第4話

 井戸ができ、村に水が戻った。

だが、それだけでは生きていけない。食料が必要だ。


「まずは畑だな」


カイルは掘り出した井戸の水を桶で運び、乾ききった畑に撒いた。土は水をぐんぐん吸い込み、やがてしっとりと色を変える。村人たちの表情が少し和らいだのを見て、カイルも安心する。


だが、畑の作物が育つには時間がかかる。すぐに食べられるものが必要だ。


「森に行こう。動物を探す」


そう言うと、ピンク髪の女が微笑んだ。


「じゃあ私も同行するわ」


彼女は腰に差していた二本目の剣を抜き、カイルに差し出す。


「あなたも持ちなさい。丸腰じゃ危ないでしょ?」


カイルは驚いたが、受け取った。

「……ありがとう」


重さはずっしりと手に伝わる。剣なんて振ったことがない。けれど、この世界で生き抜くためには必要なものだと感じた。


二人は森へ入り、静かに歩いていく。木漏れ日の中、鳥の声が響き、時折、茂みがざわめく。


ふと、カイルは足を止めた。


「……いた」


視線の先には、獰猛そうな獣が身を低くして構えていた。牙を剥き、こちらを狙っている。


カイルは呼吸を整え、背後に回り込む。そして剣を振り下ろした。


――ザシュッ。


一撃目は確かに命中した。しかし獣は激しく暴れ、反撃の気配を見せる。二撃目を繰り出すが、刃は空を切った。


「くそっ……!」


カイルは焦りながらも追いかけ、剣を振るい続ける。ぎこちなく、力任せに――だが必死に。


最後の瞬間、カイルは剣を力いっぱい振りかぶり、渾身の一撃を投げるように突き出した。


獣は呻き声をあげ、ついに崩れ落ちた。


「……はぁ……はぁ……やった……」


汗で髪が張り付き、息は荒い。だが、カイルは勝った。


「初めてにしては、やるじゃない」

ピンク髪の女が嬉しそうに笑う。


カイルはその獣を背負い、村へと戻った。だが、全身が痛む。重い獲物を抱えながら歩き、思う。


「……これを毎回やるのは、無理だ」


そうだ。狩りの方法を変える必要がある。


村に戻ると、カイルは太い木の枝を探し、ロープを結びつけた。先端に輪っかを作り、枝をしならせて地面近くまで引き下げる。餌を食べにきた獣が輪に足を突っ込めば、重りが動き、枝が元の位置に戻ろうとする力で縄が一気に締まり、獣を持ち上げる仕組みだ。


「昔、野外学習でこういう罠を教わったんだよな」


土をならし、適当な場所に生えていたニンジンのような野菜を何本か並べて置いた。


「これでよし、と」


森に響く鳥の声を聞きながら、カイルは仕掛けを見上げ、静かに深呼吸した。

異世界での、生きるための一歩。


カイルの日記:第四話


井戸を掘った次は、食料だった。

畑に水を撒いたけど、作物が育つのには時間がかかる。だから森へ行って、獣を狩った。


……正直、怖かった。剣を振るなんて生まれて初めてで、最初は空振りばかり。でも必死に食らいついて、なんとか仕留めることができた。背負って村まで帰ったときは、全身が限界だった。


こんなのを毎日繰り返したら、死ぬ。そう思って、罠を作った。野外学習で覚えていたやつだ。木の枝とロープを使った簡単な仕組みだけど、これで獲物が取れればずっと楽になるはずだ。


……上手くいくかは分からない。でも挑戦しなければ何も変わらない。

明日は、この罠に何かかかっているといい。

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