の悲劇を繰り返さないために、その「語り」を封印しようとした。そして、三条ミナトは、傍観者という罪悪感から、老夫婦を殺害することで、船という「制度」に復讐しようとした。

​だが、この推理には、一つの矛盾が残っていた。

​「セレナ…三条ミナトさんは、なぜ、老夫婦を殺害したのですか? 彼らが真実を語ろうとしたからですか?」

​セレナは、首を横に振った。

​「…違います。三条さんの心の声は、『もう一つの真実を、誰も知るべきではない』…って言ってた」

​私は、はっとした。三条ミナトの目的は、老夫婦の「語り」を封印することだったのだ。彼は、自分が傍観者だったことを、誰にも知られたくなかった。

​私たちは、この船の「語り」を証明するために、久我山医師に協力を求めた。

​「久我山医師。この船の過去のいじめ事件の記録は、どこかに残っていますか?」

​久我山医師は、静かに頷いた。

​「この船のログブックに、一部の記録が残っている。だが、それは、この船の船長室にある」

​船長室は、船という「制度」の中枢だ。船長のアンドレ・カミーユは、「制度」そのものを体現する存在。彼が、私たちを簡単に中に入れるはずがない。

​私たちは、セレナの能力を使い、船長室に隠された「語りの残響」を聴き取ることにした。セレナが船長室のドアに触れると、微かな音が聞こえてきた。

​「…『私は、この船の秩序を守る』…」

​船長の心の声は、硬質で、揺るぎないものだった。

​その時、私たちは、船長室のドアに、奇妙なものが埋め込まれていることに気づいた。それは、小さな、銀色のプレート。

​「…セレナ、このプレートに触れてみて」

​セレナがプレートに触れると、彼女の耳に、まるで海の波のような、穏やかな旋律が流れ込んできた。

​「…『この船は、悲しい語りの記憶を持つ』…」

​セレナは、その「語り」の奥に、かつてこの船でいじめに遭った被害者の、悲しくも美しい「詩」を聴き取った。それは、久我山医師が語った、海に沈んだ「語り」だった。

​私は、その「詩」を、ノートに書き写した。そして、この「詩」が、この船の「真実の語り」であり、密室殺人の真犯人を明らかにする鍵だと確信した。

​私たちは、船長室のドアを開け、船長、久我山医師、そして三条ミナトを呼び出した。

​そして、私たちは、彼らに、この船に隠された「真実の語り」を突きつけた。

​「船長。この船は、過去にいじめ事件がありました。あなたは、その事件を隠蔽し、この船の秩序を守ろうとしました。久我山医師は、その『悲しい語り』を封印しようとしました。そして、三条ミナトさんは、その『悲しい語り』を世に公表しようとした老夫婦を殺害しました」

​私の言葉に、三条ミナトは顔を歪ませた。しかし、セレナの「感性」が聴いた「心の声」と、私が記録した「論理」は、彼を否定する。

​「三条さん。あなたは、老夫婦を殺害したのではない。あなたは、老夫婦が残した『語り』を、誰にも渡さないために、密室という『嘘の語り』を創り上げた」

​私たちは、三条ミナトがマジックを使って、老夫婦が殺害されたように見せかけたのだと推理した。そして、その「語り」の真相は、この船の「真実の語り」を隠蔽するためだった。

​「…なぜ、そんなことを…」

​三条ミナトは、絶望的な表情で呟いた。

​「老夫婦は、かつて、いじめの被害者だった私の心の支えだった。彼らは、私の『語り』を、この船という『制度』が破壊したことを知っていた。だから、彼らは、私を救うために、この船に乗り込んだのだ…」

​私たちは、三条ミナトの「語り」の奥に隠された、もう一つの真実を知った。老夫婦は、三条ミナトを救うために、彼を巻き込んだ「ゲーム」を仕掛けていたのだ。

​そして、この「ゲーム」の真の目的は、この船の「真実の語り」を、私たちに語り継がせることだった。

​「この船の『語り』は、もう、海に沈まない。私たちが、この『語り』を、未来へと語り継ぎます」

​私は、セレナと顔を見合わせた。

​私たちの旅は、まだ終わらない。私たちは、この船の「語りの歴史家」として、新たな「語り」を求めて、この海を航海し続ける。


豪華客船の事件を終え、私たちは港に戻ってきた。セレナは、久我山医師や三条ミナトと別れの挨拶を交わしていた。三条ミナトの顔には、もう歪んだ「嘘の語り」はなく、穏やかな表情を浮かべていた。彼の心は、老夫婦が残した「語りの遺言」によって、ようやく解放されたのだ。

​私たちは、港のカフェで、ノートを広げた。そこには、老夫婦の悲しい「語り」、久我山医師の「語りの守護」、そして三条ミナトの「復讐の語り」が、私の手で詳細に記録されていた。

​「…このノート、どうするの?」

​セレナが尋ねる。彼女の瞳は、もう他者の「心の声」に怯えてはいなかった。

​「このノートは、私とセレナだけの秘密の記録。この船で起きた、『語りの歴史』の証だ」

​私はそう言って、ノートを閉じた。私たちの旅は、このノートに記録された「語り」を、未来へと語り継ぐために始まったのかもしれない。

​「ねえ、東雲さん。もし、私がこの能力を持っていなかったら、どうなってたのかな?」

​セレナの問いに、私は少し考えた。

​「そうだな…多分、ただの、心の声が聞こえる女の子だったかもしれない。でも、君は、その力を使って、他者の『語り』に耳を傾け、救済を選んだ」

​そして、私は、セレナの能力に、もう一つの名前をつけた。

​「君の能力は、『語りの探求者』だ。そして、私は、その語りを、論理で証明する『語りの翻訳者』だ」

​私たちは、もう単なる探偵と助手ではない。私たちは、社会という「制度」に隠された、人々の声なき「語り」を、探し、解き明かす旅人なのだ。

​その時、セレナのスマートフォンが鳴った。画面には、見慣れない番号が表示されている。セレナは、不思議そうな顔で、電話に出た。

​「…もしもし? はい、セレナです…え? 探偵事務所? 私が…?」

​電話を切った後、セレナは私に、困惑した表情で言った。

​「…なんか、私に、探偵の依頼が来ちゃったみたい」

​私は、思わず笑みがこぼれた。私たちの「語りの旅」は、まだ終わらない。むしろ、ここからが本当の始まりなのだ。

​「…次なる舞台は、『語りの街』。どこかの都市で、また、誰かの『語り』が、私たちを待っている」

​私はそう言って、セレナの背中を押した。

​私たちの物語は、この港から、新たな「語り」を探す旅へと、静かに、そして力強く、続いていく。

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