第8話 マリアローズと愛川星華

あの決意から世界を元に戻すと決めたマリアローズは、日常の生活を送りながら敵と戦っていた。


誰か仲間になってくれる人間を探しながら、敵と戦う日々のマリアローズは、ある1人の少女と出会う。


「はあ、自分のした事とはいえ、こんなにも多いと大変だな」


そう言ってため息を吐くマリアローズは途方に暮れていた。自分が招いた事とはいえど、ほとんど毎日こんな生活を送っていたらため息を吐きたくなる。


しかも、自分の仲間になってくれる人間を探すのにも苦労するし、未だにあの時の彼女以外同じような人間を会っていないのだ。


「なんだろう……。なんか、普通の日常を過ごしている方が幸せなんだけど……。まあ、とりあえず他に敵はいないようだしもう帰ろう」


ため息を吐いて歩いていた時に、マリアローズの耳に悲鳴が聞こえてきた。


「なんだ!?」


走ってその悲鳴が聞こえた先に行くと、そこには自分と同年代ぐらいの女の子が蜘蛛の怪物の大群に襲われていた。


「まだ残っていたのか!!」


そう舌打ちをしたマリアローズは、彼女に襲いかかっている蜘蛛の怪物に攻撃をしていく。


今回の敵は、蜘蛛の怪物の姿だからか、動きを封じようと糸を出してくる。蜘蛛の怪物が糸を出してくる時に、マリアローズは炎魔法で蜘蛛の糸に火をつけて蜘蛛の怪物ごと燃やしていく。そして、蜘蛛の怪物を氷魔法で凍らせその氷ごと砕いていく。


「これで、おしまいだ!」


凍らせた蜘蛛の怪物達を砕き倒したマリアローズは、息を吐き後ろで座り込んでいた少女を見下ろす。


白を強調した衣装と右肩に伸びているマント。腰と胸にあるリボンは金色で、所々の装飾も同じ色をしている。


髪はセミロングの金色の髪にピンク色の瞳。綺麗でもあり可愛らしい顔立ちをした少女に、マリアローズは可愛くて綺麗な子だと思った。


あの時出会った彼女も可愛らしい顔立ちをしていたが、吊り目で目の前にいる彼女とは違ってどこか氷のような人だとは思ったが、上品な所もあり、それでいて自分を助けてくれた人でもあるから目の前にいる少女とは違った意味で可愛らしいと思う。


そして、反対の黒いフリルのようなワンピースも着ていたため、余計に目の前の少女とは違うと思った。そして、自分の容姿は赤い髪にグレーの吊り目の瞳だから余計に目の前の少女とは違う容姿をしていると感じる。


そんな風に思っていたマリアローズだったが、そんな事考えるよりも目の前の少女に話しかけないといけないと思い、彼女に手を差し出す。


「大丈夫?」


そう問いかけると少女は「あ、ありがとう……」と言って、手を掴んて起き上がった。


起き上がった彼女はマリアローズに目を合わせながらお礼を言ってきた。


「助けてくれてありがとうございます。あの……」


そう言ってお礼を言ってきた少女にマリアローズは「大丈夫だよ」と言って答えた。


「別に僕は死んでほしくないから助けただけだよ。僕のせいで死んだ命があるなんて、そんなのもう嫌だからしただけだよ。無事でよかった。どこかケガとかはしていないかい?」


「あ……うん、大丈夫です」


「そう、良かった」


少女に笑顔を向けながら言ってきたマリアローズに彼女は聞いてきた。


「あの……あなたのお名前はなんて言うの?」


「僕かい?僕はマリアローズ・ワインレッド。君の名前は?」


「わ、私は、愛川星華あいかわせいかです。よ、よろしくお願いします……」


「うん、よろしく。後、君僕と同年代ぐらいみたいだし、敬語は使わなくていいよ。普通に喋っ

て大丈夫だから」


「う、うん、分かった……」


そう言った後に、マリアローズは「もう、大丈夫みたいだね」と言って背を向けて顔だけ後ろに向けて話す。


「敵ももういないだろうし、それじゃあ、僕はもう行くね。今度は気をつけるんだよ」


そう言って帰ろうとした時に彼女から「待って!」大きな声で呼び止められた。


その声に不思議に思ったマリアローズが振り向くと、星華は言うか迷っている顔をしながら、やがて意を消したように口を開いた。


「わ、私も連れて行って欲しいの!」


そう言われたマリアローズは目を見開く。あの時の彼女とは違い、自分と一緒に行きたいと言われたのは初めてだった。驚きながら星華を見ていたマリアローズはゆっくりと口を開く。


「君を?」


そう問いかけると星華は頷きながら言ってくる。


「う、うん!私一人だと不安だし、誰かと一緒にいた方が落ち着くから。迷惑かもしれないと分かっているの!だけど、私も一緒に行きたい、お願いします!」


そう言って頭を下げる星華に対して、マリアローズは「分かった」と返事をした。


頭を下げた星華は顔をあげ「いいの?」と言うと、マリアローズは「うん」と頷く。


「君だけだとまた敵に襲われると思うし、僕と一緒なら安全だと思うから。もし敵に襲われても僕が君を守るから大丈夫だよ。一緒に行こう」


笑顔で言ってきたマリアローズに彼女は嬉しそうにして「ありがとう!」と笑顔でお礼を言う。


そして、手を伸ばしてきたかと思うと、星華はマリアローズの手を握りしめて「これからよろしくね。マリアローズ君!」と言ってきた。


その笑顔にマリアローズも笑いながら「あぁ、よろしく」と言って握り返す。


「それじゃあ、元の世界に戻ろうか。一緒にいても大丈夫かい?」


「うん!大丈夫、ありがとう!」


「いちいちお礼を言わなくても大丈夫だよ。僕はそんな大したことしてないし」


「ううん、マリアローズ君は私を助けてくれたんだもん。そんな大したことなんてって言わないで。あなたのした事はすごい事なんだから」


そう言われたマリアローズは目を見開きながら思う。今まで自分は自分の事ばかりで、誰かが自分のせいで犠牲になっているだなんて後から気づいて、もうその時は遅すぎて。今、助けた事だって彼女は自分のせいでこんな事に巻き込まれたのに、ありがとうとお礼を言ってくる事がマリアローズにとっては初めてだった。


目を潤ませて涙が出そうになったマリアローズは、彼女の前で泣かないようにと目を閉じて「ありがとう」とお礼を言う。


そんなマリアローズに星華は「どういたしまして」と優しく笑う。


マリアローズは星華の笑顔を見た後「行こう、早く元の世界に戻ろう」と言って一緒に歩く。


これで1人目の仲間が出来たマリアローズは、彼女を巻き込むのは気が引けたが、これも世界を元に戻すためだと自分に言い聞かせて、隣に歩く彼女を見つめる。


視線に気付き、目が合った星華は頬を染めながら「どうしたの?」と言ってくる。


「いや、これから僕と行動するのは大丈夫かなっと思って。僕といる事で君も今よりも危険な目にあうと思うし」


「そんなの大丈夫だよ。マリアローズ君が守ってくれるって信じてるし、何よりマリアローズ君の助けをしたいと思ったから。こんな何もできない私でも誰かの助けになれるならそうしたいの。あ、もちろんちゃんと私もマリアローズ君を守るから心配しないで」


「うん。でも本当にいいのかい?」


「大丈夫!何も取り柄がない私だけど、マリアローズ君のお手伝いが出来るならなんだってするよ!」


「君を助けただけで、こんなにしてくれるのは嬉しいけど、本当にいいのかい?」


「うん、大丈夫だよ!むしろやらせて欲しいな」


「そこまで言うなら分かったよ。ただしあまり無茶はしないでね」


「もちろんだよ、任せて」


「うん、任せたよ」


そう言ってお互い笑い合う2人は、元の世界に一緒に戻るために歩いていくのだった。


これがマリアローズ・ワインレッドと愛川星華あいかわせいかの出会いだった。その後、2人が仲良くなっていく内に、星華はマリアローズに起こった出来事を知る事になるのだった。

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