6話

「…は?今なんて」


「秀一くんが亡くなったそうよ」


その話をしたのは、卯野さんだった。俺と雪、竜太、霞、優斗が自習室に集められその話を聞いた。


「…嘘」


「嘘だよな、嘘に決まってる。だって、あいつまた会おうって言ってたはずだ…それにあいつがそう簡単に死ぬはずがないだろ」


「…なんで亡くなったんですか?」


 そう切り出したのは優斗だった。今にも泣くのを堪えているような顔で卯野に聞いた。


「秀一くんの里親は、九州に家を構えている方でね、九州に向かう際に乗車していた飛行機が襲われたとの話よ」


「一体何に襲われたというのですか?」


「龍に…襲われたそうよ。龍は雷雲を操り、嵐と共に現れる1級指定に分類される魍魎よ」


「1級そんなものがなんで急に現れたんですか!」


「落ち着くんだ優斗、僕達が騒いでも仕方がないことだろう」


「実際に龍が出現した理由は現在陰陽庁が調査中とのことだけれど正直わからないことのほうが多いらしいわ」


「なんであいつが死ぬんだよ。やっと自分の幸せ掴める環境を手に入れて、将来なんてレールがほとんどない俺達は誰かの救いが少しでもないと生きられないでも誰も救っちゃくれないから孤児院の皆で支え合って生きてる…俺達にも心はあるんだぞ傷ついて傷ついて傷つきまくるだけの人生が俺達の人生だとでも、ふざけるな。やっとあいつが自分の人生に目的を見つけられるようになるって時になんでそうなるんだよ」


俺は何かにぶち当たりたくて仕方がなかった


「落ち着いて下さい暁仁!」


「霞…」


「皆悲しいに決まっているでしょう。少しは落ち着くことができないのですか!」


「「「……」」」


「私、ちょっと外すわ」


そういって雪は部屋から出ていった…


「くそっ、くそっ、くそっ…」


「暁仁、君が今やるべき事は下を向いて泣くことかそこまで行くと見下げ果てるぞ」


「うるせえ、竜太お前は悲しくないのかよ」


「…悲しいに決まっているだろ。けど、今君がやるべき事は雪姉を追いかけることじゃないのか?君が…君達2人が一番長い時間、一緒に秀一兄といたんじゃないのか…今の雪姉の気持ちをわかってやれるのはこの場にいる僕達じゃない。君なんだよ」


「…!」


「行くんだ暁仁」


「あぁ、ありがとよ竜太」


 俺は溢れる涙を腕で拭い竜太に言われた通り雪を追いかける。


「どこだ?部屋中探しても何処にもいないぞあいつ」


「お兄ちゃん」


「奈々、雪を見なかったか?」


「雪お姉ちゃんなら外が土砂降りなのにグラウンドに出ていくの見かけたよ」


「そうか、ありがとう」


「何かあったの?」


「嫌〜、雪と喧嘩しちまってさアイツ無茶苦茶怒っちまってよ…」


「そうなんだ…それじゃあ早く謝りに行ってよね。私も後で謝ってあげるから」


「はい、はいありがとよ奈々、行ってくるわ」


「行ってらっしゃい」


 奈々から話を聞き俺はグラウンドに向かった。六月梅雨真っ只中であったため視界が見えないほど外は土砂降りだったが、グラウンドの奥の方に棒立ちになってる雪を見つけた。


ペチャッペチャッペチャッペチャッ「風邪ひくぞ雪」


「……私、秀一の事が好きだったの」


「知ってる」


「あいつ、普段クールぶってるくせホントは皆に優しくて、負けず嫌いで努力家で、頑固で一途でそんなところに私は惹かれたの…でもなんでだろうね」


「…雪?」


「暁仁…泣きたいけど余り誰にも観られたくないんだけど、どうしたらいい?」


「そっか…でも今この雨だし声もここまで近づかないと聞こえないしよ。孤児院までは聞こえないんじゃないか?」


「そうかな?」


「おう」


「暁仁、両手を広げて…」


「おう…」


 俺は雪に言われた通り両手を横に広げた、そこに雪が俺の身体に抱きつく


「抱きしめて…」


「おう…」


 俺は雪の身長のほうが高いが自分が出せる精一杯の力で抱きしめた。


「ウッッッ、うぅぅぅ暁仁ー!秀一が秀一が死んじゃったよーーーあぁ〜〜〜秀一が死んじゃったよ〜」


「クッ…アァそうだな」


 俺達2人は溢れんばかり涙を流した。泣いて泣いて泣き続けた…その泣き声は雨が掻き消しているかのように思っていた以上にグラウンドに響かなかった。


次の日俺達2人はというと…


「ゴホッゴホッ、ゴホッゴホッ」


「全くあなた達はあんな大雨のなか風邪なんか引いて…しばらく療養室で過ごすことわかった!」


「「はーい」」


「じゃあ、私は行くわね。ご飯は外に机設置するからそこに置いておくわね、2人共38℃の熱があるんだから休むこと」バタン


「全く世話が焼ける」


「ごめんね、暁仁」


「まぁ、いいけどさ…」


「……」


「……あのさ、今あんた私の布団に来れる?」


「………は〜〜〜あ!」


「いいから早く」


「……わかったよ」


 俺は恥ずかしくもドキドキしながら雪の布団の中に入った。雪は俺を抱き締め始めた…


「暖かいね…」


「そうだな…」


「暁仁…」


そういって雪は俺の唇にキスをした…


「あんたは居なくならないよね。」


「あぁ…」


 俺はこれ以上雪の慰め方がわからずにいた為全てを委ねた。それでもこいつが求めてるのは俺じゃない事は分かっているのに居なくならないなんて嘘までついて…俺は、いいや俺達2人は間違えを犯していく2人だけの間違えを……お互いの傷を残すかのように

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