第20話 辺境の決戦
辺境の大地に立つ俺たちの前で、砦は既に半壊していた。
焼け焦げた匂いが鼻を刺し、黒煙が空を覆っている。
「……これが、魔王軍の仕業か」
アリシアの剣がぎり、と音を立てた。
「負傷者を優先的に保護しないと!」
ミリアが駆け出す。俺は慌てて声を張った。
「ちょ、待て! まだ敵が残ってるかもしれないだろ!」
その瞬間、砦の瓦礫の影から現れた巨体。
黒い鎧を纏い、赤い双眸がぎらりと輝く。
「……人間の勇者か。噂通り、鍋蓋を武器にする愚者らしいな」
「だ、誰が愚者だコラ! ……いやまぁ、鍋蓋は否定しないけど!」
幹部の一振りの斧が地面を割り、衝撃波が走る。
「ひっ!?」
俺は反射的に鍋蓋を構え――
「――ぐぉぉぉ!?」
なぜか衝撃波が逆流し、幹部自身を吹き飛ばした。
「えっ……今、何したの!?」
「お、俺にも分からん!」
土煙の中、幹部がよろめきながら立ち上がる。
「面白い……だが、その奇跡、二度は通じんぞ!」
「おいユウト、次はどうするんだ!?」
アリシアが叫ぶ。
「ど、どうするとか聞くな! 鍋蓋任せだぁぁ!」
幹部の斧が再び振り下ろされ、大地が震えた。
「リオル! 援護を!」
「了解。魔力障壁、展開」
青白い光が俺たちを包み、衝撃を和らげる。
「ミリア! 負傷兵を!」
「はいっ!
光が傷を癒やし、兵士たちが再び剣を取る。
「勇者ユウト! 次の一撃に備えろ!」
アリシアが剣を構え、俺の背に声を投げる。
「言うのは簡単だけどさ……こっちは鍋蓋しかねぇんだよ!!」
幹部が全身の魔力を解放し、斧を高々と掲げる。
「愚者の奇跡など、力の前に踏み潰される!」
黒い奔流が迫る瞬間、俺は思わず叫んだ。
「鍋蓋ぁぁぁ! がんばれぇぇぇ!」
――ギィン!
耳を裂く金属音とともに、鍋蓋が眩く輝いた。
そして衝撃波は弾かれ、まるで鏡のように跳ね返る。
「ぐはぁぁぁぁぁっ!!」
幹部の巨体が吹き飛び、砦の壁にめり込んだ。
静寂。
風に煽られた煙が晴れると、兵士たちが一斉に声を上げた。
「勇者様が倒したぞ!」
「辺境は守られた!」
「奇跡だ! 本物の勇者だ!」
「いや、違うから! 俺じゃなくて鍋蓋が勝手に……!」
必死に否定する俺を、アリシアが微笑みで遮る。
「もういいのよ。結果がすべて。あなたは勇者なの」
ミリアが涙ぐみながら頷き、リオルですら口角をわずかに上げた。
「統計的に見ても、君は人類最大のジョーカーだ」
「ジョーカーって褒めてんのか!?」
こうして辺境防衛戦は勝利に終わった。
俺は空を見上げる。
「……俺、本当に勇者なんか?」
鍋蓋がカランと鳴り、まるで答えるように輝いていた。
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