『また会う日まで』


「──一緒に生きたいって言ったら……怒りますか?」

「っ、レイくん!?」

「どこまでも居させてください。……貴方の、隣に」


 その言葉に、一瞬何も考えられなくなった。

 だって、その選択は、あまりにも。


「待ってレイくん!本当に…本当に良いの?」

「良いんです。──もう決めたから」

「……っ」


 けれど、嬉しかった。レイくんが俺の隣を選んでくれた事が。

 思わず少しだけ泣きそうになって──でも、向こう側から涙を堪えるような声が聞こえて、なんとか耐えた。


「……じゃあ、迎えに行くね。待ってて」

「はい。ずっと待ってますから」


 通話が切れる。もう少しで時間が迫る。

 何があっても生きて帰る──そう心に決めたのだった。



『……はい、じゃあ皆さんどうもこんばんは〜、レイディアです!』

『今日はいつもみたいに歌、歌っていこうかな』

『…じゃあ聴いてください。

  ──“時間切れの愛”。


 間に合わなかったんだ たった一言すら


 「待ってて」も「好きだよ」も どこにも届かず


 あの日 交わした嘘みたいな約束だけが

 
今も ここに 息をしてる


 服の裾を引くように

 
残された夢が揺れる

 僕はまだ まだ君に

 
なにも返せないまま


 時間切れの愛だったとしても

 僕は今でも 君を想ってる


 誰かに笑われてもいい

 この想いだけは 信じてる

 “あの時”が すべてだったんだ


 夜が来るたび あの道を思い出す

 「生きて帰ったら、逃げよう」って 

 不器用に笑ってたね


 ああ なんでだろうね

 僕はまだ ここにいるのに


 もう 何を待っても 

 君は 戻らないのに


 時間が足りなかっただけなんだ

 愛してないわけじゃなかったんだ

 何度夢に出ても 手が届かないのは


 きっと あの瞬間が 終わりだったから』


『…ごめんなさい』

 涙交じりの声が、小さく聞こえる。レイディアはまるで、誰かを想っているかのように、懺悔のような言葉を吐いた。

『約束しなかったら…なんて、今更ずっと……思ってて』

『…あの日ちゃんと、言っておけば良かった』

『──だって、言えないなんて、思ってもなかったから』

 深く、息を吸う。全てを飲み込むようなその呼吸に、誰しもが息を呑んだ。


『時間切れの愛だったけれど

 
終わらせたくなくて 声にしたんだ

 たったひとつ 君に伝えたかったこと

 
今さらだけど、聞いてよ──』


『…愛してた。』



 戦争が始まって数年後。帝国側は不利な状況にも関わらず、共和国に対して勝利を収めた。

 しかしながら、その犠牲は決して少なくはなく、終戦の日から順番に、ラジオでは犠牲となった人々の名前が一人ずつ読み上げられた。


『──それでは、本日も勇敢なる戦士たちに哀悼の意を捧げよ』


 レイは、その声に顔を上げる。

 毎日、毎日。一人も聞き逃すことなく耳を傾けてきたが──それも今日が最後だった。

 アゼル・コーディアル准将。陸戦部隊隊長。

 その名は永遠に──レイの心に残っている。

 

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