ドギメギ荘

沙華やや子

ドギメギ荘

 真名まなは買い物袋を抱え、5階までエレベーターを使おうと待っている。

 築60年の古いマンション。今では不動産会社はこのマンションを「レトロ・アンティークで可愛い」と売り出している。

真名はそんなことよりもお家賃の安さに惹かれ、入居したのだ。


 エレベーターは確かにロマンチックな造りをしている。子どもの頃テレビで観た洋画に出ていた魅惑の扉が今目の前にある。網あみ。途中で手を加えたのかどうかはわからないが、古い割には自動だ。エレベーターを使うたび少しレディな気分になる。


 でも真名が前から違和感を感じていたのは鏡だ。(やっぱり手を加えたのかな?? あとから。これって車いすの人が乗り降りしやすくするために付けたと聞いたことがあるわ)ショートヘアの前髪を直していた。ガサゴソ! 腕にひっかけた野菜や牛乳の入ったけっこう重たいレジ袋が音を鳴らす。


 急に大きな音、ガタンッ! そう、このエレベーター止まる時にいつもすっごい衝撃……って、


           !!えッ?


 鏡におでこをぶつけてしまった、と思ったら真名は鏡をすり抜け……

身体ごと落ちて行った。


 ドスンッ!!……血まみれの真名。口から血を吐き首が曲がっている。なんで……? 意識が朦朧とする。

「入り口から来たか」地響きのような男の低い声がする。

 ろくに開かない目で真名はぼんやりと見た。

エレベーターのロープを引っ張り続ける男。しばらくすると離す。真名の体感では1時間ぐらい見ていた……引っ張る。離す……また引っ張る。繰り返している。

 数トンの籠をこの男が動かしていたのか??しかしだいたいに、男は籠が降りてくれば挟まれるはず。これは何。


 手に血豆を作り腕まで流れる血液。

「お前もやるか? ハッハッハッ」真名は、動けない。意識が遠のいて行く……


 真名の荷物は親族に持ち出され、空き部屋となった。


 1年経った……今でも真名の母親は街頭に立ち『この女性を知りませんか。行方不明です。110番下さい』と書かれ真名の顔写真の載ったビラを懸命に配り続けている。


 やがて真名の住んでいたマンションに新しい女学生が越してきた。

 その女性はいつものようにエレベーターに乗り、ポニーテールのまん中に指を入れ左右に持ちキュッキュと整えた。その直後……ポニーを何かに引っ張られ鏡の中へ

落ちた。


 ズドンッ!!……女性は即死した。目玉が飛び出している。


「フー……やっと交代できる」

 懸命にロープを引っ張り続けていた骨皮の真名は自ら

落ちてくる籠の下に飛び込み、潰れた。

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ドギメギ荘 沙華やや子 @shaka_yayako

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