8話

2xxx年7月08日陰陽庁


「あ~、今日の残業は長引きそうだな」


「仕方ないだろ、3週間前の龍災の影響による飛行機の墜落原因がまだわからない以上は」


「つってもよ、今週休みなしだぜいくらなんでも働かせ過ぎじゃないか?」


「1級の化け物のが突然現れて消えたって話だから仕方ないじゃないか」


「まぁ、墜落つっても落ちてきたのは機体の残骸だけ…大部分は龍に喰われたときた。調査と言っても死亡者430人、生存者なし、証拠は龍の腹の中これをどう調べろと…」


「それにしてもいくらなんでも龍の出現は早すぎるだろ、どうせ海外の呪術師どもがなんかやったんじゃないか」


「それしかないと思うが…んっ?」


「どうした」


「霊脈の様子がおかしくないか?」


 もう一人の珈琲を片手に持ち探知機に顔を出すように覗いた。目に写ったのは大きく波打っている電波信号だった。


「そんなはず…これは!」ガチャン


「どうしました?」


「…は、早く長官に連絡しろ!」


「おい、これってまさか…」


「あぁ…1級霊災だ」



 孤児院から20キロ離れたとある森林地帯に光の柱が立ち昇る中1人の男が立っていた


「もうすぐだ、やっと長年練りに練った計画が実行できる…あの子が僕のものになるんだ。これを成功させればやっと、やっと…」


「何が成功するか教えてくれよ…橘兄ちゃん」


「!…なぜ君がここに…暁仁くん」


 橘孝介が振り返るとそこには刀を差した見知った少年が立っていた。



時を遡ること2日前の夜のこと…


「お休みお兄ちゃん」


「あぁ…お休み奈々」


俺は奈々をぎゅっと抱きしめた…


「どうしたの?お兄ちゃん」


「いや〜、奈々は今日も天使だなって」


「もう、何いってんのじゃあね」


奈々は部屋に戻っていった。


「暁仁、あんたどうしたのよ…」


「何が?」


ジー「もういい!」


「待ってくれ雪」


「どうしたの?」


「これ、秀一の部屋にある鍵付き金庫の中に入ってたんだペンダント3つあったから、よかったら一つやるよ」


「そっか、あいつ私達に渡そうとして恥ずかしくて渡せなかったのね…」


「多分な」


「ありがとう。もらっておくわ」


「俺は2つ貰っとく」


「よくばりね…」


「まぁな…じゃあお休み」


「うん、お休み」


次に俺は霞の部屋に行った


コンコンガチヤ「よう、霞」


「暁仁、レディの部屋に勝手に入るのはどうかと思いますよ〜?」


「あぁ、悪い悪いお前にこれをあげようと思ってさ」


 そういって渡したのは俺が昔愛用してたクマのぬいぐるみだった。


「これは…いいのですか?」


「いいよ、俺は流石にこの歳で使わないし」


「ありがとうございます〜暁仁」


「おう、そんじゃあお休み」


次に向かったのは、優斗と竜太の部屋


「よう!」


「君は、ノックという言葉を知っているのかな?」


「どうしたの暁仁?」


「わりいわりい、優斗…秀一の部屋から見つけたこれやるよ」


俺は、秀一が愛用していたキャップ帽を渡した。


「でも、これ貰ってもいいのかな?」


「あいつ、いなくなっちまったし何か俺達があいつを思い出せるもの持っておいたほうがいいだろう。それに…ホコリをかぶるより俺達に持っててもらったほうがあいつもいいだろうし」


「確かにね、これは使わずに部屋に飾っておこうかな」


「いいじゃねえか」


「暁仁、僕にはないのかい?」


「お前は、秀一がこっそり用意してた俺とお前用の勉強ノートだ」


「なんでさ!」


「あいつ俺達に隠れてこんなもの用意してやがったあいつなりに俺達を思って書いてくれたのがよくわかったよ。お前も読め」


「わかったよ、ありがとう」


「あと、これあいつの日記皆と読んでやれ中々面白かったぞ」


「へぇ〜、秀一兄さんが…暁仁君はいいのかい?」


「俺はもう読んだ、そんじゃあお休み」


 そして、夜中の1時を回った頃、俺は孤児院を荷物をまとめて抜け出した。


「お待たせ、師匠…」


「おう、暁仁」


「やぁ、あきとくん」


「土田さん…見送りに来てくれたんだ…」


「勿論だとも、制約には僕がいないといけないからね」


「そっか、改めてありがとう土田さん」


「いいよ、それにしても本来はあと2年あるだろう本当にいいのかい?」


「師匠の話では俺が陰陽庁の衛星カメラに映る可能性が高いって話だから俺がここを離れづらくなっちまうし、何よりも身元がバレる危険がある。今だったら師匠が拾った4年前の霊災被害で拾った子供って話で蹴りが尽くしさ今しかないでしょ、それにあいつらを守るためだから仕方ないよ」


「俺は孤児だから今戸籍がない状態だしちょうどいいと思ってさ」


「確かに、昔は市町村に子供拾った人間が登録しなければならなかったが色々と問題になったからね。孤児は13歳で自分自身の戸籍を作ることができる。あきとくんの年齢は対象外…それを逆手にとるわけだね」


「そういうこと、それでこれを行えば万事解決ってわけ…」


「荷物はそれだけかい?」


「…俺、余り物持たない趣味だし、他は他の奴にあげてきた」


「そうか…優しいねあきとくんは…ただこれだけは覚えていなさい。僕は君の幸せを祈っているだから君自身の幸せを諦めないこと。君が辿ろうとしているのはいわゆる裏の道どんな事があろうと膝を折らないこと、いいね」


 土田さんは笑顔でそう言った。だから俺は笑顔でこう返す悲しい別れは嫌だから。


「わかったよ土田さん」


「おい、あきと準備ができたぞ」


「わかった師匠今行く」


 俺は師匠の前に座り師匠は俺の頭に片手をおき唱え始めた。


「ヤオヨロズノカミニネガイタテマツル」


俺が思い出すのは、孤児院での楽しい記憶


「オノガサダメヲキメ」


あいつらは俺のことを忘れるんだ


「ナンジノミタマ」


 師匠の張った結界が街中に広がった。これでこの街の全員俺のことを忘れる


「タノミタマ」


あいつらはこれからどうなるのかな…


「コノトキヲモッテマジワリ」


優斗、竜太、霞ありがとう


「オノレヲ捨てン」


雪、ごめんな…約束守れずに


「これを持って制約とする」


師匠はそう最後にいい合掌を一回した


 あぁ…奈々俺の大切妹よお兄ちゃん行ってくるよ。また会ったとき皆で俺を怒ってくれ…


「……終わったぞ暁仁」


「うん、ありがと…師匠それじゃあ…行こっか」


「あきとくん…行ってらっしゃい」


「行ってきます土田さん」


 そして俺は師匠と共に孤児院を去った。師匠はこの時、俺が泣きながら歩いている事に気付いていたが収まるまで黙って見守ってくれた。



 そして、2日かけた準備を終え今に至る師匠には俺がピンチになるまで出てこないように伝えた。



そして、現在…


 「!…なぜ君がここに…暁仁くん」


「勿論…敵討ちに決まってるだろ」


俺は、橘孝介を真っ直ぐ見つめそう宣戦布告した。


















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