第18話 『王都評議会の呼び出し

  学院襲撃の翌日。俺は早朝からリリアに叩き起こされた。


「ユウト様! 支度を! 急いで!」

「……なに? また魔族? 今度は南門爆破?」

「違います。今度は……王都評議会からの“召喚”です」

「償還からの召喚ってややこしいな!」


 馬車に揺られながら王城へ向かう。

道中、やたらと市民から視線を浴びる。

「あれが学院を救った勇者様だ……」

「まだ少年に見えるのに、魔族を一掃したらしい」

「伝説は本当だったんだ!」


「ちょ、もう噂広がんの早すぎ! 昨日の今日だろ!?」

「勇者ですから」

「便利ワード禁止!!」


 王城の大広間。豪奢な天井画の下、十数人の貴族と大臣が居並んでいた。

その中央に立たされる俺。

「……これが件の勇者か」

「鍋蓋一つで学院を守ったと聞く」

「真偽を確かめる必要があるな」


 鋭い視線が突き刺さる。

俺は思わず背筋を伸ばした。


「ユウト殿、学院での武勇、確かに報告は受けている。だが……」

「……だが?」

「王国は今、魔王軍の侵攻に揺れている。勇者として本当に力を持つのか、ここで証を見せてもらおう」


「え、今ここで!? 俺、試験とか超苦手なんだけど!?」



 俺の前に鎖で縛られた魔族の囚人が引き出された。

「こいつは下級兵だ。勇者殿、恐れることはない」

「いやいや! “恐れることはない”って言う奴に限ってヤバいやつ出すだろ!」


 兵士が鎖を解いた瞬間、魔族は唸り声を上げて突進してきた。

「うぉぉぉおお!」

「ぎゃああっ! 近い近い近い!!」


 とっさに鍋蓋を突き出す俺。

ガキィン!

次の瞬間、魔族の拳は粉砕され、反動で自分自身が吹っ飛んで壁にめり込んだ。


「……え?」

「な、なんだ今のは……」

「鍋蓋が、魔族を砕いた……!?」


 会場がざわめく中、俺は必死に否定した。

「ちょ、違うんだって! 俺が強いんじゃなくて、こいつが勝手に自爆しただけだから!」

だが誰も聞いちゃいない。


 王国宰相が深々とうなずいた。

「――確かに見た。勇者は真に王国の守護者なり」

大臣たちも次々に立ち上がり、拍手が広がる。

「万歳! 勇者万歳!」

「鍋蓋の勇者、ユウト殿に栄光あれ!」


「いや鍋蓋は外して! せめて名前で呼んで!」


 こうして俺は評議会公認の“正真正銘の勇者”とされ、否応なく国を背負わされることになった。

だが、その裏では――。


 評議会の片隅で、黒衣の使者が薄く笑みを浮かべる。

「……順調に祭り上げられているな。勇者よ、いずれその背に潰れるがいい」

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