アニメやラノベでは転生者が勇者となり何かしらの超能力、あるいは凄まじい武器を用いて無双する―なんて話がうじゃうじゃと、それこそ探せばいくらでも出てくるが、フィクションはフィクションとして現実と思わずに、現実と切り離して楽しむべきである。しかし、これから俺が話すのは、そんなフィクションのような現実の話である。まあ、与太話と思いながら聞いてほしい。別に数々のアニメやラノベに並ぶほどの大活躍をするわけでもないわけだから。とりあえず、俺が刺された続きから。


「ここは……」


「目が覚めましたか。あなた、うちの前で倒れていたのですよ。ま、よくあることなんで別にいいですけどね」


声のする方を見る。そこには、目の覚めるような美人が立っていた。しかし、服装が妙だ。十字架のブレスレットをつけ、シスター(?)の格好をしている。それにここは―教会?なんだ?俺は刺されて病院に運ばれずに教会に運ばれたのか?とりあえず状況を掴まなければ。


「えっと、ここは?」


「教会です。見たらわかるでしょう」


「それはそうなんだが……」


「何も覚えていないのですね。それなら仕方がありません。では、一緒に神に祈りましょう。そうすれば、神のご加護が授けられるはずです」


「すまない。俺は無宗派なんだ」


「無宗派?そんな人がいるわけないじゃないですか。人は何かに頼らなければ生きられないのですよ。それは神であれ、悪魔であれ、とにかく無宗派の人なんてこの世にいるわけないじゃないですか」


「いや、ほんとに無宗派なんだが……」


「分かりました。言いたくないのならそれで構いませんよ。私だって押し付ける気もありませんし。しかし困りましたね。何も覚えていないとなると、これからどうしましょう」


「いや別に、なぜここにいるのかが分からないだけで、どうしましょうってほどじゃないよ。普通に家に帰るよ」


「あら、家があるんですね」


「?」


失礼な。


「いえ、うちを訪ねてくる人は大体路頭に迷っている方ばかりなので、あなたもそのうちの一人なのかなと思っただけです。しかしそうですね。あなたの服装を見ると、路頭に迷ってるようには見えませんね」


そう言って俺の服装を見る女性。俺もつられて自分の服装を見る。

―俺の服装はラノベ風に言うならこれから魔王との最終決戦に行くような、少なくとも現代日本では見られない―見れるとしてもコスプレ会場で見れる―ような服装だった。それに、腰には剣を携えている。

なんだこれ?何かのドッキリか?俺は芸人じゃないぞ。それに今日は水曜日じゃなかったはずだぞ。

ていうか、刺されたはずの傷がどこにもない。痛みを全く感じない。傷が治った―というよりそもそも傷なんてないみたいだ。

その時窓に映る自分が見えた。いや、それは『自分』ではなかった。少なくとも、日本を生きる大学生、社央悠馬ではなかった。金髪碧眼、それが窓に映った俺の姿だった。それに心なしか筋肉質になっている気がする。あと惚れ惚れするぐらいのイケメンだ。

え?どういうこと?まさかまさかあの伝説の異世界転生が俺の身に降りかかったのか?だとしたら、なんとはた迷惑なことか。


「どうしたのですか?急におどおどして」


「……えっと、日本って分かる?」


「二ホン?なんです?それ。資本主義の2つ前の考え方ですか?」


「ボケがむずいわ!2と4で2つ前とか分かりずらいよ、そんなボケ。―とにかく知らないんだな。よし!分かったぞ」


「勝手に話を進めないでもらえますか……」


この女性の発言から、ここはおそらく地球じゃない。地球に生きていて日本を知らないなんてことは多分ないだろう(一概には言えないが)。それに、こんな服装で剣を持っていてもそれが平然と受け入れられている。それはきっと剣を持つのがある程度普通のことだからだ。以上のことからここは異世界で、俺は転生したのだ!


「えっと、遅くなりましたがあなたの名前を伺っても?」


「急に仰々しくなりましたね。違和感すぎて名乗りたくないですが―私の名前はセリーナ。セリーナ・ホープと申します。この教会で父と一緒に僧侶をやっております」


「そうか、俺はライ・フランツ……」


「どうしました?」


「……」


ライ・フランツ?誰だ、そいつは。俺の名は社央悠馬のはずだ。今もそう言おうとしたのに、なぜかライ・フランツと言ってしまった。つまりこれは―異世界転生によって名前が変わったってことか!でもなぜ社央悠馬と言えないのか。疑問は残るが異世界転生はツッコミ出したらきりがない。受け入れて進むしかないのだ。―とにかくライ・フランツが今の俺の名前だな。ライ・フランツ、ライ・フランツ……。

うん。良い名前っぽいな。気に入った。


「いや、何でもないよ。改めて、俺はライ・フランツ。よろしく頼む」


「はい。と言っても、もう家に帰るんですよね?」


「そのことなんだけど、勘違いだったみたいだ。しばらくはこの教会でお世話になろうと思っている。三食おやつ付き、コーヒー飲み放題で我慢するから、よろしく頼む。セリーナ」


セリーナが、俺にかわいそうな人を見る目を送ってくるが関係ない。なぜなら人は視線で死なないからな!世に生きる子供たちよ。周りの視線なんて気にするな!この俺のように図々しく生きろ!


「いや普通に困りますよ。教会は確かにそういう一面もありますけど、見た感じあなたは裕福そうですし。他あたってください。ていうか三食おやつ付き、コーヒー飲み放題って何ですか?ナメてるんですか?」


「いや別に舐めてるわけじゃないぞ。どうしてもって言うんだったら物理的に舐めることもやぶさかではないが……」


殴られた。


「なんで殴られたか分かっていないようにポカーンとしてるんですか!さっきの発言セクハラに当たりますよ!はあ、じゃあもう一度言いますよ。他あたってください」


僧侶のくせに口悪いな。セクハラって。異世界も世知辛いな。それに、俺の申し出が断られてしまった。何がいけなかったのだろうか。よろしくお願いしますって言ったらよかったのだろうか。

どうしよう。土下座でもすればいいのだろうか。足でも舐めたらいいのだろうか。

いっそのこと婿入りでもしてかいがいしく世話してもらおうか。


「あなたの考えが怖くなってきました。もう喋らないでください。喋れば喋るだけ印象が悪くなるだけですよ……」


ふむう。喋ることを禁じられてしまった。八方ふさがりとは正にこのこと。

その時だった。ばん!という扉を開ける音とともに男が教会に入ってきた。60歳ぐらいの男が。


「セリーナ!天啓が!天啓が下ったぞ!」


「お父さん……」


お父さん。ということはこのおじさんがセリーナの父親ということか。しかし、天啓とは何のことだろうか。


「天啓だー!はっはっは!この天啓通りならば長く続いたこの争いは終わりを迎える。やったぞ!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて、お父さん。今は私だけじゃないんだから」


「うん?ああ、すまない。つい興奮してしまった。ええと、あなたは?」


「あ、どうも。今日からこの教会でお世話になります。ライ・フランツと申します」


「どさくさに紛れてお世話になろうとしないでください。刺しますよ……」


今の俺は刺すという単語に軽くトラウマを覚えているのでビクッとしてしまった。受け流せないツッコミだ。しかし、俺以上にビクッとしたのはセリーナの親父さんだった。


「ライ…、フランツ?今、ライ・フランツと言いましたか?」


「えっと、そうですけど。それが何か?」


「うおおおおおおお!来た!来たぞ!これは来た!爆アド確定!なんという運命!いえ、これも神の導きか!ああ、感謝します……」


「どういうこと?お父さん、最初から説明して。いつも可笑しいお父さんがここまで取り乱すなんて、よっぽどのことなんだよね?」


「ああ、セリーナ。すまない。取り乱してしまった。しかし、とんでもない事態だ。説明しよう。ライ殿にも聞いていただきたい」


そう言って突如やってきたこのおじさんは語りだした。天啓。世界の行く末、これからの未来について。

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