第1話 衝撃②
船橋東中のフォーメーションは4−2−3−1
北野はトップ下。
南野は右サイドバック。
黒龍中のフォーメーションは4−3−3
佐竹は右ウイング
原口はセンターバックだ。
試合が始まると、黒龍中の大きな声援が聞こえる。
船橋東中にとって完全アウェー。
原口が右サイドの裏にロングボールを蹴る。
船橋東中の左サイドバックがロングボールをヘディングで跳ね返そうとするが、
スルッ
ヘディングは上手くボールをミートせず右サイドの裏にボールが行く。
ピタッ
ボールの回転を完璧に吸収する見事なトラップ。
右ウイングの佐竹にボールがわたる。
ボールを持つと、すぐにボールを運びゴールに迫っていく。
ザワザワ ザワザワ
会場の声も大きくなる。
佐竹がボールを持つと会場の歓声が聞こえてくる。
船橋東中のセンターバックが佐竹にプレスをかける。
佐竹は右利き。
佐竹はボールを右足に置き、クロスを蹴ろうとキックモーションに入る。
ズルっ
センターバックがクロスをブロックしようと、スライディングをする。
タッ
しかし、佐竹の方が上手だ。
キックフェイントで佐竹がセンターバックを抜く。
そのまま、中に入ってペナルティエリア内に入る。
ボールを左足に持ち替える。
佐竹がシュートを打とうとキックモーションに入る。
北野「キレイだ。」
北野が思わず声を出す。
ドーン
佐竹が左足でシュートを打つ。
ボールの軌道は綺麗な放物線を描く。
ゴール
シュートはゴールの隅へと入っていった。
『おー!!!!!』
観客席の人たちも歓声を上げる。
佐竹はゴールを決めたが嬉しそうではなかった。
南野「切り替えよう!まだ1点!時間あるよ!
こっから、こっから!」
南野はチームを鼓舞する。
南野が北野の方を見ると
「どうした、吾。」
北野は顔は南野が見たことのないような顔だった。
北野「すげぇー。
右利きのはずなのに、逆足で、、、あんなキレイなシュートフォーム、、、
いったいどれだけ練習したんだ。」
北野は佐竹に感激を受けていた。
北野「俺はあの選手を才能があるから上手いんだと思ってた。
でも、違う。
努力してる。俺の方が下手くそなのに、俺よりよっぽど努力してる。
普通の凡人の選手に比べたら才能はあるのかもしれない。
でも、調子に乗らずに真面目にひたむきに練習して上手くなってる。
だって、そうしなきゃ逆足であんなキレイなシュート打てないよ。」
北野は人生で初めて受けた大きな衝撃だった。
その後も試合は続くが、さすが強豪校というべきだろうか。
北野にもなかなかボールが入らない。
船橋東中は黒龍中になす術なく、ボールを奪われ、追加点を2点、3点、4点と奪われた。
そんな強豪校の選手に対して、唯一戦えている選手がいた。
それはキャプテンの南野だ。
相手の左サイドの攻撃は今日すでに何回も止めている。
黒龍中の左ウイングの加藤大地がボールを持つ。
南野がすぐに寄せる。
1対1
ポッ
加藤がボールを縦に大きく蹴り出し、スピード勝負で縦突破を狙おうとする。 が、
南野の方が速く、南野が先にボールに到達しボールを奪った。
ピッ ピー
南野がボールを奪うとともに、審判の笛が吹かれた。
前半終了の笛だ。
選手たちがベンチに戻る。
船橋東中の雰囲気はとても悪い。
悪いというよりかは諦めている雰囲気だろうか。
前半で4点差も取られてしまったら仕方がないだろうか。
キャプテンの南野はどんな言葉をかけたらよいか分からない。
すると、思わぬ選手の口が開く。
北野「とりあえず、1点は取ろう。」
船橋東中の全員「え! え!」
北野がそんなこと言うとは思っておらず、全員が驚く。
南野「どうした北野?」
北野「俺がなんか言って悪い?」
北野は少し不機嫌になる。
南野「いや、まさかおまえからそんな言葉聞くとは思っていなかったから、どうした?」
北野「なんか、あっちの10番のプレー見てたら1点取りたくなっただけ。」
南野「おまえ、最後の大会でついに10番のプライドってやつを持ったのか!」
北野「やめて、そういうの。」
全員「ハッハッハ。」
北野の思わぬ発言からチームの雰囲気が良くなる。
南野「いくぞ 後半!」
全員「おー!!」
ピー
4-0で黒龍中がリードして後半が始まる。
前半よりも船橋東中のプレスの速度が上がる。
守備の強度も上がっている。
原口「(普通なら後半も戦意喪失して、圧倒できるんだけどな。
こんな相手初めてだ。)」
原口は初めての体験で少し驚く。
ボン
船橋東中のセンターバックがフォワードにロングボールを蹴る。
フォワードと原口が競り合う。
フォワード「こんなとこで負けてたまるか!」
ボン
フォワードが原口にロングボールで競り勝ち、ヘディングでトップ下の北野にボールを託す。
北野がフリーでボールを受ける。
今日、初めて北野が良い形でボールを受ける。
北野がドリブルでボールを運ぶ。
そのドリブルには力が感じられなかった。
謎の男「あの子、すげぇ脱力感。」
北野のドリブルには力が感じられない。
しかし、速い。
南野「こいつのこのヌルヌル感で俺たちは何回も救われてきた。
いけ、北野!」
北野がゴールに迫っていく。
北野は右利き。
ゴールまで15m 位置は右45度
黒龍中のセンターバックが寄せる。
スル
北野がインサイドで中にドリブルする。
そのままゴールに向かっていく。
センターバック「(なめんな。簡単に崩せねえぞ。」
センターバックが北野にボールを奪いに行く。
スルッ
北野がターンしてセンターバックを抜く。
『うおー!』
まさかのプレーに会場が沸く。
そのまま北野がペナルティエリア内に侵入する。
佐藤「させるか!」
黒龍中の左サイドバック、佐藤迅がカバーで北野に寄せる。
北野「見えてるよ。」
ポン
北野が佐藤の頭上を越すループパスを出す。
そこに走り込んでいたのは右サイドハーフ。
右サイドハーフがボールを受ける。
北野がすぐにゴール中央に入る。
右サイドハーフ「後は頼むぞ、北野!」
ボン
右サイドハーフが中に速いクロスを蹴る。
クロスの先は北野。
北野「(俺は多分、普通のサッカー部と違うと思う。
普通のサッカー部なら陽キャで彼女も作って楽しい学校生活送ってると思う。
でも、俺は
学校の生徒
「あの子、サッカー部らしいよ。」
「全然見えない。」
「上手いのかな。」
「いや、下手くそでしょ。
あんなやつ。」
それでも俺が学校に行けたのは
南野「部活いくぞ、北野!」
仲間がいたからだ。
だからこのシュートだけは絶対に外せない。」
ボールが北野にくる。
シュートフォームに入る。
ドン
ダイレクトでシュートを打つ。
少し大振りのシュートフォームだ。
バーン
シュートはバーに当たる。
ゴールは入らない。
北野「マジ、か。」
北野は呆然とする。
南野「大丈夫だ。
ナイストライ北野!」
船橋東中の選手「次は決めようぜ!」
北野「なんで俺のこと責めないんだよ。」
佐竹「1回戦にこんなやついるんだ。」
そのまま試合は経過し、船橋東中は追加点を2点とられた。
ピッ ピッ ピー
試合終了。
0-6で黒龍中が勝利した。
船橋東中サッカー部の3年生にとって、これが中学最後の試合となった。
佐竹「せっかく、面白そうだと思ったのにな。」
試合が終わり、両チームともベンチを去った。
船橋東中は監督から話しを聞き、着替えて解散した。
北野と南野は試合会場の外で帰りの車を待っていた。
南野「引退だな。 あっという間だったな。」
北野「ごめん。 シュート外して。」
南野「なに謝ってんだよ。
4点差あったんださすがに勝てなかったよ。」
北野「でも、」
南野「俺決めた! 黒龍高校入る。」
北野「え?」
南野「もともと強豪校に入ろうと思ってたんだけど
今日で決めた。
黒龍高校に行く。
あんな強いやつらと練習できたらめちゃくちゃ上手くなるじゃん。
おまえはどうするんだ。」
北野「俺は初めて、こんな悔しいと思った。
もっと真面目にサッカーすればよかった。
夜ふかしやめて、もっとちゃんと、」
北野の目には涙が光る。
北野「みんなともっと一緒にサッカーしたかった。」
謎の男「そこの泣いてる少年。」
北野「え?」
北野が声の方を向く。
謎の男「ちょっと話したいことあるんだけど、いいか?」
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