決意

 金曜日、夜八時ーー

アリスタ小ホールに舞はいた。


全体のリハーサルが終わりホールには舞の他に誰もいない。

小ホールの一番正面の席に赤い花束をおいた。


舞台は定点スポットで仄暗い明かりがあたっている。

そこにバレエ衣装をまとった舞が立っている。


後方のドアが開きカイトが入ってきた。


舞は舞台の上から席へと誘導した。

カイトが着席するのを待ってゆっくりと言った。


「本日は鈴原舞のオリジナルコンサートへお越しくださいまして誠にありがとうございます。

今日は私、鈴原舞の産まれたままの姿をカイトに見てもらいたくてここに来てもらいました。先日、私がお願いした私だけの盆栽を作るうえで、カイトへの愛を表現したくて、そして、感じてもらいたくて、このような機会を設けました。カイト……大好きです」


そう言い終えると、スポットから一歩下り、衣装を全て脱ぎ捨てて結った髪をほどき舞はスポットライトの中に立った。


「カイト……ありのままの私を感じてください……」


曲がゆるやかに流れ始めた。


舞はこの日のために準備したコンテンポラリーダンスを光と影を使い分けながら舞った。


胸を突き出し、腰をそらせ開脚をして妖艶に心の内を表現した。


曲が終わるとスポットライトが消えて暗闇がホールを包み込んだ。


息づかいだけが聞こえる。


そして少ししてホールの明かりがついた。

まだ余韻の残る中、バレエ衣装を身に付けた舞が舞台の中央に立った。


カイトは座ったまま動けないでいた。


「どうでしたか?私の思いは伝わりましたか?私の願いは届いたでしょうか?……」


カイトは作品に思いを馳せるとき腕を組み瞑想する。そうすることで心が鎮まり作品の形が浮かび上がってくるのだ。

カイトは静かに目を閉じた。

そしてスッと立ち上がり赤い花束を舞に渡した。


「ありがとう。舞の愛が僕のここに届いたよ」


カイトは胸を軽く叩いた。

そして言った。


「素晴らしい作品ができそうだ。今の僕の思いを込めた世界でたった一つの作品がね……」


そう告げるとカイトはホールを出て行った。

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