2話

私は今京都の北区にて喫茶店で珈琲を飲んでいた。本日から護衛の依頼があるが、訪問する予定までまだ時間があったためである。


ズー「うん、美味い」


 私は珈琲が好きだ。それだけじゃない、喫茶店にたちこもる珈琲豆のいい匂い、そして静寂の中で聞こえてくる人の日常的な会話、店に流れる洋楽ジャスというものだろう。孤児院から出てきて最初に知ったのがこの珈琲という飲み物が私の好物になっていた。


「珈琲は辛いことを忘れさせてくれる」


「何を忘れさせてくれるんだい?」


「!…貴方は?」


 前を向くと知らない制服を着た少女が同じテーブルの前に座っていた。全く気付かなかった、しかもいきなり見知らぬ人間の席に相席するなんて変わった子だな…あの制服は確か


「君、学校は?」


「私は学校に行っていないよ。君こそ制服からしてこの近くにあるお嬢様学校の学生じゃあないのかな?お嬢様が護衛も付けずに喫茶店に何しにきたんだい。」


「僕は、学校に行きたくなくてね。サボりたくて逃げてきたんだ」


「…御家にご迷惑をかけるんじゃないんですか」


「君こそ、同い年くらいに見えるけど親は一緒じゃないのかい?」


「僕は仕事でここにいるからいいんですよ…時間があるからこの喫茶店で珈琲を飲んでいるだけです」


「仕事?いったい何の?」


「私はこれでも陰陽師として活動していまして、本日からあるお家にお世話になる予定です。」


「ん?奇遇だね…僕の屋敷にも今日から護衛の陰陽師が来る予定なんだ。」


「ん?…」


「ん?…」


「本当に偶然ですね。」


「そうだね」


もしかして……


「失礼ですが、お名前をお伺いしてもよろしいでっ…」


「姫様!ここにいましたか、探しましたぞ」


 通路に目を傾けるとそこには着物姿の老人が立っていた。


「やぁ、爺お疲れ様」


「お疲れ様じゃありません。御身の立場をしっかり考えていただかないと…おや?貴方は」


「これは失礼、私は吉備暁仁と申します」


「あぁ、貴方が例の…今日からよろしくお願いいたします。私はこちらの女性に仕えております早川東凱と申します」


「では、やはり彼女が?」


「えぇ、今日から護衛していただく、一条家次女の一条静華様です」


「!…君が僕の護衛?」


「どうやらそのようですね」


「そっか、これからよろしくね」


「はい、よろしくお願い致します姫様」


「姫様、学校はどうするつもりですか!」


「えぇ~、行きたくないよ」


「しかしですな。姫様は御家の為にいつか嫁がれる身、基本的な教育を受けていだだけなければ家の名に泥をつけることになりますぞ」


静華様は少し、ムスッとした顔をした。


「東凱殿、確か今日は10時からそちらにお伺いの予定でしたよね」


「そうですが…それがどうかされましたか?」


「今は、9時です。どちらにしろ学校には遅刻、他の女学生にどんな目で見られるかわかりません。いっそ今日は休んでみてはいかがでしょうか。それに私自身恥ずかしながらここの土地勘に疎く案内していただければ幸いです。」


「しかし…」


「御二人共朝食は食べられましたか?よろしかったら好きな物をお頼みください。私の奢りで大丈夫なのでよかったらぜひ」


「いいの?」


「えぇ、いいですよ」


「やった~、僕喫茶店で食事何て初めてだよ。ありがとう」


「姫様なりません!一条家の令嬢とあろうものが外食など」


「東凱殿も遠慮なさらず」


「むっ…」


「ここの珈琲美味しいですよ」


「そこまで言うなら頂こう」


「爺、僕このパンケーキっていうの食べてみたい」


「ほう、では儂はこのたまごサンドなるものを頼んでみます。」


「わかりました」


私はテーブルの上にあるボタンを押した。


「はい、ご注文承ります」


「パンケーキ1つセットで紅茶をお願いします。あとたまごサンドのセット1つこっちはホット珈琲でお願いします」


「かしこまりました」


10分後頼んだ品がテーブルに置かれた。


「さぁ、御二人方どうぞ召し上がってください」


二人はそれぞれ食事に手を伸ばし食べ始める。


「ん〜、美味しい」


「ほう、これは美味い」


「喜んでいただけて何よりです」


「しかし暁仁殿、依頼した時間を過ぎてしまいますぞ」


「何を仰っているんですか?もう護衛の依頼なら始まっていますよ。」


「…貴方は中々食えない御方だ」


「ゆっくり食べてください」


 そうして私は二人の食事を見ながら楽しく話し合うのであった。

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