第9話 マリアローズと星華のお出かけ

あの出会いの数日後、マリアローズは連絡先を交換した星華と休日だということで、一緒に出かける事になった。


マリアローズは自分が起こした事、自分がこれからやる事を話すためとして、こうして星華とお出かけしようと待ち合わせしている。


「まだ、時間まで10分ぐらいあるか。早く来すぎてしまったな」


異性とデートという訳ではないので、ただ友達と遊ぶ事だと思っているだけだから、浮かれているわけではないが自分の性格上約束は守らなければならないと思っているので、待ち合わせ時間より早く来ることは当たり前だと自分では思っている。


だが、早く来てしまったかと少し不安に思ったマリアローズに近づいてきたのは、待ち合わせしている星華だった。


「ま、マリアローズ君。お待たせ……」


「ああ、星華か。まだ約束の時間になってはいないけれど……」


「うん。マリアローズ君待たせるのも悪いかなと思って早く来たの。迷惑だったかな?」


「ううん、大丈夫。むしろこっちに気を使わせてもらってごめんね」


「私は大丈夫だよ。マリアローズ君が早く来ていたのは驚いたけど嬉しかったよ。私のために早く来てくれたんだなと思って」


「ありがとう。僕も君を待たせるのが悪いと思って早く来たんだ。同じだね」


「うん、同じだね」


そう言ってお互い笑う2人。そして、マリアローズの「それじゃあ、行こうか」の言葉と共にマリアローズは星華に手を伸ばす。


「離れると大変だから、手を繋いでもいいかい?」


「う、うん。大丈夫だよ。今日はよろしくね」


「うん、よろしく」


そう言ってマリアローズの伸ばした手を握る星華は笑顔でそう言った。


それを見たマリアローズは、星華とどこに行くかの話をしながら、一緒に遊びに行くために色んな店に行くのだった。


ショッピングモールでどこのお店に行こうと悩んでいた2人は、目に入った洋服屋に入る事にした。


「初めて洋服屋とか来たけれど、色んな種類があるんだね」


「マリアローズ君は来た事ないの?」


「うん。変わった世界になってから色んな所行くようになって、まだゲームセンターしか行った事ないんだ」


「そうなんだ。意外だなぁ、マリアローズ君がゲームセンター行くなんて」


「意外かい?」


「うん。真面目だからそういう所行くのとか興味ないんだと思ってた」


「ふふ。確かにそう思われるのは当たり前だよね。自分でも驚いているよ。ゲームセンターや遊園地とか水族館とかそういう娯楽が多い所に行くのがこんなに楽しいんだなんて思わなかったから。世界が変わってから自分のやりたい事がやれるって嬉しくて。でも、そのせいで他に変わった物も多かったけど」


そう言って悲しそうにするマリアローズに星華は「そっか」と言ってこれ以上は聞かない事にした。


悲しい顔をしたマリアローズに星華は笑顔で「マリアローズ君の服とか選んでもいいかな?」と言ってくる。


「え、僕の服を?」


「うん。今のマリアローズ君の服も似合うけど他にも色々冒険してみようよ。きっと他の服も似合うよ」


「そうかな?でも、ありがとう。それじゃあよろしく頼むよ」


「うん!頑張るね!」


そう言って星華はマリアローズの服を選んでいく。容姿が良いマリアローズだから今着ている黒だけではなく、赤や茶色や黒以外の服を色々コーディネートしていく星華に、マリアローズは苦笑いしながら着替えていく。そして、星華が選んでくれた服を何着か買って午前中が終わった。


「もうお昼になったんだね。服選びだけで午前中が終わるなんて」


「ごめんね、マリアローズ君。マリアローズ君が似合いすぎて、つい熱が入っちゃった」


「ううん、大丈夫。僕も良い体験になったから。それに色々冒険するのが良いって星華が言ったんだろ。だったら僕が行ってなかった色んな所一緒に行こう。いいかな?」


「うん!もちろん!あ、まずはお昼ご飯食べようか」


「ああ、そうだね。それじゃあ、あそこの定食屋に行こうか」


そうマリアローズは定食屋を指差して2人で同じ席に座ってメニューを見て、お互い別の物を頼む。そして頼んだ物がついた後、食事をしながらお互いの事を話していく。


「へぇ、星華は女子校に通っているんだ」


「うん、そういうマリアローズ君の学校も有名校って噂のマレシアナ学園だよね。すごいなぁ、私とは違う世界だよ」


「そうかな?自分では普通だと思っているけれど」


ふとマリアローズの頭をよぎったのは、あの時初めて会った黒色の服を着た女の子だ。もしかして、星華と同じ学校に通っているのではないかと思い、星華に聞いてみる。


「あのさ、星華」


「何?」


「君の学校に、僕らと同じように戦っている女の子とかいないかい?水色の髪をサイドテールにしたお嬢様言葉を使っている女の子」


「水色の髪をサイドテールにしたお嬢様言葉を使っている女の子……。もしかして、西条つぼみ《さいじょうつぼみ》さんかな?」


「西条つぼみ……、多分その子だと思うけどどんな子なんだい?」


「うーん、私はあんまり話した事ないけれど、1回マリアローズ君と会う前に助けてくれた子でね。私も一緒についてきてもいいかな?って言ったんだけど断られちゃって」


「ああ、僕も同じ事言われたよ。僕も彼女に助けられたから、また改めてお礼を言いたいなと思っていたんだ」


「そうなんだ……。私もあれ以来から話していなんだ。一緒の学校には通っているんだけど、お嬢様だし私とは住む世界が違うというかなんというか……」


「それはそうだろうね、お嬢様だったら余計に」


「うん、それにこんな性格の私と違って、頼りになる人だし」


「そんな事ないよ。星華だって頼りになる子じゃないか。僕の事助けてくれるし」


「私は守る事しか出来ないから。自分の意見も言えないし、自分を好きにもなれないから」


「君には君にしかない魅力があると思うけど。そうだ、星華は何か好きな物はあるかい?それの事を考えたら気分が晴れるような何か」


「……歌を歌う事かな」


「歌?」


「うん、小さい頃から歌を歌うのが好きで、音楽を聴く時が自分を忘れる事が出来たから……。私将来歌手になりたいんだ。歌手になったら自分の事好きになりたいと思って。こんな理由で歌手になるなんてダメかな?」


「そんな事ないよ。どんな理由であれ将来の夢を持ってるなんてすごい事だと僕は思うよ。僕には将来の夢とかないからね」


「……マリアローズ君は前言ってたよね。自分のせいで犠牲になった物があるって」


「うん、そうだね。この世界になってしまったのは僕のせいなんだ。自分の願いでその人にとっての大切な物や、無関係な人をこんな戦いに巻き込んで、自分の自己満足で沢山の物を傷つけて。だからこれは罪滅ぼしじゃないけれどやならきゃいけないんだ。僕が傷つけた世界を元に戻すんだ。必ず」


そう話しながら、悲しそうに言うマリアローズの笑顔に星華は胸が痛くなるのを感じた。


しんみりしてしまった空気に気がついたマリアローズは「さっきのは忘れて」と言って立ち上がると星華に「ご飯も食べたし、他にも色々回ろうか」と星華に笑顔を向けて言う。


その笑顔にまた胸が痛くなった星華はこれ以上何も言わずに「そうだね、行こうか」と笑顔で言って立ち上がってご飯代を払って、次の場所に行く事にしたのだった。


昼からは洋服屋から靴屋で靴を見たり、文房具店でマリアローズが欲しかった文房具を見て買ったり、本屋に行ってマリアローズや星華が読んでいる本をお互い見せあったりしたのだった。


真面目なマリアローズがショッピングモールで楽しそうに笑いながら話している姿に、星華はマリアローズの事をもっと知りたいと思った。


(マリアローズ君は私を助けてくれた。そのお礼をしたいし、何より彼がどうしてこうなったのか知りたい。ううん、知らなきゃならない。今のマリアローズ君を理解できるのは私しかいないと思うから……)


自惚れかもしれないが、それでも彼の事が知りたい。そう決意を込めながら、マリアローズと夜まで遊んだのだった。


そして夜になり、もうすぐで店も閉まる時間に近づき始めていた。


「今日は楽しかったよ。こんなに友達と遊んだの初めてだったから」


「うん。私も楽しかったよ。ありがとう」


「こちらこそ。それじゃあもう遅いし帰ろうか」


そう言って歩き出そうとしたマリアローズに星華は「待って!」と言った。


その声にマリアローズは「どうしたの?」と答えると、星華は意を決してマリアローズに話してくる。


「マリアローズ君。この世界になったのは自分のせいだと話したけど、マリアローズ君は自分を責めすぎないで欲しいの。だって私マリアローズ君が頑張ってるの知ってるよ。自分のためじゃなくてみんなのためにしてるって。例え誰かが責めても私は責めない。私はあなたの味方だよ」


そう真剣な目で見つめられたマリアローズは目を見開く。自分に向かって味方だと言ってくれる星華の優しさに胸を打たれたマリアローズは泣きそうになりながらも「ありがとう」とお礼を言う。


そんなマリアローズに星華は「どういまして」と笑顔で言う。


「マリアローズ君、明日も頑張ろうね。私もついて行くから」


「うん。明日も頑張ろうね」


そうお互い笑顔を向けながら「それじゃあ、帰ろうか」と言って家に帰るために一緒に歩いて行くのだった。


先程の星華の言葉に激励されたマリアローズは、また明日も世界を元に戻すために頑張っていこうと決意しながら星華と共に家に帰る。


その後、星華の他に新たな仲間の出会いがマリアローズを待っているのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る