異世界召喚されたけど生活スキルしかない俺 なぜか伝説になってました

若葉 葵

第1話 異世界召喚、床磨きで救国?

 放課後。

 俺――天城ユウト(17歳)は、いつものようにスーパーのバイトを終えて、モップを担いで帰宅するところだった。


「はぁ……今日も疲れた。大学受験とか考えると胃が痛いんだよな」


 そんな独り言をつぶやいた瞬間、視界が真っ白に染まった。

 身体が宙に浮いたかと思うと、次の瞬間には大理石の床に立っていた。


「……え?」


 目の前に広がるのは、まるでゲームやアニメでしか見たことのない豪華な謁見の間。玉座の前には黄金の髪を持つ美少女――いや、王女らしき人物が立っている。


「勇者様! どうか我らの国を救ってください!」


 俺は呆然とした。勇者? 俺が?

 しかし説明を聞く暇もなく、召喚魔法陣の一部が紫色に光り、黒煙を吹き出し始めた。


「やばい! 陣が暴走している!」

「魔力が制御できない! このままでは王城が……!」


 魔導士たちの悲鳴が飛び交い、床はひび割れ、紫炎が立ち上る。俺の足元がグラリと揺れた。


「な、なんだこれ……!? と、とりあえず……」


 気づけば、俺の手にはアルバイト帰りに持っていたモップがあった。意味もなく、俺は反射的に床をゴシゴシと磨き始める。


 ――キュッ、キュッ。


「……は?」


 俺自身が一番驚いた。

 モップをかけた場所から、紫炎がみるみる収束し、ひび割れが修復していく。黒煙は消え、魔法陣の光が穏やかになった。


「ま、まさか……! 召喚陣の暴走を……鎮めた?」

「信じられぬ……魔導師団でも不可能だったのに……」


 周囲の魔導士たちが膝をつく。

 王女も目を潤ませて両手を胸に当てている。


「勇者様……! わたくしたちの命を救ってくださり、本当にありがとうございます!」


 いやいやいや、俺はただモップで床を拭いただけだ。

 でも、この状況……どう見ても俺が世界を救った英雄扱いされてる。


「えっと……ただ掃除しただけなんですけど……」

「ご謙遜を!」

「勇者様は、己の偉業を誇らぬ清廉なお方だ……!」


 王女リリアが一歩進み出て、俺に手を差し伸べる。

 その顔は、まるで聖女のように輝いていた。


「勇者ユウト様。どうかこの国を……アルステア王国をお救いください!」


 場の空気は完全に最高潮。

 俺は状況が飲み込めず、ただ口を開いた。


「え、また俺……何かやっちゃいました?」

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