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「私に下った天啓とは、勇者についてです。勇者とは簡単に言えば魔王を倒す宿命を背負ったもののこと。先に結論を言っておくと勇者とはライ殿のことを言っています。嘘つけ?部外者にこんな世界を揺るがすような機密事項を言うわけないでしょう。良いですか?それは良かった。この世界は大きく分けると人と魔物。この二つに分けられます。魔物は人を狩り、人は魔物を狩り、そんな状態が数千年続きました。いえ。続いていると言った方が正確です。今は魔物を従える魔王が一つの国を作り、北の地を支配しています。人類は何とかその土地を取り返そうと手を尽くしていますが、叶っていません。さらに。魔王は北の地を支配するだけでは飽き足らず、世界征服を狙っています。ええ。世界征服。魔王はその目的のためならば人の命なんぞ簡単に捻りつぶす。卑劣な奴です。許せません。私自身魔王に酷い目に遭わされた人をそれこそ何千何万と見てきました。いえ。今それは天啓とは関係ありませんね。とにかく。人類は魔王と数千年もの間対立関係にあるのです。しかし。その状況が今変わろうとしています。そうです。勇者の存在によって。天啓。私の夢に出てきた話です。予言のようなものです。その内容は『遠き地より来たる勇者。長き戦いを終わらせよう。』いえ。それだけではありません。その言葉と共に、勇者の名前も出てきました。『ライ・フランツ』。それが勇者の名前でした」
「……」
俺は黙ってその話を聞いていた。ただの異世界転生かと思っていたら世界の大事な切り札的存在に転生してしまった。ただの大学3年生が。平々凡々な大人途中が。
正直言って―怖い。
怖い。恐ろしい。不安。そんなマイナスの感情しか出てこない。
「ライ殿。急にこんなことを言われても困惑するだけかもしれませんが今言った話は本当です。あなたは確かに勇者を名乗るにふさわしい人。その腰に携えた剣もその証拠です」
「この剣が?」
「ええ、なにやらその剣にはとてつもないエネルギーを感じます。セリーナ、お前も分かるだろう」
「はい、お父様。確かにその剣からはとてつもないエネルギー。―魔力を感じますね」
俺が最初から持っていたこの剣はいわゆる『転生特典』ってやつだろう。どうやら本当に勇者らしいな。
「細かい話は置いといて俺が勇者という使命を背負っていることは良く分かった。つまり俺は、魔王を倒せばいいんだな?」
「ええ、その通りです。流石は勇者殿、察しがよろしいようで」
「ふふ、そうだろうそうだろう」
事情はよく分からないが人によいしょされるのは気分がいい。マイナスな感情ばっかりだったがプラスに傾いてきた。うん。単純に考えよう。俺は世界を救う。救える力がある。そのために転生してきたのだ。きっとこの後は成り行きで魔王討伐まで行けるはずだ(昔読んだラノベとかゲームとかでもなあなあで進んでいたし)。この剣もあるしな!
「よし!では俺はこれからどうすればいい?」
「知りません」
「はあ?」
「だから、知りません。私が分かるのはあなたが世界を救うということ。その方法、過程など分かりませぬ」
まじかよ。ストーリーで進むんじゃなくて自由行動で進んでいくタイプなのか。
まあ最近そういう探索型も流行ってるしな。そういうことだろう。
「行くところがないのならとりあえずギルドに行ってみればどうでしょうか。なんにせよ、勇者様一人ってわけにはいかないでしょうし。セリーナ、連れて行って差し上げなさい。ていうか、仲間になってあげなさい。それがきっと、あなた自身のためにもなりますから」
「私自身のため?でもそうですね。ではライさん、早速行きましょう!」
テレテレ、テッテー(自己音声)。僧侶のセリーナが仲間になった。
こんな感じで進んでいくのか。結構ぐだぐだな気がするが。しかしとにかく今は親父さんの言う通りに進むしかないか。
「そうだな、よし、行くか。案内してくれ」
そう言った後、俺とセリーナは教会を出てギルドに向かった。
ギルドへの道すがら、気になっていたことをセリーナにいろいろ聞いた。
「なあ、魔物ってどんな感じ?やっぱりあれか、スライムとか」
「スライム?それはよく分かりませんが私のイメージだとそうですね。クモとか」
「クモ?ただの?」
「ただのクモを魔物と呼ぶわけないでしょう。男に色目を使うぶりっこ乙女じゃあるまいし。…巨大なクモですよ。それこそ成人男性ぐらいの大きさでしょうか。でもそれは私のイメージであって実際はもっとたくさんの種類の魔物がいるらしいですよ」
「なるほど。人間サイズのクモか。―やっぱり怖いな」
「勇者のくせに怖いんですか。情けない」
「その発言はいただけないぞ。俺は確かに勇者らしいが元々はただの……」
「ただの……、何ですか?」
「いや。ただのヘタレだって話だ」
「なんだ。もったいぶってただのヘタレですか。嘆かわしい」
情けない。ヘタレ。嘆かわしい。全部悪口だ。ヘタレに関しては俺が言ったことだがちょっと言葉がきつくないか。俺たちついさっき仲間になったばっかりだよな。今後が少し心配だ。ここはびしっと言わねば。
「おい、俺たちは仲間になったんだろう?だったらお互いを尊重しあえるような、そんな関係を目指すべきではないのか」
「あなた、最初のセクハラ発言忘れてます?」
「?」
「もういいです。なんでこんな奴が勇者に……」
「おいおい何を落ち込んでるんだ?落ち込んでも勇者は変わらないぞ。たとえお前が煽情的なポーズをした上で甘い声でお願いしてきても勇者も俺も変わらないぞ」
「勇者は百歩譲って変わらなくてもいいからせめてあなた自身は変わってください。なんで私が煽情的なポーズをして甘い声を出さなければいけないんですか!ほんとに頭がおかしいよこの人。いや、もう人として終わってますね。あなたが魔王ですよ」
勇者って言われたり魔王って言われたり忙しいな。ほとんどの発言は本気で言っているわけじゃないのに。全く、冗談の通じない僧侶だぜ。
「なんで私が話の通じない奴みたいな認識なんですか。今の会話を聞いたら100人中150人があなたが異常者って言いますよ。あ、そこ左に曲がったところがギルドです」
100人に質問をしてなぜか150人が答えるというボケは置いといて、俺たちはギルドに到着した。
ギルド。冒険者たちの巣窟。日本で言う役所(?)的な場所なのかな。中には数十人いた。屈強な大男やローブをまとった魔法使いらしき人。他にも見ただけでどうやって戦うのかが分かるような、まさに冒険者といえるような人たちが酒を飲んだり、魔物討伐依頼のちらしを見たりと、思い思いの行動をしていた。
「セリーナ、ギルドに来たはいいけどこれからどうすればいい?」
「はあ、先が思いやられますね。良いですか?あなた勇者と言っても、それだけでお金は貰えないでしょう。きちんと働いてお金を貰います。で、どうしたらお金を貰えるかと言ったらそれはもちろん魔物討伐です。しかし討伐するだけではもちろんダメです。倒したとギルドに報告し、その対価としてお金を貰うのです。従ってあなたがこれからするべきことは登録です。このギルドの会員登録をするのです。分かりましたか?」
「分かった」
セリーナの言う通り、会員登録へ向かう。受付に行けばいいのか。美人の笑顔のお姉さんのところへ向かう。
「すいません。会員登録お願いします」
「はい。ではこちらに署名をよろしくお願いいたします」
「分かりました」
差し出された紙に名前を書く。ライ・フランツ。これで良し。
「はい。確認しました。ライ・フランツさんですね。では、これからのご活躍を期待しております」
そういって受付嬢のお姉さんは次の人を呼んだ。
俺はセリーナの元へ戻る。
「ほい。登録してきたぞ。感謝しろ」
「いちいち癇に障りますね。もちろん感謝はしません。むしろあなたが私に感謝すべきです。
それはともかく、仲間探しですね。お父さんも言っていたように。あなたがどれほど強いのかは知りませんが、私とあなただけでは絶対に無理がありますからね。ていうか私があなたと二人きりとか耐えられませんからね」
「ああ、君の理性が俺の魅力に耐えられないって話だな。確かにそれはまずい。よし、仲間探し頑張るぞ!」
「死ね」
「僧侶がそれ言っていいのか」
「あなただけには特別です。特例です。勇者なので勇者対応をしているわけです」
「意味が違う気が……」
そんな馬鹿話(至って真剣だが)をしていた時、一人の男が話しかけてきた。
最初に見た屈強な大男。近くで見ると圧巻だ。筋肉すごい。ボディビル大会がこの世界にあるとすれば確実に冒険者ではなくそっちの道を進むべきと声を大にして言いたいぐらいの筋肉だ。しかしこの男は冒険者だ。冒険者らしく、いかにもなセリフを言ってきた。
「おいお前、新入りだな?ちょっと付き合ってもらおうか」
「付き合う?悪いが俺にそっちの趣味はない。悪いが他をあたってくれ」
「そういう付き合うじゃないわ!ちょっと面貸せって意味だ。お前さん、さっき会員登録しただろ?俺はこのギルドのベテランだ。右も左も分からない新人にこの世界の流儀を教えてあげるのが俺の役目なのさ」
「なんだ。そういうことならさっさと言ってくれればいいのに。さっきの言い方だとみんな勘違いしちゃうぜ」
「あんな勘違いされたのはお前さんが初めてなんだが……。まあとにかく、ギルドの地下に来てくれ。安心しろ、手荒な真似はしない。ちょっとお前さんの力を見せてもらうだけだ」
そう言ってボディビル冒険者は地下に消えていった。
地下。地下?なぜそんなところに行く必要があるのか。手荒な真似はしないと言っていたが地下なんて人に何かするのに絶好の場所じゃないか。普通こういう力試し的なやつって腕相撲とかじゃないのか?腕相撲じゃないにしても、せめて地上でやるべきなんじゃないか?いや、決めつけるのは良くないか。もしかしたら地下にしかない筋力測定装置とかがあるのかもしれない。
「よし、行こうかセリーナ」
「え、行くんですか?地下って何かするのに絶好の場所ですよ。危ないですよ」
「俺も同じことを考えたが、今はどうすることもできないだろう。それに、これは俺の国の言葉なんだが『なるようになる』って言葉があるんだ。つまりはそう言うことだ」
「何ですかその無責任な言葉。全てを諦めた人が開き直りに言うセリフじゃないですか。まあでも確かに今はどうすることもできないですしね。行きましょうか」
地下へ進む。ギルドに地下のイメージはなかったがそこにはなるほど確かにと思えるような景色が広がっていた。地下には檻がいくつもあった。中には鎖に繋がれ、今にも死にそうな異形の姿があった。あちこちから獣の唸り声のようなものが聞こえる。
「来たな。分かるか、これが魔物だ。どうだ?怖いか?恐ろしいか?恐怖で足がすくんでしまうか?」
俺はその時初めて魔物の姿を見た。化物。怪物。人外。その言葉たちだけでは言い表せない異形の姿があった。
「これは―なんだ」
「分からないか?魔物だ。人類の敵―滅ぼすべき魔の手。新人にはまずこいつらを見せて反応を見るのさ。中にはちびって泣き叫んだりする奴もいるが、お前たちは大丈夫そうだな」
「悪趣味だな」
「そうでもないさ。見るだけで動揺するような奴はどうせ冒険者としてやっていけない。当たり前だろう?だから最初に覚悟を試すのさ。魔物と向き合う覚悟を」
「そうか、それで俺たちはどうなんだ?」
「合格だ。最初こそ怪しかったがお前らはちゃんと魔物を見ていた。それにお前さん、無意識か分からないが剣に手を置いている。戦う覚悟を持ってるってことだ。
上に戻ろう。歓迎する。これからよろしく頼むぞ」
なかなか荒々しい試験だったな。確かにこれは見る人が見ればびびってしまう。合格を貰えたが正直俺もびびってる。なにはともあれこの試験は勇者としての第一歩と言っていいだろう。そんなことを思いながら上へ戻る階段を上る。
「助けてください……。魔王…サ…マ……」
そんな声を背に受けながら。
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