回想終了。交渉ってよりは脅迫だったが、万事計画通りだった。勇者が突然襲い掛かってきたときは正直びっくりしたが上手く切り抜けられた。勇者ってのは血の気の多いやつなのか。それとも血も涙もないやつなのか。

―ともあれ、俺とスクルードさんは城へと帰ってきた。

王座に座る。


「僧侶、条件を吞みますかね」


「さあな、分かんねえ。でも、どっちを選んだとしても対処できるようにはしとかないと」


「ですね。ところで、奴ら相手に煽っていた時の魔王様、なんだか楽しそうでした」


「そうか?別に普通だろう」


「いえいえ。楽しそうでした。なんだか初代様を見ているようでした」


初代?初代ってのは、1代目のことか。

1代目。―人類と魔物の数千年に及ぶ戦いを始めた最初の魔王。真相は今となっては分からないが、数千年たっても終わらない戦いを始めたのは誰が何と言おうと罪深い。しかし、初代の始めた戦争が今もまだ続いているという現状は、初代の責任ではないだろう。きっかけは初代だが、それ以降は歴代の魔王たち。そして今もまだ終わらせられていない俺。果たしてどちらの方が罪が重いのか。


「魔王様は自分が悪いって感じているんですね。責任を感じているんですね」


「?どういうことだ?」


「普通は自分が悪いなんて思わないんですよ。あなたの思う『罪深い奴』の中には人間が入っていませんでした。それは何とも魔物われわれからしたら罪深いと思ってしまいます。数千年戦っているんですから―自分たちが悪いなんて、みんな口が裂けても言いたくないんですよ」


「罪深い、か。でも―仕方がなくないか」


「仕方がないですよ。ええ。みんな分かっています。数千年戦うなんて愚かな行為、はたから見たら滑稽以外の何でもないんですから。ですが、私たちは当人ですから愚かだと分かっていながらも、もう引き返せないところまで来ているんです。

それに―引き返せないなら、突っ切るまでです。突っ切って、行くところまで行く。それで勝てたら罪は罪でなくなるんですから」


勝てば官軍負ければ賊軍。そう言いたいんだろう。

考えてみれば酷い言葉だ。勝つだけでそれまでのすべての行為が―どんなに残虐な行為でも―正当化される。美談として語られる。勝つだけで。


「じゃあ何としてでも、何をかけてでも、負けるわけにはいかないな」


「もちろんです」


負けるわけにはいかない。罪は罪であるとは心の中で思いつつも、俺には―俺達には選択肢など元からないのだ。だから―。


「何はともあれ、1週間後まで何もできないからな。さっさと仕事するぞ」


「了解です。じゃあ、こっちの資料は私が目を通しておきますので、そっちはよろしくお願いしますね」


「はいよ」


雑談もそこそこにして、俺たちは仕事に取り掛かった。

―魔王の仕事っていうのはイメージしずらいかもしれないが、事務作業が多い。なにせ魔なのだ。言葉の綾ではなく本当に王。秩序を保つためにも色々頑張っているのだ。

たまに『獣風情が!人間様に勝てると思うなよ!』とか言って攻撃してくるような奴もいるが魔族にはちゃんと魔族の生活がある。野生動物みたいに弱肉強食ってわけじゃなく、ちゃんと法の下に節度のある生活を送っている。ちなみに言っておくと魔王軍っていうのは公務員だ。人類の侵略を防ぐべく、魔族の平和を守るべく戦う。

給料もなかなかいいよ。

もっとも、ホワイトな魔王軍を目指して働いているわけだが不満が出てこないわけではない。せっかくなのでその不満を紹介しよう。魔王の仕事って言うか上に立つ者の仕事で目安箱の確認というものがある。

例えば―『食堂のラインナップが少ないです。もっと増やしてください』とか、『どうしたら給料上がりますか?』とか、『事務のお姉さんに振られました。助けてください』とか『……魔王交代しろ』とか。

今回のは不満というよりお悩み相談って感じだが、―とにかく不満は絶えないのだ。

ていうか最後の奴は確実に某四天王だな。あいつだけは毎回、同じような投書をしてくる。

四天王。

四天王は肩書だけじゃない。ちゃんとその名前にふさわしく、魔王軍の中で強く、優秀なものだけが四天王を名乗れる。当然だが四天王は魔王と違って世襲じゃない。

基本は5世代ぐらい務めたら魔王の交代とともに職を降りる。だが、人間の兵士に殺されたりすることもあるから、円満退職と行かないこともある。ちなみに五体満足で引退できた四天王は、魔王軍をやめても十分な生活を送れるくらいの金が支払われたり、色々なオプションが付く。だからこそ皆四天王を目指して努力し、だからこそ魔王軍の四天王は特に優秀な奴が多い。―今の四天王は優秀なのか疑問が残るが。

そして、優秀だからこそ仕事も多い。四天王の大きな仕事の一つに領地の管理というものがある。魔族の領地全部を魔王である俺一人で治めているわけではない。俺と四天王の5人で分割して治めている。人類と近くからプランタン、エテが最前線。オトンヌ、イヴェールが真ん中。魔王領が奥の奥を治めている。各領地ごとに名産品やら観光地やらで賑わっているが、その内情についてはまた今度。今度があるかは不明だが。

とにかく、仕事を続けた。6時間。疲れた。


「お疲れ様です。どれくらい終わりましたか?」


「全然だよ。魔王ってのはなんでこんなに仕事が多いんだ」


「魔王ですからね」


「そうか、魔王だからか」


「ですです。とは言え、急ぎの件ぐらいは終わりましたでしょう?」


「まあ、それぐらいは」


「じゃあ大丈夫です。魔王の仕事ってのは終わることはないですので。少なくとも、私がこの職についてから仕事がない状態っていうのは見たことありません」


「どんだけ多いんだよ…」


「多いと言うよりは、仕事の供給が止まらないから仕事が終わることはないと言った方が正確です」


「つまり俺は死ぬまで働いても達成感を得られないのか」


「はい」


「なんとも残酷な人生だな」


「人じゃないでしょう」


「そうだった!俺は人じゃなかった。なんとも残酷な魔王生だな。―語呂が悪すぎる」


「疲れてます?」


「疲れてる」


「はあ、全く。仕方がない魔王様ですねえ。じゃあ息抜きに城下町の視察でも行きますか?」


「そうだな!町の視察も魔王である俺の立派で大切な仕事だからな。そうと決まれば早速行くぞ。準備しろ、スクルードさん!」


そう。視察も魔王の大切な仕事の一つである。決してさぼりたいとか書類関係の仕事にだれてきたとかではない。断じて。


「それに、言い出したのは俺じゃない。スクルードさんだ。町で何かを言われても全部スクルードさんのせいだ」


「そういうこと言っちゃいます?私は別に行かなくてもいいんですよ。正直まだまだバリバリ働けます。1週間ぐらいは不眠不休で」


不眠不休とかいうな。魔王軍はホワイト企業なんだよ。


「嘘だろ……」


「嘘です。冗談に決まってるじゃないですか。そんなこの世の終わりみたいな顔しないでくださいよ。ちゃんと視察、付き合いますよ」


「ああ。付き合え。さっさと行くぞ。おい、なんでまだ準備してないんだよ。のろまか。だからダメなんだよ、お前は。言われる前に行動しろ、自分で考えて行動しろ」


「完全にダメ上司じゃないですか。そういうこと言うやつは大体その後『勝手に行動するな、協調性を大事にしろ』とか言い出すんですよ。ホワイト企業魔王軍はどこに行ったんですか」


「なんだそれは、知らん。俺が魔王だ。さあ出かけるぞ」


「はいはい」


実際の魔王軍はちゃんとホワイト企業だから安心してね。新卒募集中です。もちろん中途採用も。

―冗談は置いておいて俺たちは視察に出かける。徒歩だ。

魔族領の中で一番賑わっているのは言わずもがな城下町だ。飯屋に娯楽、基本的になんでもござれの城下町。とりあえず町をぶらぶらする。


「調子はどうだ?儲かってるか、おやっさん」


「おやおやこれは、魔王様とスクルード様ではありませんか。ええ、おかげさまで儲かってやす」


「そうか、それはとても良いことだ」


おやっさんと呼んだこいつは野菜屋の店主。本名は……、知らない。俺が子供のころからお世話になっている店だ。そんな店の店主の名前を知らないなんてと思うかもしれないがなぜかずっと教えてくれないのだ。だからもうずっと昔からおやっさんと呼んでいる。


「ところで今日は視察ですか?それともさぼりですか?」


「意地の悪いことを聞くな。視察だ」


「本当ですか?スクルード様、どうなんです?」


「さぼりですね」


「おい!約束が違うぞ。お前が言い出したことだろ。視察って」


「はて。記憶にございません」


「政治家の常套句を言ってんじゃねえよ」


「まあまあまあまあ、ところで今日は新鮮なトマトが入荷してますよ。お一ついかが?」


「商売上手だな」


「いえいえそれほどでもありますが。魔王様、お金あるでしょ?貧しい民にお恵みくださいませ」


「よく言うよ。わかった。じゃあ、俺とスクルードさんの分で二つくれ」


「まいどあり!またどうぞー」


「おう。サンキュ」


おやっさんからトマトを買い、俺たちはまた町に繰り出す。トマトを食べながら。


「ほい、スクルードさん」


「ああ、どうもどうも。で、視察に来たはいいものの、どこに行きます?私としてはもつ鍋とかが乙ですねえ」


「ご飯は帰ったらあるだろう。料理長にどやされるぞ。そんなとこより、ガキ共のところに行くぞ」


「はいはい、分かってますよ。元気にやってますかねえ」


ガキ共っていうのは色々な事情で親元を離れた子供たち。親のいない子供たちのことだ。その子供たちの暮らす施設が近くにあり、俺とスクルードさんは定期的に様子を見に行くのだ。

事情。あるいは、都合。多くは語らないので察してほしい。虐待は人間の専売特許ではないのだ。魔族にだって心はある。それは善も―悪も。

そんなことを思いつつも、俺たちは施設に到着した。今施設に居るのは大体40人ぐらいか。


「魔族パーンチ!食らいやがれ、この魔王様野郎!」


扉を開けた瞬間、頭上からパンチが飛んできた。魔族パンチ?しかし、こちらも魔王。やられっぱなしではいられない。

とりあえず―


「魔王受け流し!からの魔王パンチ!ふ、俺に勝とうなんて百年早いわ!」


俺はパンチを左手で受け止め地面に叩きつけ右手をグーにして殴りつけるぎりぎりで寸止めする。流石の俺でも子供を殴るほどの冷酷さは持ち合わせていない。


「うわあ、えげつな。かわいそ。大人げな」


「うるさいぞスクルードさん。戦いにおいて手を抜くことは自分を殺すことに繋がる。俺は相手がガキだろうと、本気で戦う。―だが良い不意打ち攻撃だったぞ」


「くそー、今日こそは一発食らわせられると思ったんだけどなー。やっぱり強いや、魔王様は」


「当たり前だ。でないと、魔王なんて務まらないからな」


こいつ(8歳)は親が魔王軍だったが、ある戦いの最中、人間に殺された。たしか5年前のことだ。以来、施設で暮らしている。俺自身、魔王に就任する以前から施設を訪ねていたことから、施設の子供たちは大体全員、ガキの頃から知っている。

施設は15歳になったら出ていくことになっている。魔王軍に就職するか、別の市民を支える職に就くか。基本的に何でも選べるように支援をしているが、こいつは魔王軍に入りたいといつからか言うようになり、俺が訪問に来ると毎回こうやって一発食らわせようとしてくる。


「あれ、ていうか今日はスクルード様もいるじゃん!スクルード様、稽古稽古!魔王様をぶっ倒す方法を教えてよ!」


「ええ、いいですよ。それじゃあとりあえず中に入りましょうか。玄関では稽古どころではありませんからね」


「はーい」


そう言って俺たちは中に入る。中では子供たちが思い思いの行動をしている。本を読んだり、勉強したり、お菓子を食べたり。


「よし、では来なさい。スクルード流魔王様討伐術を教えて差し上げましょう」


「はい!よろしくお願いします!」


「いい返事です」


何やら物騒な計画が進んでいる気がするが、俺は気にせずある魔族のもとへ向かう。この施設を管理している女性。人間的に言ったらシスター的な存在に。


「今日も子供たちは元気だな。ミゼリア」


「そうね、おかげさまで。でも、無理してない?フィンって昔から無理しがちなところがあったから、幼馴染的には心配なわけよ。ほら、勇者とか―」


フィン。俺の名前だ。久しぶりに呼ばれた。―自己紹介ですら伝えてなかった名前だ。初めまして、魔王のフィンと申します―魔王となった今ではもう俺の名前を呼ぶのミゼリアぐらいだ。魔王になる前はミゼリアとはよく遊んだりしていた。今は忙しくてそんな暇はないが、こうして様子を見に来る。もちろん目的は子供たちだが、ミゼリアがいるからというのも多少はある。


「勇者か。まあ何とかなるよ。できなくても何とかする」


そう。みんなのために、たとえ勇者が俺より強くても。誰の力が及ばないとしても。

そして1週間後―決戦の時だ。






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