第2話 王都スライム暴走、モップで一掃!?

 召喚から数日後。

 俺――天城ユウトは、王都の宿舎で仮住まいをしていた。毎日「勇者様」と呼ばれているが、実感はゼロだ。


「はぁ……飯は美味いしベッドはふかふかだし、最高だけどさ」


 問題は、何をすればいいのか分からないこと。俺に戦闘経験はないし、勇者っぽいスキルも無い……いや、《掃除》くらいはあるかもしれないけど。


 そんなことを考えていた矢先――。


「きゃあああっ! スライムだああ!」


 王都の広場から悲鳴が上がった。

 窓を開けると、透明のゼリー状モンスターが群れを成し、家々の壁を覆っていた。


「スライムごときに……!? 兵士は何をしている!」

「数が多すぎる! 溶解液で防具が……!」


 鎧を溶かされた兵士たちが後退する。王都の人々は必死に逃げ惑っていた。


 ――マズい。俺、何もできないぞ。


「勇者様!」

 そこへ駆け込んできたのは王女リリアだった。息を切らしながら俺の手を取る。

「お願いです! あの魔物を……どうか!」


 俺は混乱した。勇者扱いされているが、戦えるスキルは皆無だ。……ただ、手にはモップと宿舎のバケツが残っている。


「……よし、とりあえずやってみるか」


 半ばヤケクソでモップを片手に広場へ走った。


 そこには、地面一面に広がるスライムの群れ。粘液を振りまき、触れた物を次々と溶かしていく。

 兵士たちは後退、魔導士は呪文の詠唱が追いつかない。


「勇者様!? 単身で挑まれるなど無謀です!」

「いや、別に挑んでるわけじゃなくて……掃除?」


 俺は溶解液でドロドロになった石畳をゴシゴシと拭き始めた。

 ――すると。


「え?」


 磨いた場所からスライムの体がジュワッと蒸発し、跡形もなく消えていったのだ。


「な、なんだこれ!?」

「勇者様の一振りで……スライムが……!」


 魔導士も兵士も唖然。俺は焦りつつも、無心でモップを動かした。


 ――キュッ、キュッ。

 磨くたびにスライムが分裂することなく消滅していく。


「よ、よし! こうなったら全部拭いてやる!」


 俺は走り回り、石畳を磨き続けた。

 普通なら雑巾がけにしか見えない動作が、周囲からは“勇者の必殺技”にしか映らなかった。


 数分後。

 広場のスライムは一匹残らず消滅。床はピカピカに光り、群衆は歓声を上げた。


「勇者様が、王都を救ったぞおおお!」

「なんという浄化の力……これが伝説の……!」

「王国に救世の英雄現る!」


 俺は肩で息をしながらモップを掲げる。

「え、ただ掃除しただけなんですけど……また俺、何かやっちゃいました?」


 群衆はさらに大歓声。王女リリアは涙を流し、俺の手を握って叫んだ。

「勇者様……! あなたはやはり、神に選ばれし方なのですね!」


 ――こうして、“モップ一つで王都を救った勇者”の伝説が、また一つ増えてしまったのだった。

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