17話

私はハクに跨り空を飛んでいた。


「夏なのでちょうどいい涼しさですね」


(主もうすぐ着くぞ)


「それにしてもハクが鼻までいいなんて思いもしませんでした」


(我を犬のように言うでないわ)


「しかし…まさか滋賀まで逃げるとは思いませんでした。敵は見たところ外に40名ほどいるみたいですね」


(主、下に降りるぞ)


「安全にお願いします」


(我は降下が苦手でな少し危ないやもしれぬ)


「えっ…」


(では、下に降りる。しっかり掴まれ)


「ちょっ…あァァァーーー」



そして、現在に至る


「おかげで腰を少し痛めましたよ」


(間に合ったのだから文句はなかろう)


「暁仁…」


私は上に着ていた羽織物を桜様に羽織らせた。


「すみません。遅くなって」


「嫌大丈夫だ」


 桜様の体が震えているな、強気でいてもやはり怖かったのだろう。ここに来る際、悲鳴が聞こえなかった…凄い御方だ。


「話はあとで」


 私は桜様を降ろし、桜様の周りに札を4枚四方になるように地面に置いた。


「そこから出ないように、外からの攻撃や侵入を阻む結界です」


「相手は50人以上いるのだぞ、例えお前でも…」


「大丈夫です。慣れっこですから」


「それはどういう…」


(来たぞ)


ぞろぞろと私達を囲うように男達が出てきた。


「これはこれは、そこの少年いい式神を持っていますね」


「おい!クソガキ、よくも俺達の邪魔しやがって」


「まぁまぁ、落ち着いて下さい皆さん。その子を殺して式神を奪えば即戦力になります。一角獣…ましてや麒麟を式神にしているとは珍しい。その式神を私達のものにすれば十二天将を手に入れるより多大な栄誉が組織から約束されます」


「じゃあ、このガキを最優先って事ですか」


「後ろの結界はその子を殺さないと解除されないみたいですし…そうしましょうか」


「よっしゃー、殺ッ(ザシュツ)」


 私は奴らの懐に潜り込み、まず一人目の首を刀で斬り飛ばした。血が雨のように上から降り注ぐ…


「「!…」」


「!…暁仁」


 桜様は私が人を殺す姿に驚いたのか、そこを動く気配はなかった。


「貴方は礼儀というものを知らないのですか!」


「お前らに言うことは3つある」


「まず1つ目、話が長い、2つ目女を甚振って喜んでいるクズ野郎に礼儀なんてものは存在しない」


「最後に3つ目…俺の大切な人達に手を出し、惚れた女を泣かせたよってお前達を全員…殺す」


「ひっ…」


「お、思い出した。あの狐の面…血狐だ」


「なんでそんなバケモンがこんなとこにいるんだよ!」


「関係ねぇ、こっちは50人全員武器持ってんだ殺れるだろガキ一人くらい」


「さぁ、貴方はこれだけの人数を相手にどんな顔を見せてくれますか?」


 一斉に敵が動き出した。私はまず、正面の4人を殺した。


「死ねっ…」


「若葉流・柳」


「ガハッ」


「ギャーァ」


「逃げっ…」


 次に身体の軸を利用し、後方にいる敵を刀を横にして流れるように突き、横のあばら骨の隙間を刀が通るようにそのまま横に裂いた。


「あっ…」


 臓物が敵の腹から出てくるが簡単には死なない。苦しみながら死んでいく。


「テメェッ…」


喉元を裂き後ろの敵に血を浴びせ目眩ましに使う。


「ちくしょう…」


「何もッ…」


瞬時に首を跳ね飛ばしたあと、袈裟斬りで次を殺す


「化けっ…」


「おい…もう半分もいねえじゃねえかよ」


「おい」


「ヒッ…」


「来ないのか?」


「冗談じゃねえ…俺ッ…」(ザシュツ)


「今まで散々、人をもて遊び、喜んでおいて自分達は大丈夫とか思ってねえよな…」


「嫌ッ…」


「お前らは全員死ね」


「「ギャ〜ァ」」


 一人を除き全員殺し終えたあと、気付けば周りは血の海となっていた。


「そ、そんな、何と酷いことを…」


「どうした?さっきの余裕そうな顔が歪んでるぞ」


「はッ…しかし私は殺せまい。少年、私はッ…」


「ジェームズ・サリウム36歳、本名佐藤庄司」


「なっ…」


「確かに海外のエクソシストを殺せば国際問題だが、お前が整形して今の姿になっていることは調査済みだ。しかもたかが3級の陰陽師が呪鬼に組みして俺達を騙そうとするとは…舐めてんのか?」


「そ、そんな何故それを…」


俺はこいつの手足を斬り飛ばし、傷口焼いて出血を塞いだ


「痛い痛い痛い痛い痛い〜」


「傷口は切ると同時に焼いたから死にはしない」


「ヒッ…」


「お前は裏で男好きの男性愛好家に引き渡すから安心しろ。何しろ愛好家は全員男好きのホモ野郎どもの集まりだ死にはしない」


「嫌だ…」


 俺は最後にこいつの意識を刈り、私はハクのもとに向かった。


「ハクお待たせしました」


(凄まじいな主よ、これでは我の出番がないではないか)


「あとの処理はこの後来る回収班に任せてあります」


(あやつはどうするのだ?)


「それも任せてあるので気にしなくて大丈夫です。私達は帰りましょう」


 私は結界を解き桜様に声を掛けた。


「桜様お待たせしました。さぁ、帰りましょう」


「ぃ……」


「はい?」


「いつもあのような事をしているのか?」


「……そうですよ」


「何故だ!」


「これが私の仕事の一つだからです」


「面をとって話をしろ」


「…わかりました」


私は言われた通り、顔から面を剥がした。


「…そうか、お前は」


「さぁ、帰りましょう。静華様が待っています」


「あぁ、そうだな」


私達はハクに私が後ろ桜様が前に乗るように跨った


(行くぞ)


 辺りはすっかり暗くなっており、全裸姿同然の桜様にとっては、今の季節でも寒いことだろう。


「すみません。返り血で臭くはないですか?」


「大丈夫だ…それより、私をあの場に残したのは、お前が戦う姿を私に見せるためだろう」


「……どうしてそう思ったんですか?」


「私に剣を握れば自ずとその道に足を踏み入れることになるかもしれぬから心配したのであろう。私が躊躇わぬように…」


「そ、そんな事はありませんよ」


「確かに戦っているお前の剣は恐ろしかったが…それよりも美しく感じた」


「…そうですか」


「このお人好しめ」


「……」


「……」


「私がお前を嫌っていた理由を知ってるか?」


「大体の予想はつきますよ」


「…言ってみろ」


「後悔ですよね。静華様に対しての」


「…実はな清姫を呼び寄せてしまったのは私なんだ」


「全て静華様からお話は聞いていますよ」


「卑しく、醜い女だとは思わなかったか?」


「…」


「今日も男共に身体を触られ襲われかけたのはあの時の罰なのだとそう思ってしまったのだ」


 桜様はずっと後悔していたのだろう。家族を傷つけてしまったことに、何より今の自分を妹がどう思っているのか触れるのが怖いんだ。家族を壊してしまった元凶が自分なのだと…この姉妹本当に似ているな…


「静華様も私が呪いの姿をみた時、今の桜様と同じように自分を責めていましたよ」


「そうか…やはり私が…」


「少なくとも静華様は貴方を恨んでなどいませんでしたよ」


「…それは本当か?」


「えぇ…そうじゃなきゃあ、私に姉さんを助けてなんて言いいませんよ」


「静華が…そんな事を?」


「そうですよ。悲しそうな顔で私にそう仰っていましたよ」


「そうか…静華がそんな事を言っていたのか」


「私にも兄妹がいます。なので気持ちはよく分かるんです」


「吉備家の養子はお前だけだろう?」


「私は一方的縁を切ってきたんです」


「何故そんな事をした」


「色々理由があるんですが、もしそれを妹が知ることになったら、あの子は私を許さないでしょうね」


「…妹は大切か?」


「えぇ…この世で何よりも大切な存在であり、私の宝物ですよ」


「その気持ちがいつか届くといいな」


「だから時折、御二人を見ていると羨ましい。そう思う時があるんです」


「そうか?」


「私が見る限り御二人とも、姉妹で過ごす毎日がとても楽しそうなので」


「…お前は時折照れくさいことを言う男だな」


「私は、本心を伝えているだけですよ」


「お前は、妹には会わないのか?」


「私が家族を守るために下した決断であり、覚悟ですから」


「妹とはどれくらい会っていないんだ?」


「もう、3年になります。あの子がどんなふうに成長しているのか考える時があるんです」


「そこまで言うなら会えばいいだろうに」


「私があの子といると危険ですから、それに私はあの子や家族が幸せでいてくれるならそれ以上は何も望みません。それに私は師匠と出会った事も一条家の皆様と出会った事も何も後悔はありませんよ」


「なら、私はお前の家族に感謝しなければならないな」


「どうしてですか?」


「お前と出会えて心の底から良かったとそう思っているからだ」


「……」


「照れているのか?」


「そんなのじゃありませんよ」


「暁仁は嘘が下手だな」


「そうですか?」


「すまないが、今寒くてな強く抱き寄せてはくれないか?」


「いいのですか?」


「あぁ…頼む」


「わかりました」



 私は桜様を風があたらぬように上着を被せ強く抱きしめた。


「…温かいな」


「それは良かったです」


 京都の町の灯りが空を駆ける私達を照らす。恐ろしほど暗い闇にその存在を象徴するかのように…






























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