3話

俺は今日も師匠から指導を受けている。


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」


 俺は必死で呼吸を繰り返し落ち着かせようとしていた。


「よし、今日はここまでだな」


「今日は珍しく早くないか?」


「何、古式陰陽術について新たに2つ教えようと思ってな」


「あれだけじゃなかったのかよどんだけ覚えればいいんだ全くきりがねえ」


「陰陽師は毎日が探求と勉強の繰り返しだ甘いこと言ってんな」


「それで新しく教える事ってなんだよ師匠」


師匠は笑顔で説明を始めた。


「まず、1つ目は固有式陰陽術についてだ」


「固有式陰陽術?」


「そうだ、自分で開発する固有式のことだ」


「それで何がいいんだよその固有式だっけ今でも十分だと思うんだけど?」


「実はこの固有式はオリジナルで札と祝詞を一から作らなければならない無茶苦茶難しい陰陽術なんだ今のお前さんじゃ作るのに何年かかるがわからんが固有式はそれぞれ特有の効果をもつそれは誰にも真似できない。陰陽師個人としての象徴そのもの特級陰陽師でも使える人間は数が少ない。固有式は難しいがどれも強力だ」


「そういやあ、日本の特級って何人なんだよ」


「俺を合わせて18名だな」


「2000万人中18名だけかよ」


「まぁそのうちで固有式を使えるのは6名だ」


「何で固有式がそんなに難しいだ?」


「一から作るってのもそうだが法則そのもの触れなけりばならないから難しいだ」


「法則?」


「人間には本当に稀に第六感ってのに目覚める人間がいてな…世界の法則に触れ事象そのものに干渉する人間のことだ」


「それって人がゾーンとかって呼んでるものなの?アスリートとかがなる状態って本で読んだけど…」


「あぁ、あれは五感が研ぎ澄まされた状態に過ぎない六感はそんなものじゃない次元が違う固有式の使う人間は特殊だ例えば人体の何処かに異常が発生する大体が目に対してが多いな、例えば数秒先の未来が見えたりとか空を飛べるようになったとかな本当かどうかは知らんがな」


「それで何で俺にそんな事教えてくれるんだよ」


「お前さんがその内そこに至ると思っているからだ。俺は何年かかるかと言っただろう」


「なるほどね。じゃあ俺がその六感ってのにいつか目覚めて固有式を完成させてやろうじゃないか」


「その意気やよし」


「それで2つ目って何?」


「古式陰陽術には印と札を使用しない祝詞だけのものがある。それをいくつか教えてやろうと思ってな。ただどれも覚えるのが大変だから覚悟しろよ」


「マジかよ…だから俺に剣術教えてたのか」


「おっ、察しがいいなその通り」


「だろうと思ったよ。師匠が何かしら別の目的で俺に剣術を教えてるんだろうなってのは気づいていたよ。それで、その祝詞って…?」


「それじゃあ今からそれをお前さんに教えていくぞよく聞いておけよ」


「あぁ、よろしく頼むよ師匠」


そうして、師匠の指導は夕方まで続いた。


「は〜、疲れた、ただいま」


「あれ?」


 玄関には珍しく誰もいなかった。ただ、玄関横にある応接室に明かりがついているのが見えた…俺が通り過ぎようとした時、話し声が聞こえてきた。


「はい、この子をうちの子供として迎え入れたいのです」


 聞こえてきたのは見知らぬ男性の声だった。俺は嫌な予感がした


「わかりました。秀一くんをそちらに迎え入れたいとのことですね…本人には?」


「里親制度で何度か会っているので、本人はその旨話てあります」


「わかりました。本人にもそのようにお伝えしておきましょう」


「えぇ、よろしくお願いいたします」


 俺はその場から動けなくなった。あいつがいなくなる?じゃあ、雪はどうするんだよ…そんな考えが浮かび上がると共にあいつが最近優しくなり始めたのってもしかしてそう記憶をなぞり始めやがて結論にいきついた。


「あいつ、もしかして知っていたのか…自分がもうすぐいなくなることに」


 リーンゴーンと食事の鐘の音が響くとともに俺の心に何かしらの感情が呼び起こされるのを感じる。この感情は何なんだろう…怒りではないもっと別の何なのだろう、それにこれを他の奴に伝えてもいいのか?


 ただ鐘の音と共に時間だけが過ぎていく、俺は床に向かって顔を下に向けながら無意識のうちに食堂まで足を運ぶのだった。





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