第3話

 村に足を踏み入れた悠真の目に飛び込んできたのは、乾ききった大地と、ひび割れた畑、そして渇いた表情の村人たちだった。


「……なんだ、この村……水がないのか」


村の中央広場の近くで、老人二人がひそひそと話しているのを耳にした。


「誰か、井戸でも掘ってくれればな……」

「ほんとになあ……もう長いこと雨も降らんしのう」


思わずカイルは口を挟んだ。


「僕が掘ります!」


老人たちは振り返り、目を丸くした。


「誰じゃ、お主……」


カイルの心臓は一瞬止まった。名前を言えば怪しまれるかもしれない――いや、多分絶対怪しまれる。咄嗟に咄嗟の思いつきで、口を開く。


「……カイルです」


老人たちは少し驚いたが、すぐに柔らかく笑った。


「カイル殿、ありがたく思う。よろしく頼んだぞ」


老人は簡素な石製のシャベルを差し出した。重く、無骨な見た目だが、十分に使えるものだった。


カイルはどこを掘ればよいか考えた。村の広場のすぐ脇、人気のない場所――ここなら作業も邪魔にならないだろうと決め、シャベルを地面に突き立てた。


1メートル、2メートル、3メートル――土は固く、時折小石が混ざっている。汗が額に伝い、腕はすでに疲労を訴えた。だが、カイルはひたすらスコップを振り下ろす。


2時間後、掘った深さは8メートルに達していた。カイルはふと立ち止まり、肩で息をしながら地面を見下ろす。


「ここじゃ、出ないのかな……」


後2メートルでこの場所は諦めようかと思い、スコップを再び地面に突き立てる。空は赤く染まり、夕日の光が村全体を包んでいた。


老人二人が心配そうに声をかける。


「カイル殿、もう休んでください……」


カイルは息を整え、汗まみれの顔を上げた。


「大丈夫です! 絶対にやり遂げます!」


再びスコップを振り下ろす。力が限界に近づくが、気持ちは折れなかった。


そのとき、森の方からピンク髪の女が現れ、少し心配そうに声をかける。


「そろそろ休めー」


だがカイルは答える。


「……もう少し、あと少しだけ」


スコップを突き立てた瞬間、地面が軋むように崩れ落ちた。


「……え?」


下から冷たい感触が手に伝わる。土が滑り落ち、次の瞬間、水の音が響いた。


歓声が上がる。井戸が、完成したのだった。


カイルは深く息を吸い込み、立ち上がる。村人たちの目には喜びと感謝の光が溢れていた。


「……やったんだ」


ピンク髪の女は、にこやかに手を叩き、カイルを褒めた。


「さすがカイル、すごーい!」


村は一瞬で、少し明るさを取り戻した。水は命の源、そして希望の象徴。小さな村の、未来への第一歩だった。



カイルの日記:第三話


村に入った瞬間、景色を見て驚いた。水が……ない。畑はひび割れ、村人たちは困り果てていた。


老人二人の話を聞いて、思わず「僕が掘ります」と口を出した。名前を言うと怪しまれると思い、とっさに「カイル」と名乗った。これも異世界マジックなのか、すんなり受け入れられた。


石のシャベルを手に、地面を掘ること2時間。腕も体も限界だったけど、諦めずに突き進んだ。夕日に照らされながら、もう駄目かと思った瞬間、地面が崩れ、水が湧き出した。


……井戸ができた。村人たちの喜び、女の笑顔、それを見て、俺は初めてこの世界で「何かできるかもしれない」と思った。


明日から、この村を育てるんだな……。

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