第二話 竜人の美少女

「ぜぇ……はぁ……や、やっと見えた……思ったよりも遠かったな……まさか、朝までかかるとは……」


 確か、普通に馬車で来られていれば、夕暮れまでには村につくはずだったのに……徒歩だと、朝までかかるとは……森の道を甘く見てたな……。


「道中で美女に逃げられるし……ついてないぜ……」


 ここに来るまでの間、とある美女たちに出会った。装備を見た感じ、冒険者みたいだったし、みんな美女だったから、俺は意気揚々と彼女たちに話しかけたんだが……。


『オッス!俺ガイコツ!かわい子ちゃん、最強の俺とパーティー組まない?』


『す、スケルトンが喋ってる~!?』


『スケルトンって喋るの!? 気持ち悪いっ!』


『なんか変な個体なのかも! いこいこっ!』


『あっ、逃げないでー!!』


 ……とまあ、こんな感じで逃げられちまってな……心身ともに疲れてしまったというわけだ。


「……とりあえず、少し休みたい……」


 フラフラした足取りで村の入口まで来ると、見張りをしていた男が、突然俺のことを指差しながら、声を上げた。


 おいおい、急にどうしたってんだ? 人を指差しながら大きな声を出すなんて、あまり行儀がいいとは言えないな。


「うわぁ!? スケルトンが、なんでこんなところに!?」


「あっ……やべえ……頭が働いてなくて、普通に近づいちまった……さっきもやらかしたってのに……」


 いつも俺は、変に人間を怯えさせないように、体が見えないような服を着て、フードを被って目立たないようにしている。


 しかし、疲れてそこまで気が回らなかったせいで、俺の頭は丸裸。このツルツル美白の頭を見れば、勘違いされても不思議じゃない。


「待った待った! 俺は魔物じゃない! 善良なガイコツだから!」


「ひぃぃ!? スケルトンが喋ってるぅ!? なんて不気味なんだー!?」


「だから、スケルトンじゃなくて、ガイコツな!」


「ガイコツでも、怖いものは怖いー!」


「うん、それは反論のしようがねーわ!!」


 酷く怯えながらも、武器はしっかりと構える見張りを相手に、どうやって説明すればいいか頭を悩ませていると、後ろから足音が聞こえてきた。


「あら、なにかもめ事?」


「ほわぁ!?」


 突然背後から声をかけられて振り向くと、そこに立っていた人物を見て、思わず変な声を出してしまった。


 真っ赤なロングヘアと、少し切れ長な美しい赤い目、小柄な体形とは裏腹に、背中に背負った大剣と太い尻尾、そしてすらっとしてるのに、出てるところはめちゃくちゃ出てる魅力的なスタイルなのが特徴的な、とんでもない美女だ。


 そんな彼女は、たわわに実った双丘を揺らしながら、俺たちの間に割って入ってきた。


「あ、あなたは?」


「あたし? あたしはニーファ。この村で、とある男と待ち合わせをしているの」


「あなたがニーファさんですか! 本日お越しになられると、村長から伺っております! ご到着早々に申し訳ないのですが、助けてください! 魔物が村に入ろうとしていて!」


「落ち着きなさい。スケルトンって、怨念を原動力に彷徨い歩く魔物で、意思は持っていないわ。でも、このよくわからない骨は、こんなに意思疎通が出来ているし、敵意も感じない。危険は無いんじゃないかしら?」


「で、ですが……」


 いくら普通のスケルトンと違う点があるとはいえ、大変遺憾ながら、俺の見た目はただのスケルトン。彼がすぐに納得しないのは、当たり前ではあるな。


「安心して。もし何かあったら、あたしが責任をもって、こいつを駆除するから。これでも、腕っぷしには自信があるの」


「ひゅ~、嬢ちゃん良いね~! 強くてカッコよくて、しかも超美女とか、最高かよ! 君、その尻尾って、竜人だよな! 人里に降りてくるなんて珍しいな!」


 普通に話しかけただけなのに、何故かニーファと名乗った少女は、ジトッとした目で俺のことを見てきた。


 うーん、そういう表情もとってもキュートだな! 美女はどんな顔をしても絵になるのは、もはや犯罪だと思うぜ!


「……あんた、こんなことになっているのに、随分と呑気ね。心臓に毛でも生えているの?」


「俺、ガイコツだから、心臓ないんだよな。よかったら見てみる? 可愛い女の子なら、いつでも大歓迎だぜ! あっ、でも少し恥ずかしいから……ちょっとだけな……?」


「急に乙女みたいに言わないでよ、気持ち悪い! やっぱりこの場で処分するべきかしらっ!?」


「ちょ、ストップストップ! 半分くらい冗談だから! そんな怖い顔すんなって! 思わず鳥肌立っちゃったから!」


「半分は本気なんじゃないの! それに、肌が無いのに鳥肌が立つわけないでしょ!」


「いや、これが実は立つんだなぁ。ほら、こことか見てみ?」


「うわぁ、骨なのに鳥肌が立ったみたいに、ブツブツしてるんだけど!? キモい! あんたの体、どうなってるのよ!?」


 どうって言われても、そういう体質なんですとしか言いようがない。俺だって、この体の全部を知ってるわけじゃないし……。


 それにしても、ニーファと話してると、なんだかすごく楽しいな。表情がコロコロ変わるし、なんでも返してくれるし。

 俺、彼女のことが気に入った! ぜひ仲間に加えたい!


「はぁ……なんかムカつくけど、とりあえず大丈夫だと思うわよ」


「……そうですね。スケルトンが、こんなに人と漫才が出来るとは、思えませんし……」


「漫才って……それで納得されるのは、釈然としないわね」


「俺はそうでもないぜ? せっかくだし、夫婦漫才で覇権を取るとかどうだ?」


「お・こ・と・わ・り! あたしにはやらなきゃいけないことがあるの! この剣の錆になりたくなければ、大人しくしていることね!」


「えぇ~!? なら……ごほんっ。オッス!俺ガイコツ!かわい子ちゃん、最強の俺とパーティ組まない?」


「はぁ?」


 爽やかな挨拶をしたというのに、ニーファから返ってきたのは、こいつなに言ってんだって感じが、ふんだんに込められた短い言葉だった。


「俺さ、一緒にS級パーティを目指す人を探してるんだよね! それで、ニーファのことが気に入ったから、一緒に組みたいって思ってさ!」


「へえ、大変ね。でも、それもお断り。骨と組む趣味は無いのよ。それにあたし、この後新しいパーティに入る予定だから。それじゃ」


「がびーん……」


 見事にフラれてがっくりとうなだれている間に、ニーファは足早に村の中へと消えていってしまった。


 はぁ……なるほどねぇ。あの子がベクターのパーティに入る新人ってわけか……あれだけの美人で、しかも竜人というとても珍しい存在から声がかかったら、そりゃ俺はいらなくなるわな……。


 くっそー! せっかくS級パーティの一員になれたと思ったのに! 目的を果たせてないのに、あんな巨乳ツンツン超絶美女が立ちはだかるとは、これっぽっちも思ってなかったんだが!?


「はぁ、人生はなにがあるかわからないもんだな……」


「えっと、元気……出してください?」


「あはは、ありがとう……んで、俺は入っても大丈夫かな?」


「何も問題を起こさないとお約束できるなら……」


「それに関しては大丈夫さ。なにせ俺は、心も体も骨太な、善良なガイコツだからな!」


 ガイコツに善や悪ってあるのだろうかと、見張りの当然の疑問を背に受けながら、村の中へと進む。

 発展しているとはお世辞にも言えないものではあったが、とても自然豊かで、のどかな場所だった。


「冒険者を引退したら、こういう静かなところに住むのもありだな……おっと、村の人たちを怖がらせるわけにはいかないし、今度はちゃんとフードを被ってっと……これでよし。宿屋はどこだー?」


 一秒でも早く休みたい一心で、懸命に宿屋を探すと、五分もかからずに見つけることが出来た。


「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」


 おっと、素朴で素敵な女性が女将をしているのか。これは素敵な出会い……親交を深めなければ男の恥!


「はい、その通りさ、麗しの彼女。よければ今夜、星空を見上げながら語りあわないか?」


「は、はぁ……もうしわけございません、私は夫も子供もおりまして……」


「おっとっと……それは失礼。不躾なことを言ってしまった哀れな男は、素直に退散するとしよう。部屋はどちらかな?」


「二階の部屋になります。ごゆっくりお休みください」


「ありがとう」


 俺の信条として、いくら相手が美人でも、家族や恋人がいると知ったら、潔く身を引く! これは、ガイコツの法で決まっている大事なことだ。


 ……ガイコツの法ってなんだって? そんなの、俺が考えた素晴らしい法だ! いつか、世界中の美女に聞かせてあげたいぜ~。


 それよりも、部屋の場所だが……ここだな。ではご対面~……おっ、しっかり掃除も行き届いているし、布団もフカフカ。今の俺にとっては、ここは砂漠にポツンとあるオアシスだ。


「よし、寝よう。今日はもう歩き疲れた。腹も減っているけど、それは後でいいや。明日も素敵な美女たちと出会えますように……あと、新しいパーティが見つかりますように……すぴー……」

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