5話
「んっ………ここは」
「療養室だよ」
「橘兄ちゃん…うっ」
目が覚めた俺にうつったのは、見るからに怒っている橘兄ちゃんだった。
「目が覚めたようだね…何を言いたいか分かるかな?暁仁くん」
「いやっ…その…すみませんでした」
「模擬戦で殺すつもりはなくても武器を使用するなんて何を考えているだい?」
「はい」
「反省してくれてるようで良かったよ…君が何かしら理由があってやったことだろうとは思うけどね…理由があるにしろ、ないにしろ見過ごすことはできない。次やったら君の模擬戦参加を容認できないからね…わかったかい?」
「はい…すみませんでした」
「…お小言ここまでにして、あの模擬戦はとても良かった。君と秀一くんの強さは2級クラスと言ってもいいだろう本当に素晴らしかった」
「2級…橘兄ちゃんと同じ?」
「僕は、君達の教育をしつつ1級資格を取ったからね。今は1級陰陽師かな」
「うげっ…要領よすぎじゃないか橘兄ちゃん」
「それじゃあ、あとは当人同士の話合いということで僕は失礼するよ」
橘兄ちゃんは療養室から出ていった。そして俺は隣に目を向ける…
「お前も橘兄ちゃんに怒られたのかよ。秀一」
「お前と一緒にするな暁仁」
「……」
「……」
……気まずい、どう話しを始めたらいいかね。
「俺とお前は引き分けだったわけだが、お前のお願いを聞くかどうかは別の話だ」
「チッ…そうかよ」
「引き分けだからお互いの要求を聞くのはどうだ?」
「……わかったよ。お前の要求はなんだよ秀一」
「…お前の言う通りだよ。俺達は普通の友達とも違う家族同然の存在だ。」
「だったら…」
「家族だからこそ言いにくいことがあるだろ、俺も寂しいんだよ。お前や皆と別れるのが…」
あぁ、そうか俺のこの感情は寂しいんだ。こいつとの思い出が何よりも大切だから…秀一も皆が大切だから…だから俺もあいつらの記憶の封印をお願いしたんだ。俺が我慢すればそれでいいと思って…いいや違うな。
「嫌…言い訳だな、あいつらと向き合うのが怖かったんだ…お前もそうだろ暁仁?」
「…あぁ、そうだな」
「だから俺も例の件を黙っていようと思ったが…辞めだ話すことにする。それとお前が言ったように雪の気持ちにも答えを聞かせなきゃならない。だから…お前が皆を守れ約束だ暁仁」
そういって秀一は拳をこちらに突き出してきた…
あぁ、なんだよ結局こいつも同じ気持ちだったのかよ。全く…俺達はつくづく硬い糸のように繋がっているんだな。これを人は絆と言うのだろな…
「わかったよ。約束だ」
そうして、俺は秀一の拳に自分の拳をコツンとぶつけた。
ガチヤ「お兄ちゃん聞いたよ。模擬戦で無理したんだってそれに皆に迷惑かけたって聞いたよ。何してるの?」
そうドアを開けて入ってきたのは、1人の少女、6歳になった奈々だった。
「奈々…これには理由があってだな」
「お兄ちゃんは黙ってて、ごめんね秀一兄うちの兄が迷惑かけたみたいで大丈夫?」
「嫌、もう仲直りしたから大丈夫だ。それより皆を学習室に集めといてくれないか話したいことがあるんだ。頼めるか?」
「わかった。秀一兄の頼みだからね。皆を集めとく」
「あぁ、ありがとう」
回復した秀一は皆に話した。もうすぐ自分がいなくなることを、里親に引き取られることも全て…
それに対する反応は様々だった。祝福する人間、寂しそうに下を向く人間…そして雪は寂しそうに笑っていた。
「雪、話がある。外で話せるか?」
「わかった」
皆見に行こうとしたが、俺はそれを止めた。あいつら2人の話を邪魔されないように…
そしてあれからあっという間に一ヶ月が過ぎ、皆秀一との思い出を作るように楽しい時間をすごした。
50代のスーツを着た男性が秀一の迎えにきていた。
「じゃあな、皆」
「秀一兄さんまたね」(グスッグス)
「泣くんじゃないよ。優斗、君は寂しがりやだな、あれ目から水が…」
「それでは、お元気で秀兄さん」
「霞お姉ちゃん、相変わらず笑顔のままだよね。またね、秀一兄」
「それじゃあね。秀一」
「あぁ、雪、皆ありがとう」
「…」
「あんたもなんかいいなさいよ」
「暁仁」
「なんだよ」
「約束を忘れるな」
「!…おう」
「それじゃあ」
そういって、秀一は、この孤児院を去っていった
「行っちゃったね」
「雪、秀一と2人で話した時あいつなんて言ってたんだよ?」
「待っててだって、迎えにくるからって言ってたわよ。全く、不器用なんだから秀一は…」
「そっか」
そして、1週間が立つ頃…秀一の訃報を聞いた。
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