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「それでは野郎ども!新人二人の加入を祝して、乾杯!」
俺たちが上に戻った後、そんな掛け声とともに歓迎された。歓迎するというのは本当だったようだ。てっきり雰囲気づくりのために出まかせ言っていたのかと思ってた。
「はは、ありがとうございます。これから皆さんと一緒に頑張らさせていただきます。よろしくお願いします」
とりあえず俺は酒をもって近づいてくる冒険者たちにそんな当たり障りのないこととビジネススマイルを添えて適当にあしらっていた。正直俺は今この冒険者たちにかなり引いている。理由は明確にさっきの魔物たちだろう。ボディビル冒険者はこう言っていた。『新人にはまずこいつらを見せて反応を見るのさ。』と。つまり全員あの異常な光景を目にしている。
俺はこの世界で生まれたわけでもこの世界で育ったわけでもない。だからあんな風に魔物を生き物と見ないような、奴隷のような扱いをしている状況に異常性を感じている。俺の知っているRPGとかでもそりゃもちろん魔物は殺す。殺して、金を稼ぐ。
しかし、実際にその現場を見てしまうと、目の当たりにしてしまうと―どうしようもない感情が湧いてくる。さっき俺は無意識に剣に手をかけていた。ボディビル冒険者はその行動を戦う覚悟だと言った。しかし、本当にそうだろうか。本当は―ボディビル冒険者に向けた剣だったのではないか。俺にとっては魔物よりも人間の方が異常に感じた。だからこそ、剣に手をかけたのではないだろうか。
―だめだ。勇者としての自覚が足りない。まだ本当に俺が勇者なのかは信じていないが、勇者としてこんな考えをもっていることは『間違っている』だろう。
だからこんな考えは墓まで持っていくべきだ。決して誰かに言ってはいけない。
ところで、セリーナの様子がおかしい。地下に降りたその時から。
「セリーナ、大丈夫か?ずっと黙りこくってるけど。それに、顔色も悪い」
「すみません。ちょっと、気分がすぐれなくて……」
「それは、魔物を見てからか?」
「……そうです。私は昔から人の痛みを感じてしまうのです。だから、魔物たちの痛みも伝わってきてしまって……」
僧侶特有の能力だろうか。自分以外の痛みも感じてしまうなんて。きっと今までも苦労してきたのだろう。
「大丈夫か?って言っても大丈夫なわけないよな。一度教会に戻ろう」
「ええ、そうですね…。そうしましょう」
言葉が弱々しい。そうして俺たちはギルドを後にして―冒険者たちは酒を飲むのに夢中になっていたため、簡単に抜け出せた。元々酒を飲む口実が欲しかっただけだった―教会に戻った。
教会に戻ると、セリーナの親父さんと見るからに偉そうな人が話していた。
「おお、ライ殿。丁度いいところに。紹介します。こちらは国王の側近、オート・ハージです。今天啓について話し込んでいたところなのです。」
「プリター。ライ殿って、まさかこいつが『勇者』か?」
セリーナの親父さんってプリターって名前だったのか。初めて知った。
「ええ、そうですよ。ライ・フランツ殿。世界を平和に導く者です。こいつなんて言わないでください」
「すまんすまん。―では早速国王様のところへ行ってもらおう」
「ちょ、ちょっと待ってください。話は後で聞きますから、一旦セリーナを休ませてもらってもいいですか?」
「?セリーナに何かあったのですか。言われてみれば確かに顔色が悪い。やれやれ、では―」
そう言ってプリターさんがセリーナに手をかざす。パアっとプリターさんの手とセリーナの体が光る。光が収まるころにはセリーナの顔色も良くなっていた。
「え?何したんですか」
「何って、回復魔法ですよ。私は僧侶ですので、回復魔法ぐらいお手の物です。しかし、なんだか精神的に疲れているようですね。セリーナ、部屋で休んでいなさい」
セリーナは失礼しますとだけ言って部屋に休みに行った。精神的に疲れている。あんなものを見た後だ。当たり前だろう。
「では改めて、国王のところへ」
「えっと、何でですか?勇者だからってのは分かるんですけど、それってそこのプリターさんが勝手に言ってることですよね。『天啓』とかなんとか言って。たかが一僧侶の『天啓』でそこまで大事になるんですか?」
「たかが?」
プリターさんがちょっとイラっとしている。
「なんだプリター。話していないのか?ライ殿。プリターは確かに変人といって間違いはないのだが腕だけは確かでな。一応これでもこの国の最高司祭の称号を持っている。だから国としてもプリターの意見、『天啓』には無視できないのだ。それも『勇者』についてなら尚更な」
「ははあ、なるほど」
最高司祭。僧侶の中でも偉い人ってことか?俺は占いとか信じないタチだがここは異世界だからな。常識では測れない。邪馬台国とか平安時代とかを見ると占いを基に政治を行っていたとかって勉強したしな。
「それで、国王のところに行ってどうするんですか?」
「決まっている。国王の名のもとにライ殿の存在を、勇者の存在を知らせるのだ。国民は終わりの見えない戦いに疲弊している。愛する者が死んでしまうのではないか、大切な日常が壊されてしまうのではないか。そんな恐怖に怯えながら毎日を必死に生きている。勇者殿はそんな国民の、いや人類の希望なのだ」
「分かりました。じゃあ、セリーナが回復したら行きます。また明日迎えに来てください」
「了解した。では。―プリター、せっかく公務から離れられる大義名分ができたのだ。遊びたい。いいとこに連れて行ってくれ」
「変わりませんな。相変わらず。……最近いい子が入ったんですよ。そこに行きましょう」
そう言って、二人は外へ出ていった。……どこ行くつもりだ。
それはともかく。
「人類の希望、か」
俺は一人になった教会でそう呟いた。ついさっきまで(少なくとも俺の記憶では)ただの大学生をしていた俺が今となっては人類の希望と呼ばれる。全く波乱万丈すぎて笑えてくる。笑えるような状況じゃないが。この世界が本当にフィクションの世界だったら笑えるだろうが、ちゃんとこの世界は現実だった。どうしようもなく現実だった。訳も分からず異世界に飛ばされ適応していく人たちを心から尊敬できる。
しかし生憎、俺はそこまで芯が太くない。嫌なことを言われれば嫌に感じるし、褒めてもらえば嬉しく思う。嫌いな人もいれば好きな人もいる。暴力を嫌い、愛を愛するただの人間だ。
ただの人間だから―命を感じる。それが人であろうと人でなかろうと。
魔物であろうと。
魔物。魔物は卑劣で、人の命を簡単に奪う。プリターさんはそのようなことを言っていた。でも、俺はそれを見ていない。そう。俺は何も知らないのだ。命の重さも、何もかも。
歴史の授業で、戦争を勉強した。でもそれは勉強しただけで、経験をしたわけではない。実際に戦争を経験した人の話を映像で見ることはあったけれど、他人の経験で自分の経験ではない。そりゃもちろん命を奪い合う戦争がいけないことだとは良く分かってる。本当に、良く。命は一度きりで失われれば二度と戻らない。
でも―勇者となって戦うということは、命を奪うということだ。平和のための殺し合いだ。自分を殺して、敵を殺す。そうなっていくのが。そうなってしまうのが、怖い。
しかし、俺は勇者なわけで。そんな思いもやっぱり殺すのだろう。惨たらしく。見るも無惨に。
切り替えよう。自分を殺そう。とにかく明日に備えて休もうか。
そう思い、俺はセリーナに明日国王のところに行くから準備しといてとだけ伝えて、来客用の部屋のベッドに横になる。俺がどんなことを思おうと、人類は確かに危機的状況にあるのだ。人は役目から、運命からは逃れられない。だから―戦う。
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