勇者語り
1
俺の名前は
「そういうところじゃないの?落ちた理由。悠馬って昔からそういうところあるじゃん。ぷはー。もう一杯頼んでいい?」
「そういうところって?別にいいぜ」
「ナルシスト嘘つき野郎なところ。ありがと」
「……」
人様に向かってナルシスト嘘つき野郎なんていう酷すぎる蔑称を言い放ってきたこの女は
「お前はいいよなー。すでに大手に決まってるんだから。お前に俺の気持ちはわかんねえよ」
「確かに私にはわかんないけどさ。悠馬も悠馬なりに頑張ってると思うよ」
「じゃあなんで落ちるんだよ」
「……」
「黙るな。せめてなんか言ってくれよ。まだナルシスト嘘つき野郎って言われた方が開き直れるよ」
「罵ってほしいんだ。へー。悠馬ってMの人だったんだね」
「断じて違う。そういうことを言ってんじゃねえよ」
「悠馬ってドMの人だったんだね」
「分かってて言ってんだろ。もういいよそのくだりは」
「ま、そんなことはどうでも良くって」
「おい」
こいつと飲むときはいつも俺がいじられる。が、決して俺は嫌だとも思えない。小さなころからずっといじられ続けてきたからもう慣れっこだ。慣れていいものではないが。
「ていうか阪神強いね~。やっぱりファンの声援に強さは比例するのかな?」
「は?巨人に決まってるだろう優勝は。そういうことを言ってくるから阪神ファンは嫌われるんだよ。忌み嫌われるんだよ。それに、阪神の声援が大きいのは甲子園の時、つまりはホームグラウンドの時だけだろ。ビジターの時は巨人だって、ほかの球団だって負けていない」
「どっこいどっこいじゃないの?テレビで見てても阪神の声援は日本一だよ!」
「……。つーか甲子園における阪神ファンってずるいんだよ。お前らが球場の8割、いや9割を占めるんじゃねえよ。俺たちにも残しとけ。この前チケット取ろうとしたけど一瞬で完売してたぞ」
「ふーん。そんなこと私に言われてもね。条件は同じなんだから取れない人たちに愛がなかったってことじゃない?つまり相対的に、阪神ファンの愛が強いってことだね」
「『ことだね』って言われてもあれは何かしらの力が働いている気がするが……」
「ないよそんなの。あるわけない。あっていいわけがないじゃん」
「まあそうだよな。―ところで球場で飲むビールってなんであんなに高いんだろうな」
「さあね。でも知らない方がいいことってあるじゃん?球場のビールもその知らない方がいいことの一つなんだと思うよ」
「格言が安っぽく聞こえるな。ビールは高いが」
「お!上手いこというじゃん」
「自分で言っといてなんだが、上手いか?」
「ううん、全然」
「おい」
「あっはっはっは。まあまあ、もっと飲もうよ。あんたは今死にたいぐらい辛いんだろうけどそんなもんは飲んじゃえば解決すんのよ。嫌なことは忘れるに限る!」
「俺は死にたいぐらい辛くはねえよ。俺の現状を決めつけるな」
「ぷはー。え、なんだって?」
「もういい……」
そんな感じで飲みながら馬鹿話をした。
「あ、もうこんな時間。そろそろ出よっか」
「そうだな。ていうか随分飲んだな」
「悠馬のおごりだからね。人の金は使えるところまで使わないとね」
「お前ほんとに内定もらってるのか?その性格で」
「もらってるよ。失礼な。はあ、私先に店出て待ってるから、支払いよろしくね~」
そう言って梅は先に店を出ていった。
腹立つが約束だ。俺も席を立ち会計をする。カードで。
店を出るとそこには誰もいなかった。あいつ、待ってるとか言ったくせに。先に帰りやがったのか。薄情な奴め。
―と思ったその時だった。体に痛みを感じた。まるで、鋭い刃物で刺されたような感覚だった。いや、『まるで』じゃない。実際に刺されたのだから。遠くから声が聞こえる。梅の声か?どこに行ったのかと思ってたらトイレに行っていただけか。薄情な奴なんて思って悪かったな。あれ、普段はこんな事考えないはずなのに。そうか、死ぬ直前だからか。人間って死ぬ間際になったら優しくなるんだな。
だめだ。もう意識がなくなる。せめて最後に、遺言ぐらい残したかったな…。
―と思ったのは束の間、俺の意識は呼び戻された。よかった。生きてたのか。しかし、俺はなぜ刺されたのだろうか?物騒な世の中とは言ってもまさか自分が通り魔に遭うなんて思いもしなかった。人生、何が起こるか分かったもんじゃねえな。面白い、とは思わないけれど。
さて―ここはどこだ?
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