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魔王。

魔王というのはいわゆる世襲制で俺はそのちょうど100代目だった。つまりは人類と魔物はもう何千年もの間争いあっていることになる。なぜ争っているのかというと、簡単に言えば土地問題だ。元は魔物の領地に人類が踏み込んだから魔物側も反撃に出たとかなんとか。ちなみに魔王の寿命は人と同じかちょっと長いくらい。意外と思うかもしれないが、なんかいろいろ理由があるらしい(詳しくは知らないけど)。

魔物と聞くと、大方化物―人とはかけ離れた姿かたちをしている生物をイメージするだろうが実際はそうではない。いや、部分的に間違っているというべきか。

人に極めて近い見た目、高度な知能を持った人外が魔族と呼ばれ、人とかけ離れた化物を魔物と呼ぶ。人類はまとめて魔物と呼んでくるが、魔族にとっては全然違う。魔族と魔物は、人間とペットみたいな関係性だ。

それで、俺が勇者に出会ったのは魔王に就任してからちょうど5年目のことだ。

勇者のことは知っていた。なんでも、教会の大司教とやらに認定された公認の勇者で、世界を平和に導くと予言されたらしい。そんなものは当てにならない。ただの出まかせ言ってるだけで俺たちをビビらそうとしてるだけだって、魔族の間でも噂が流れた。俺も正直、そんなところだろうなと思っていた。

実際、予言の一か月後ぐらいだろうか。実際に遭遇したのだが―戦ってはいない―別に強そうには見えなかった。強いて言うなら腰に下げていた剣がやばそうってことぐらいだろうか。

ところがどっこい。勇者、めっちゃ強い。勇者、めっちゃ強い!

いやいやマジで。こっち(魔王側)としても勇者は人類にとっての希望みたいな感じで聞いていたから、そいつを倒せば少なくとも俺の代は安心できるな、あわよくばこの争いも終わったりすんのかなと思って、割と魔王軍の精鋭部隊(4)を送り込んでみたけど、全員殺された。瞬殺だ。ぼこぼこだ。足元どころか爪の先ほどにも及ばないくらい。

偵察部隊の話によると、勇者は超一流の剣使いで、その使っている剣で切られるとどんなかすり傷でも致命傷になるらしい。

あと勇者は4人で行動している。勇者のほかに反射神経が異常な斧使い(男)、えげつない魔法を使ってくる魔法使い(女)、最後に特に厄介な女がいてそれがなんでも回復してくる僧侶(女)。

どんな戦いだったかというと、まず部隊のうちの一人が毒の矢を放つ。放つと同時に矢を瞬間移動で勇者たちの目の前に出現させる初見殺しの技だったが、それは見事に斧使いに防がれた(異常すぎる反射神経)。そして僧侶による常時回復。つまりはノーダメージ。

次に地獄に引きずり込む魔法を唱えたが避けられた(避けられるようなものじゃないはずだけど)。そうしたら位置を捕捉されたらしい。勇者と斧使いが瞬きする間に部隊の目の前に現れて、ちょっとの間剣を交わした後にあっけなく切られてバトル終了。その間も僧侶の魔法で勇者たちは回復しっぱなしだった。

その報告は魔王軍の間ですぐに広がった。

するとすぐに魔王軍の中でも一番歴の長い、みんなから裏魔王と呼ばれる、ひょっとしたら俺より尊敬されていた側近のスクルードさんが立ち上がった。


「行くのか?スクルードさん」


「おや、魔王様。そうですね。勇者と呼ばれる人間は今までもたくさん、覚えられないぐらいは相対してきましたが今回は何だか嫌な予感がしますので。危険な芽は、摘まなければいけませんので。―ところで…、さん付けはお止めになってくださいと何回行ったら分かるんですか」


「だって、年齢差を考えろよ。これでも敬語はやめられるようになったんだからな」


ちなみにスクルードさんは魔族と人類の戦いが始まった最初期から生きている。


「はっはっは。確かにいつからか敬語は使わなくなりましたね。では、私が勇者を倒したらさん付けは終わりにしてください」


「考えとくよ」


そんな会話をした後、スクルードさんは勇者のもとへ向かった。

スクルードさんなら大丈夫だろうと思っていたが一応、心配になって遠くから勇者との戦いを見に行った。初めのほうは拮抗していたが多勢に無勢、さすがのスクルードさんもやられかけた。とどめを刺されるぎりぎりのところで瞬間移動の魔法を使い救出に成功したがあれ以来、スクルードさんは勇者に一人で挑もうとはしなかった。ていうかそもそも戦いに行くことすら若干嫌がっていた。

スクルードさんが負けたという噂も瞬く間に広がった。裏魔王が負けたのだ。全員がやばいと思ったはずだ。俺も思った。

だから俺は一旦勇者のことを無視した。もちろん最初は倒そうと頑張りはした。

一つ例を挙げるならば相手が4人ならこっちは軍隊でぼこぼこにしようという案が上がった。しかし失敗。

魔法使いは対大勢に特化していて、近づく前にやられる。運よく近づけても斧使いと勇者にやられる。

他にもいろいろやったが正攻法ではまず無理だろうという結論になった。

なので野放しにしようと思ったわけだ。

だが、野放しにすることほど危険なことはないので、奴らの特性を利用した。

勇者は魔王を倒すことが目的だ。だから俺自身が囮になって、その隙にいろいろ裏工作をしようという話にまとまった。

方法としては、まず俺が分身の魔法を使う。(さすがに俺本体が囮になるのは危険すぎるため)そして分身が人類の領地に踏み込んで、適当に暴れる。勇者に報告される。勇者が来たら分身を消す。こんな感じだ。実際は分身を消すというよりは消される、だったがまあ同じようなものだろう。

そんな感じで半年が経った。こちらの作戦が上手くいったのか、勇者からの被害は最小限に抑えられていたと思う。

そして、裏工作の成果も上がってきていた。

俺たちの行っていた裏工作というのは、一つは勇者パーティの身内を狙うことだ。将を射んとする者はまず馬を射よという言葉に従って、勇者含め4人の身内を特定した。魔王軍の中には潜入部隊というのがある。名前からもわかる通り、人類の領地に潜入し、情報を得たり、かく乱を仕掛けたりする部隊だ。

で、そいつらに4人の情報をとれるだけ取ってこいと命令した。

以下、その情報から一部抜粋。

まずは僧侶から。

名前はセリーナ・ホープ。年齢は21。教会の大司教の一人娘で、1000年に一人の天才とか言われて子供の頃からちやほやされていたとか。母親は病気で、彼女の力をもってしても治すことのできない不治の病にかかっている。治すためには清らかなる水とやらを飲ます必要があり、その水は魔物側の領地にあるために、魔王を倒す決意をし、今は勇者とともにいる。

次、斧使い。

名前はモワティ・ウルフ。年齢は21。いわゆる獣人。猫の。猫なのにウルフとはこれいかに。獣人の権利拡大のために勇者と共にいる。

魔法使い。

名前はネピス・ホワイト。年齢は21。軍兵の父と軍医の母から生まれた。が、13歳の時に両親が遠征先で魔物に殺され、それ以来森で一人暮らしていたが勇者パーティに誘われ、行動を共にしている。

最後、勇者。

名前はライ・フランツ。年齢は21。だけ。なんとこの勇者、出生から今まで何をしてきたか、全てが分からなかったらしい。まあいいだろう。

報告は他にもあったが大した情報ではないので一部抜粋という形をとらせていただいた。半年かけたのだからもう少しいろいろ調べてほしかったが仕方がない。正体を隠して人類側に侵入するだけでも凄いことだからな。

作戦会議に移ろう。

というわけで魔王軍の幹部を召喚。いわゆる四天王とスクルードさん。

誤解されてはいけないから注釈しておくと召喚というのは比喩だ。魔法陣でゴゴゴゴゴみたいなのをイメージしてしまった人には謝っておこう。普通に部下を通して城に呼び出した。普段から城を守っているスクルードさんとは違い四天王は人類との境界でにらみを利かしている。


「よくぞ集まってくれたな。我が幹部たちよ」


とりあえず威厳を出す。スクルードさんは俺のことを魔王として上に立ててくれるけど、四天王の奴らはそんな感じが全くない。俺が若いというのはあるがそれでも舐めすぎている。いつか絶対に服従させてやる。絶対服従を誓わせてやる。


「あ、魔王様。ちっすちっす。何の用すか?」


この喋り方からチャラいことが分かるこいつはプランタン。男だ。他にも色々と紹介できることはあるがプライバシーの観点から今は話さないでおいてやろう。


「おいプランタン。魔王様相手にその言い方は何だ。魔王様も何か言ってやってください。ていうかてめえがそんなんだからこいつは調子に乗ってんだよ。ったく。その程度の教育もできねえのかよ。使えねえ魔王だなぁおい!!」


今のはエテ。こいつは発言の最初だけは部下っぽい。が。その後は見ての通り。見ての通りっていうか聞いての通りか。後半以降は様を取り除き使えねえ魔王呼ばわり。女だ。他にも色々と以下略。


「まあまあ、落ち着いてくださいエテさん。魔王様も悪気はないようですし、許してやってください。ねえ、イヴェールさんも何か言ってやってくださいな」


「……俺は魔王よりも強い」


……ダメだこいつら。一見俺をフォローしているかのように見えてその実エテに同意し俺をけなしていたのがオトンヌ。男。

先に名前が出ていたが、痛々しい発言をしながら俺を一番シンプルに下に見ているのがイヴェール。男。

こいつらの情報も俺はいろいろと持っているがこれもまた、伏せておこう。

今はとにかく勇者のことだ。


「集まってもらったのは他でもない。勇者のことについてだ。潜入部隊がいくらか情報を入手してきたから共有しておこう」


そう言って俺は勇者パーティの情報を伝える。


「大した情報量ではないが、何か気になることはあるか?」


「そうっすね。僧侶の欲している水っていうのは、イヴェールのところの水のことっすか?」


プランタンが尋ねる。


「……確かにそうだ。それがどうかしたのか」


イヴェールが答える。


「いやいやいやいや、崩すなら僧侶からって話でしょ。例えば…、こんなのはどうっすか」


そう言ってプランタンは作戦を説明した。

プランタンの作戦というのは簡潔に言うと、僧侶を勇者から引き離すというものだ。

勇者と斧使いにダメージを与えること自体はできるとスクルードさんが証明している。ただ、僧侶が回復魔法を唱え続けるからノーダメージになってしまうのだ。だったら、僧侶がいない勇者パーティを全員で袋叩きにすれば倒せるという読み。

で。肝心の僧侶をどうやって引き離すかといえば母を治す水を渡すと言って引き離す。上手くいけばいいが…。

というわけで、俺たちは作戦を練りに練った。















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