第4話

「お待たせ。」


彼は待ち合わせ場所にいた。


「早いな。」

「そっちこそ。」


デート。その言葉が頭をよぎる。怜は2人きりで遊ぶだけだと言っていた。でも、でもさ、これってもうデートじゃん!どこからがデートに入るのかわからないけど、ほぼデートだ。


「えっと、どこに行くの?」

「どこにしようか。映画にしようと思ってたんだが、みたい映画ってあるか?」

「んー……あるよ。」

「じゃあ映画館だ。」


彼は移動中、あんまり喋らなかった。それでも、この無言の時間も悪くないと思った。


・・・


映画は相当良かった。気になっていた映画だったから特に。怜には感謝しておこう。私が見たい映画を一緒に見てくれたし。次は怜の行きたいところに行ってみたいな。


「俺は、別にどこでも良い。」

「何もないの!?」

「無い。」


つまらない回答だった。


「じゃあ……」


結局私が提案することに。


・・・


いつもの崖の上。デートの最後はこの場所で終わりを告げよう。今日も夕焼けが綺麗で、吸い込まれそうだ。


「怜は、楽しかった?」

「楽しかった。」

「そっか、良かったぁ。」


デートプランは行き当たりばったりだったけど、十分楽しめた。怜が隣にいるってだけで楽しい。そう思ってしまう。あれ、そういえばデート中一度も……。そっか、今はもう、


「好き、なんだぁ。」

「ん?何か言ったか?」

「え、いや、なんでもないよ!」


それでも、私は中学の頃に戻りたい、なんて思ってしまう。あの日に戻りたいって、そう思う。怜といるより、よっぽど楽しかった。甘酸っぱくて、素敵だった。健人君。いつまでも、一番大好き。怜も、好き。




——だからかな。


——罰が、当たったんだ。


・・・


……また早苗が遠くを見ている。吹っ切れたけど、まだ彼が好きだと思ってるのだろうか。


「ほら、そろそろ帰るぞ。」


辺りはすっかり暗くなり、月が地平線から顔を出してる。


「そうだね。」


彼女は笑顔を見せてくれる。暗くてよく見えないが、綺麗だと思った。俺にだけこの笑顔を見せて欲しい。そう思ってしまった。


——だからだろうか。



「それじゃ——あ」


キィィィィ!という音が耳を貫いた。迫ってくる光、衝撃が加わる音。


「早苗!」


手を伸ばしても届かなかった。


月明かりが、血まみれの彼女を照らす。


「あああああああーーー!!!」


俺は叫んだ。



・・・



「っ!?」


俺は飛び起きた。飛び起きた……?


「ここは……。」

「やっと起きましたね。それでは。」

「え……?」


周りには机と椅子が並んでいた。時計は3時を指している。念の為スマホを確認する。


「……うそ、だろ?」


2月16日。


はっきりと覚えている。あれが夢だと言うのか?予知夢…?


「というかさっきの声は……」


荷物を取り、急いで教室を飛び出す。


「やっぱり……。」


あの後ろ姿は早苗だ。もう1人いる。


「まさか、今日が……?」


未来を変える。たとえ自分が犠牲になったとしても、アイツを、健人を死なせない。そうすれば早苗の悲しい過去は消え去る。俺を助けてくれた礼を、今、ここで——


『好き』


「っ——。」


デートの終わり際、言われた。微かに聞こえただけだから、本当にそう言ったのかはわからない。

ここで健人を亡くせば、早苗は俺の事を好きになる。好きな人に、振り向いて欲しい。

いや、ダメだ、また同じ選択ができるのか、同じ問答ができるかわからない。何より、彼女の悲しそうな顔をもう見たくない。


「……助ける。」


決意は固まった。詳細な時間はわからないから、あの道で見張れば良い。おそらく暗くなった後だろう。あの道は街灯が少ない。


「よし。」


俺は一歩を踏み出す。



・・・



「演劇部だって。」

「良さそうじゃない?」


健人君と部活探し。笑顔が絶えない部活っぽい演劇部の見学に来た。


「あ、見学!?どうぞ中へ!」


中に入ると、1年生と思わしき人が1人だけいた。


「こんにちは。」

「こんにちは。」

「こんにちは。」


健人君と私、この人で3人。見学者は3人だけのようだ。


「君、名前は?」


健人君が彼に名前を聞いた。


「俺は怜。」

「そうか。俺は健人。」

「私は早苗。よろしくね、怜。」


怜は少し悲しそうな笑顔で言った。


——よろしく。と。

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たとえ君がいなくても 夜影 空 @koasyado2

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