Episode.18 未来への布石 ― ギルドとの盟約
◆ 社長の宣言 ― 工房の未来◆
アウルディーン=ネクサス、大会議室。
円卓の中央には光を放つホログラム装置が置かれ、壁一面の水晶板には外界の青空が映し出されている。
仲間たちが勢揃いし、それぞれの椅子に腰掛けると、ネルフィは静かに立ち上がった。
まだ幼い少女の体。だがその背筋はまっすぐに伸び、視線は迷いなく仲間を射抜いていた。
「――ここからが、本当の始まりよ」
その声は小柄な体からは想像できぬほど強く、はっきりと響いた。
次の瞬間、天井に大きなホログラムが浮かび上がる。
都市地図、物流ルート、街と村の配置、そして「工房」のマークが次々と拡張されていく。
ネルフィは胸元のネックレスを握りしめ、一歩前に進む。
「まずは、ミッドウェル街にアウルディーン工房の2号店をオープンさせる。――場所は、私たちが最初に立ち上げた、あの場所」
驚きとざわめきが仲間たちの間を走る。
榊は腕を組み、「懐かしいな……」と呟き、レオンは椅子から半身を起こして「原点に帰るってわけか」と頷いた。
双子のレイナとエレナは「きゃーっ! 2号店なんて響き、最高に華やか!」と手を取り合い、セレナは帳簿を抱えたまま小さくため息をついた。
ネルフィの瞳は宝石のように輝き、言葉に熱を帯びていく。
「でも、それだけじゃない。街だけじゃない。村にも、国にも。――世界中に工房を広げる。アウルディーン・ギアワークスを“未来の灯”にする!」
その瞬間、ホログラムの地図が眩く光り、各地に工房のマークが次々と増えていく。
夢想ではない、確かな未来図。
仲間たちは圧倒され、次の瞬間には拍手と歓声が湧き起こった。
「面白ぇじゃねえか!」榊が笑い、ひょうたんを鳴らす。
「ふん、俺の刀の出番が増えるな」
「お嬢の言うなら、俺はどこまでもついていく」
「ネルフィ、すごい……! 本当に、未来を作ろうとしてるんだ」レオンは隣で微笑み、視線に誇らしさを込める。
アルスは眼鏡のようなモノクルを押し上げ、冷静な声でまとめた。
「経営計画としては破格ですが……ネルフィ様ならば可能でしょう」
アイリスはモニター越しに「やれやれ、また忙しくなるじゃん……でも、悪くないね」と呟き、マリウスは「定時までに終わる仕事なら、全部やる!」と胸を叩いた。
ユリウスはにやりと笑い、「よし、俺の口先で新店舗を満員御礼にしてやろうじゃないか」と余裕たっぷりに答え、リーは「食べ放題が増えるなら大歓迎!」と豪快に笑い飛ばす。
その場の空気は熱と笑いに包まれていた。
ネルフィはそんな仲間たちを見渡し、小さく深呼吸する。
「……ありがとう。私は一人じゃない。だからこそ――工房は“家族”であり、“未来”になる」
その宣言は、ただの夢物語ではなかった。
小さな少女の声は、巨大な都市を動かし、世界に挑む力へと変わっていったのだった。
◆◇◆◇
◆ 2号店スタッフ発表 ― 新しい役割◆
ネルフィはホログラムの画面を切り替え、鮮やかに浮かび上がる新たな設計図を示した。
「次は――ミッドウェル街に設立する2号店のスタッフ体制について話すわ」
仲間たちの視線が一斉に集まる中、ネルフィは小さく頷き、宣言する。
「2号店のスタッフは、ユリウス、セレナ、リーに任せる。店長は……セレナ。――頼んだわね」
「……えっ?」
思わず声を漏らしたのはセレナだった。白猫の耳がぴくりと立ち、青い瞳が大きく揺れる。
「わ、私が……店長?」
猫耳がぷるぷる震え、頬はうっすらと赤く染まる。普段は冷静沈着な彼女の動揺に、場はどっと笑いに包まれた。
「お前しかいないだろうよ。帳簿も在庫も、誰より正確なんだから」榊が笑みを浮かべて肩をすくめる。
セレナは数秒黙り込み、やがて小さく息を吐いた。帳簿を握る手に力がこもる。
「……わかりました。やるからには、完璧に仕切ります」
その言葉に仲間たちは拍手を送った。
一方でユリウスはにやりと笑い、椅子に背を預ける。
「店の顔は俺に任せろ。俺の口先一つで客を虜にしてやる。……特に女性客をな」
「バカなこと言ってるんじゃないわよ!」双子のレイナとエレナが同時に突っ込み、場がさらに賑やかになる。
そしてリーは胸を張り、豪快に笑った。
「接客も拳も、どっちも得意だからね! 店で暴れる奴がいたら、容赦なくぶっ飛ばしてやるわ!」
「……それはほどほどにしてね」ネルフィが苦笑しつつも、その頼もしさに安心する。
ネルフィは続けて、指をホログラムに走らせる。
「そして……店には人型サイズのアイアン・センチネルを導入するわ。力仕事や搬入は彼に任せる。さらに――カウンターには小型メカを常駐させる。攻撃型2、防御型2。店内で危険があれば即座に対応できる」
その言葉に場がどよめいた。
「……なんだ、それ。ちょっとした要塞じゃないか」榊がひょうたんを傾けて笑う。
「これなら安心してネルフィを任せられるな」レオンが真剣に頷く。
「おーっし! 面白くなってきたじゃねぇか!」ユリウスが勢いよく立ち上がり、手を広げて宣言する。
「“アウルディーン工房2号店”――俺たちが最高に盛り上げてやる!」
セレナはまだ耳を赤くしながらも、帳簿を抱えて小さく呟いた。
「……責任重大ね。でも……悪くないわ」
リーは大皿を抱えたままニッと笑い、
「開店祝いに、まずは食べ放題イベントを企画しましょう!」と冗談めかして提案した。
笑いと熱気に包まれた大会議室。
2号店――それはただの支店ではない。仲間たちの新しい挑戦であり、未来を築く足掛かりとなる場所。
ネルフィは皆の顔を見渡し、小さく頷いた。
「……ここからが、本当に、私たちの工房の広がりの始まりよ」
その声に応じるように、ホログラムの地図に輝く「2号店」の光が、確かな未来の証として強く瞬いていた。
◆◇◆◇
◆ バイト募集 ― 新しい顔ぶれ◆
ネルフィはホログラムを切り替え、まだ基礎工事の途中であるミッドウェル街の土地の映像を映し出した。
枠組みだけが組まれた三階建ての骨組み――未来の「アウルディーン工房2号店」だ。
「……2号店は、まだ建設途中。土地はあるけど、建物も内装も未完成。だから――私たちだけじゃなく、現地で働く人手が必要になる。レジや接客、在庫の整理を任せるバイトを募集するわ」
真剣な声に仲間たちは一斉にざわめいた。
ユリウスが真っ先に手を挙げ、にやにや笑いながら口を開く。
「で、そのバイトってどこから連れてくるんだ? まさか俺が街で声かけしてくるとか?」
「やめておけ、ナンパになるだろう」榊がすかさず突っ込む。
ネルフィは苦笑しつつも頷いた。
「まずはミッドウェル支部のハンターギルドから数名。それから――一般の若者たちからも募集するつもり。ギルドマスターに口添えを頼んで、信頼できる子を紹介してもらう」
「ほう……街の普通の若者か」榊は腕を組み、顎を撫でながら呟いた。
「冒険者でも兵でもない、普通の市民ってやつだな。……面白そうだ」
アルスは眼鏡を押し上げ、静かに微笑んだ。
「新しい仲間が増えることは、組織の柔軟性にも繋がります。彼らの視点は、我々の盲点を補ってくれるかもしれません」
「にゃふふ、それってドジっ子が増えるってことかにゃ?」シロが無邪気に跳ね、アカが続けて「にゃにゃっ♪ 工房がもっと騒がしくなるにゃ!」と楽しそうに言う。
その様子に、リーは大皿を抱えながら豪快に笑った。
「いいじゃない! 若い子たちが入ってきたら、食堂ももっと賑やかになるし! ……ただ、問題起こしたら拳で教育するわよ」
「おいおい……それは怖すぎるだろ」ユリウスが肩をすくめ、仲間たちから小さな笑いが起こる。
ネルフィはそんなやり取りを見ながらも、真剣な瞳で結論を口にした。
「工房は“家族”よ。だから、新しく来る人たちもただのバイトじゃなく――仲間として迎えるつもり。……たとえドジでも、失敗しても、それごと支えるのがアウルディーン工房だから」
その言葉に、場の空気が一気に温まった。
こうして――「普通の街の若者たち」が、アウルディーン工房2号店のスタッフ候補として募集されることが正式に決定した。
誰もが予想もしなかった“コミカルなトラブルメーカー”となる新キャラたちの登場は、この瞬間から既に始まっていたのだった。
◆◇◆◇
◆ 役割分担 ― 工房内の配置◆
◆ 役割分担 ― 工房内の配置
ホログラムの光が会議室の中央に浮かび上がる。
その中に映し出されたのは、アウルディーン=ネクサスの詳細な内部図と、仲間たちの名前と役割を示すラインだった。
ネルフィは小柄な体で前に立ち、胸を張って仲間たちに告げる。
「――これが当面の配置よ。みんなが自分の力を最大限に発揮できるように考えたわ」
彼女の言葉に合わせて、一人ひとりの役割が表示されていく。
---
マリウス → 格納庫の管理、システムの維持、メカニック全般、研究助手
「俺に任せとけ。定時までに終わらせるからな」
軽口を叩きながらも、その目は真剣。弟妹を養う彼にとって、責任感は人一倍だ。
ゼルダン → 裏社会・悪の組織の情報収集
「へっ、また危ない橋を渡らせるじゃねえか。だが金じゃなく“信頼”のためなら、今回はやってやるさ」
にやけた顔に、仲間たちも苦笑を漏らす。
アイリス → ネクサスのセキュリティ管理、航行管理、世界中からの情報収集(ハッカー業務)
「……ふん。私に任せなさい。千のセキュリティでも一晩で破れるし、向こうから侵入なんて絶対無理」
モニターに囲まれた彼女の部屋の光景が映し出され、仲間たちは呆れ半分、頼もしさ半分で頷く。
アウルディーナメカ(コルト・デイジー・フィクス・ミーナ) → ラボで研究開発のサポート
「ネルフィ様の夢を支えるのが、我々の存在理由です」
それぞれの声が響き、ラボのホログラムに整然と動くメカたちの姿が映る。
カイン → 経理担当
「女性と……いや、帳簿と向き合うのは俺の天職だからな」
半分冗談めかした言葉に、双子が「どっちが本職なのよ」と冷ややかに突っ込み、場が和む。
アルス → 執事兼秘書
「ネルフィ様の傍らで、全体の調和を見守ります」
黒猫の姿で語るその声は落ち着きと信頼に満ちていた。
アカ&シロ → アルスのサポート
「にゃふふ~、シロも頑張るにゃ!」
「アカもお手伝いするにゃ!」
膝の上で転がる二匹の愛らしい声に、緊張していた空気が一瞬で和らいだ。
榊 → 用心棒兼戦闘時の斬り込み隊長
「俺はただ、お嬢を守るだけだ。それで十分だろ」
ぶっきらぼうな言葉に、しかし全員が安心する。榊の背はまるで城壁のようだ。
レオン → ハンター兼社員、ネルフィの護衛
「俺の役割は一つだ。ネルフィを守る。それだけだ」
真っ直ぐすぎる言葉にネルフィが少し照れ、仲間たちが苦笑を浮かべる。
リル → 番犬、召喚されるや否やネルフィを守護する
「……」
言葉はなくとも、その鋭い眼光が全てを物語る。
ラム → マスコット兼護衛
「ぷるるんっ♪ ネルフィ、守る~」
机の端でぷるぷる震える姿に皆が笑い、重苦しい空気がまた緩んだ。
双子(レイナ&エレナ) → 受付・通信対応・商品管理・クライアントとの交渉
「任せなさい! 華やかさは私たちにしか出せないわ!」
「そうそう、ただし在庫は勝手に減らさないようにね?」
息の合った姉妹の掛け合いが響き渡る。
リュミエール → 酒場で精神的なサポート
「ここは戦う場所じゃない。飲んで、笑って、心を癒やす場所。だから私はここにいる」
幽光を帯びた姿が浮かび、仲間たちはどこか安心した表情を見せた。
---
ネルフィは一同を見回し、きっぱりと言い放った。
「――これが、アウルディーン工房の当面の配置。みんな、自分の役割を全うして。私たちはこれから、世界に工房を広げる。そのためにまず、この“家族”が強くならなくちゃ」
彼女の言葉に、仲間たちは一斉に頷いた。
戦火の嵐が迫ろうとも、この日確かに「未来を織りなす工房の絆」が結ばれたのだった。
◆◇◆◇
◆ ミッドウェル街 ― ギルドマスターとの再会
アウルディーン=ネクサスから転移ゲートを抜け、ネルフィたちは久方ぶりにミッドウェル街へと姿を現した。
吹き抜ける風に、かつて荒廃していた街の匂いはもう薄くなり、復興の灯が少しずつ戻りつつあった。修繕された屋根、開き始めた商店、笑みを取り戻しつつある人々――その光景を見て、ネルフィは胸の奥に温かさを覚える。
「……ここから、また始めるんだね」
ぽつりとこぼした呟きに、隣で歩くレオンが頷いた。
「お前の工房の原点だろ。なら、ちゃんと踏みしめていかないとな」
彼の真紅の瞳は柔らかく揺れ、ネルフィの横顔を守るように見つめていた。
やがて、彼らは街の中心にあるハンターギルド本部へと辿り着いた。
重厚な扉を押し開けると、内部は以前の沈鬱さが嘘のように賑わいを取り戻していた。
依頼掲示板の前では冒険者たちが肩をぶつけ合いながら依頼を奪い合い、受付嬢たちは山積みの書類を鮮やかにさばいている。
酒と鉄の匂い、そして人々の笑い声。――生の匂いが戻っていた。
その奥、執務机に座るのはギルドマスター、グラウス・エルンスト。
かつて帝国に磔にされかけ、死地をくぐり抜けた男は、未だ体に包帯を残しながらも眼光鋭く仲間を迎えた。
「……ネルフィか」
低い声が響く。
ネルフィは背筋を正し、きちんと頭を下げた。
「ただいま戻りました、ギルドマスター」
グラウスは静かに立ち上がり、分厚い手をネルフィの肩に置いた。
その掌からは荒れた皮膚の硬さと、同時に温かい信頼の重みが伝わってくる。
「街を救った恩人が、頭を下げる必要はない。……それで? 今度は何を企んでいる?」
ネルフィは真剣な眼差しでホログラムを展開した。
執務室の空中に「アウルディーン工房 2号店」の設計図が広がり、光が机を照らす。
「再び、この街に工房を開きます。街の皆に還元したいんです。
ただし今回は――もっと多くの仲間で、もっと大きく」
仲間たちの表情が明るくなる。
ユリウスは口角を上げ、「俺の口八丁で客を引き寄せてやる」と冗談めかし、
リーは拳を軽く掲げて「暴れる奴は全部私が片づけてやる!」と笑う。
セレナは帳簿を胸に抱きしめるようにして、静かに言葉を添えた。
「……店長の任、引き受けます」
ネルフィは力強く頷き、さらに続ける。
「そこで、アルバイトを募集したいんです。一般市民から数名、そして……ギルドからも数名。信頼できる若者を紹介してもらえませんか?」
その一言に、グラウスは一瞬沈黙し――次の瞬間、豪快に笑い声を響かせた。
「はははっ! 面白い! 街に職と灯を増やすか! お前らしい発想だ」
机を拳で叩きつけるように鳴らし、その声は執務室の奥まで響き渡った。
「いいだろう、若い芽を三人ほど推薦してやる。……ちょっと荒いが、根は真っ直ぐな奴らだ。ギルドに燻っている若造ども、街の未来に預けるとしよう」
ネルフィは小さな手を胸に当て、深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。必ず、この街に“未来”を届けます」
その言葉に、仲間たちの顔も引き締まり、決意がひとつに重なっていく。
――原点の街に、再び工房の灯がともる。
それは小さな一歩でありながら、確かに世界へ広がる未来への大きな始まりであった。
◆◇◆◇
◆ 逆提案 ― 未来を守るための策 ◆
会談の空気が一度和らぎ、仲間たちがホログラムを覗き込みながら未来の話をしていたその時――。
ギルドマスター、グラウスの表情がぐっと引き締まった。
「……ネルフィ。もう一つ、お前に正式な依頼を出す」
低く響く声に、執務室の空気が一瞬で張り詰める。
ネルフィは息を呑み、小さな身体を伸ばして姿勢を正した。
「……依頼?」
グラウスは椅子からゆっくりと立ち上がり、分厚い手を机へと置いた。
包帯の残る拳がぎし、と軋む。
「チンピラ
奴らはこの街に巣食い、復興を妨げ、住民から搾り取り続けている。
……潰せるのは、お前たちしかいない」
その言葉に、室内の空気が一気に引き締まる。
榊は黙って腕を組み、刀の柄へと自然に手をやった。
レオンは剣を腰に軽く当て、鋭い眼差しを向ける。
アイリスは苛立ちを隠さずに「チンピラごときが……」と舌打ちをし、ゼルダンは口の端を吊り上げて「裏から締めてやろうか」と呟く。
一瞬にして場の空気は緊張に包まれた。
だがネルフィは目を閉じ、静かに深呼吸をしてからまっすぐにギルドマスターを見返した。
その瞳は決意に満ちていた。
「引き受けます。でも……ひとつだけ、提案してもいいですか?」
「……ほう?」
グラウスが眉をひそめる。
ネルフィはホログラムの操作盤に手を触れた。
街全体の地図が空中に投影され、路地や倉庫に小さな赤いマーカーが灯っていく。
「赤牙を叩くだけじゃ根は断ち切れません。
ギルド内部に潜む密偵や、物流を妨害する連中……一掃する必要があります。
さらに、街のセキュリティも強化すべきです。監視網の再構築、非常時の転移ゲート、街区ごとの警備体制。ネクサスの技術を応用すれば、この街を“砦”に変えられる」
語り口はあくまで冷静で、付け足しのように聞こえる。
だが言葉の一つひとつは鋭く、まっすぐに未来を指していた。
仲間たちは短く頷いた。
「確かに、それは必要だ」
「街の治安が安定すれば、工房の仕事も安心してできる」
――そんな程度の反応で、特に深く踏み込む者はいなかった。
グラウスは一瞬目を細めた。
だがすぐに、口の端を大きく吊り上げ、豪快に笑い声を上げる。
「……大胆な考えだ。だが、気に入った!」
彼は重々しく歩み出ると、ネルフィの前に立ち、厚い手を差し出した。
「赤牙を倒せ。そして街を守れ。お前の灯火を掲げるなら、この老いぼれがその背を支えよう」
ネルフィは迷わず小さな掌を重ねた。
少女の手と、傷だらけの大きな拳が固く結ばれる。
「――必ず、この街を守ります」
「――必ず、この街を生かす」
二人の声が重なり、執務室に力強く響いた。
その場にいた誰もが、この瞬間を「依頼を受けた少女と、それを支える老戦士の誓い」としか見ていなかった。
だが、この握手こそが――後に街を揺るがす大いなる仕掛けの幕開けであることを知る者は、まだ誰もいなかった。
◆◇◆◇
◆ 新たな仲間志願 ― クラリスの決意◆
執務室の扉が、控えめに、けれど確かな意思をもって「コン、コン」と叩かれた。
「……失礼します」
柔らかな声と共に入ってきたのは、ミッドウェル支部の受付嬢――クラリスだった。
いつもの控えめな笑顔ではなく、決意を宿した瞳をしていた。
グラウスとネルフィが振り返る。
クラリスは深く頭を下げ、胸の前で手をぎゅっと握りしめた。
だが次に顔を上げた時、その瞳は真っ直ぐにネルフィを射抜いていた。
「……私に、アウルディーン工房2号店で働かせてください。
レジや在庫管理なら任せてください。必ず役に立ちます」
唐突な言葉に、ネルフィは驚き、思わず目を瞬かせる。
「クラリス……あなたが?」
横でグラウスは苦い顔をし、眉間に皺を寄せた。
「……聞かれてしまったか」
彼の声には諦めと同時に、どこか誇らしさが混じっていた。
クラリスは一歩進み、祖父に視線を向ける。
「お祖父様。私はもう、“ただの受付嬢”として隠れているだけじゃ嫌です。
危険なのは分かっています。けれど――ネルフィ様と、この街を守りたいんです」
その声は震えていたが、瞳の光は揺るがなかった。
ネルフィは短く息を吸い込み、彼女を見つめ返す。
思い返せば、クラリスはいつも地味で目立たなかった。
だがその奥には、誰よりも真剣に人々を見つめ、支えたいと願う芯の強さが隠れていたのだ。
沈黙の後、ネルフィは小さく微笑んで頷いた。
「……わかった。クラリス。あなたも私たちの仲間よ」
その一言に、クラリスの頬にぱっと赤みがさし、目に涙がにじむ。
「……ありがとうございます!」
グラウスは静かに目を閉じ、大きな息を吐いた。
そしてゆっくりと目を開き、孫娘を見つめる瞳はどこまでも優しかった。
「ネルフィ……孫を頼んだぞ。あの子は、私の誇りだ」
ネルフィは真剣な表情で頷き、クラリスに手を差し伸べる。
「一緒に頑張ろう。クラリス」
その手を震える指で握り返しながら、クラリスは心の奥で強く誓った。
――もう「ただの受付嬢」じゃない。
これからは、仲間として、アウルディーン工房を支えるのだと。
こうして、新たな仲間の未来が決まり、工房の物語はさらに広がっていった。
◆◇◆◇
◆ 試験への誓い◆
ギルドの重たい扉を押し開けるその直前、ネルフィは足を止めた。
振り返った彼女の小柄な姿は、しかし誰よりも堂々としていた。
胸元のネックレスをそっと握りしめ、はっきりとした声で言葉を紡ぐ。
「――近いうちに、私とレオンのFランク昇格試験を受けます。
そして……他の仲間たちも、それぞれ昇格試験に挑ませます。
私たちは止まらない。必ず次の段階へ進み、この街と世界を守ってみせます」
仲間たちの間に、静かな緊張が走った。
榊は腕を組んで「ふん」と鼻を鳴らし、だが口元にはわずかな笑み。
セレナは耳をぴくりと動かしながら真剣に帳簿を抱え直し、ユリウスは「また俺の出番ってわけか」と軽口を叩いた。
リーは豪快に「面白い! なら私も拳を磨いておくわ!」と拳を鳴らす。
レオンはネルフィの隣に立ち、腰の剣に手を添えた。
その赤い瞳は真剣さと、彼女への信頼で輝いている。
「次の戦いに備えよう、ネルフィ。お前と共にいる限り、俺は何度だって強くなる」
ギルドマスター・グラウスは深く頷いた。
その瞳はかつて戦場を駆けた戦士の鋭さを宿しつつも、同時に祖父として孫を見守るような温かさを滲ませていた。
「……頼もしいな。お前たちが背負う未来に、私も賭けよう。行け、アウルディーン工房の仲間たち。街は――そして世界は、お前たちを待っている」
ネルフィは小さく息を吸い込み、強く頷く。
扉の向こうには復興の最中のミッドウェル街、そして揺れ動く世界が広がっている。
だが今この瞬間、工房の仲間たちは一つの誓いを共有していた。
――試験を越え、己を高め、そして必ず未来を掴み取る。
彼らの背中を、グラウスは静かに、誇らしげに見送った。
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