第19話 勇者パーティ、辺境へ
王都の大広間。
玉座の前に並んだのは俺と――新しく集められた仲間たち。
「勇者ユウト殿。王国は正式に、貴殿を辺境防衛の任に就ける」
王様が荘厳に告げると、俺の背筋はぴんと伸びる。
「……い、いやその、俺、鍋蓋しか持ってないんですけど」
「心配するな。仲間がいるではないか」
振り返ると三人の仲間がにこりと笑った。
「私はアリシア。王国騎士団の若き剣士。あなたを守るのが役目です」
「僧侶ミリアです。回復も支援もお任せください」
「……リオル。魔導士。興味があるのは戦果のデータだけだ」
「いや、なんで最後だけテンション低いの!?」
場の空気がちょっと緩む。だが、王様は真剣だった。
「勇者よ。辺境には魔王軍の幹部が動いているとの報告がある。貴殿らの任務は王国の命運を担うものだ」
「……え、幹部!? いやいやいや、いきなりラスボス格じゃないの!?」
宰相がすかさず言葉を継いだ。
「安心されたし。鍋蓋を振るう貴殿なら必ずや……」
「だから何で俺の武器鍋蓋で定着してんの!?」
こうして俺たちは、王都中の喝采を浴びながら、辺境派遣の命を正式に受けた。
だが、その陰で――。
「……ついに勇者が動くか」
暗がりの中、フードを被った魔族が低く笑う。
「辺境で勇者を潰せば、王国の希望は絶たれる。魔王様に勝利を」
翌朝。王都の大通りは人で埋め尽くされていた。
「勇者さま、がんばってー!」
「辺境を守ってください!」
沿道から飛んでくる歓声に、俺は思わず苦笑した。
「いやいや、俺そんな大層な人間じゃ……」
「ユウト、胸を張りなさい。今やあなたは国の希望なのよ」
隣で馬に乗るアリシアが、きっぱり言い放つ。
「わ、私も全力で支えますから!」
ミリアが手を合わせて祈るように笑う。
「……データ的に言えば、辺境戦は魔族の大規模進軍の予兆。危険率は高い」
リオルが冷静に呟く。
「やめろリオル! 今だけは危険率とか言うな!」
馬車の後ろでは荷物の中に――俺の相棒、鍋蓋がちゃりんと揺れた。
◇
城門を抜ける瞬間、俺は振り返った。
王都の高い城壁。見送る無数の人々。
「……なんで俺が勇者なんだろ」
呟くと、アリシアが小さく笑った。
「あなたが選ばれたからよ」
「でも俺、戦ったことほとんど偶然で……」
「その偶然を、みんな“奇跡”って呼んでるの」
返す言葉に詰まる俺。
◇
一方その頃、辺境。
黒煙を上げる砦跡に、魔族の軍勢が集結していた。
「……勇者が来るか。ならばここで潰す」
漆黒の鎧に身を包んだ魔王軍幹部が、血のように赤い瞳を光らせた。
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