Episode.17 工房、牙を磨く日常
◆ 空に宿る新しい日常
世界は激震に揺れ、各国は反応に追われていた。だが――アウルディーン=ネクサスの内部は、別の意味で熱を帯びていた。
雲間から射す陽光が、巨大都市の透明なドームを照らす。
その光は、まるで「新しい時代が芽吹く」ことを告げるかのように、無数の塔と回廊を黄金色に染め上げていた。
ネルフィはひとり、工房の中心区画へと歩を進める。
仲間の足音や笑い声が背後から聞こえる中、彼女が辿り着いたのは――誰も足を踏み入れたことのない扉。
「ふふっ……ついに完成したわ」
扉を開くと、そこには彼女だけのために設計された 巨大なラボラトリー が広がっていた。
天井まで伸びる透明のチューブには、淡く光る液体に沈む試作機。
壁一面に走る古代ルーンは、現代の回路基板と融合し、虹色の火花を時折散らしていた。
中央には半透明のホログラム・テーブルが浮かび、立体映像の都市設計図や禁忌兵器のデータがゆっくり回転している。
机の上には、ネルフィが愛用する工具と、最新型の魔導式3Dプリンター。
錬金術のルーン盤とデジタルパネルが並び、まるで古と未来が一つになった空間だった。
「これなら、どんな発明でも完成させられる……」
ネルフィは胸の奥から熱をこみ上げるように呟いた。
彼女の視線の先――ホログラムに映し出されたのは、未完成の禁忌兵器群。
“災厄”と呼ばれた遺産たちを、彼女は人を救う道具として完成させようとしているのだ。
その時、都市の心臓部――《オラクル・ハート》の声が静かに彼女を包み込んだ。
《継承者よ……準備は整った。我らと共に未来を紡げ》
穏やかでありながら、底知れぬ力を秘めた声。
ラボの空気が一瞬震え、透明なホログラムが揺らめくと、女性のような輪郭が淡く浮かび上がる。
光のドレスを纏ったその姿は、まるで母のように優しくネルフィを見つめていた。
ネルフィは拳を握りしめ、まっすぐ答える。
「うん……母さんの未来を、私たちで完成させる。どんな敵が現れても、絶対に」
その瞳には、戦火を越えた強さと――幼い少女らしい夢を追う光が共に宿っていた。
アウルディーン=ネクサスはただの都市ではない。
ここから始まるのは、戦いと創造、そして家族の物語。
穏やかな日差しの下で、工房の日常は新たな段階へと進もうとしていた。
◆◇◆◇
◆ 仲間たちの部屋と新拠点◆
アウルディーン=ネクサスの内部は、ただの浮遊都市ではなかった。
それは仲間たちの“家”であり、戦場へ挑むための“牙城”であり、笑いと日常が交差する“拠点”だった。
◇ ネルフィのラボ兼私室
アウルディーン=ネクサスの中心にある、巨大な白と蒼の光が走る研究ラボ。
壁には古代遺跡のルーン回路が埋め込まれ、中央には錬金炉と最新鋭のプリンター、そして試作兵器のホログラムが浮かんでいる。
机の上には散らかった図面、端に置かれたヘッドフォンからはジャズが漏れ、そこにネルフィが腰を下ろしていた。
私室部分には、リュシェルとお揃いのネックレスを飾る小さな棚があり、そこだけが“少女らしい温もり”を放っていた。
◇ 榊の部屋
扉を開くと、そこは武骨な和風の道場。
畳の床はよく磨かれ、壁には木刀や模造刀が整然と並んでいる。
梁に吊された木製の鐘が、時折小さく揺れて音を立てる。
榊は黙って刀を研ぎながら呟いた。
「ふむ……刀の錆びは、心の錆びに似ているな。研がねば、すぐに濁る」
その姿は、まるで都市の中で唯一“静寂”を守る守護者のようだった。
◇ レオンの部屋
隣の部屋に入れば、そこは鍛錬場と寝室を兼ねた空間。
ネルフィ特製の剣ラックに、彼専用の武器がずらりと並ぶ。
壁際には重りや訓練具が置かれ、床は汗で光っていた。
レオンは裸足で木剣を振り、額に汗を浮かべながら強く言い放つ。
「ネルフィの隣に立つため、ここで強くなる。俺は、彼女を守り抜く」
その眼差しには、王子としての責務ではなく、“ひとりの男”の覚悟が宿っていた。
◇ アルスの部屋
まるで執事の書斎。壁一面には整理された本棚と、整然と並ぶ書類ファイル。
中央には重厚なソファとティーセット。
黒猫の姿で丸くなっていることもあれば、青年執事の姿で日誌をまとめていることもある。
「ネルフィ様が安らげるなら、私はそれで十分」
彼の部屋は、自身の居場所というより“主を支えるための準備室”だった。
◇ フェンリル(リル)の格納室
漆黒の召喚メカは、ネクサスの地下格納庫に専用の空間を持っていた。
広い空間に、狼・バイク・飛行・人型への可変用プラットフォームが設置され、壁面にはネルフィのメンテナンス工具が並ぶ。
リルは狼形態で横たわり、赤い目を閉じながら電子的な唸りを漏らす。
それは眠りというより、次の戦いに備えた“獣の休息”だった。
◇ アイリスの部屋
さらに進むと、空気が一変する。
そこは床から天井までモニターとPCタワーが並び、青白いスクリーンの光が部屋全体を染め上げていた。
無数のケーブルが床を這い、中央には座り心地の良さそうな椅子。
そこに深く沈み込み、ヘッドセットをつけたアイリスはキーボードを叩き続けていた。
「フン……セキュリティの穴だらけ。これなら一晩で百回でも侵入できる」
机の上には食べかけのキャンディ袋やポッキーが散乱し、甘い匂いと電子音が混じり合っている。
混沌そのものだが、こここそが天才ハッカーの“城”だった。
◇ 双子の部屋(レイナ&エレナ)
華やかな香水とカラフルなドレスが所狭しと並び、まるで小さな舞踏会の控室。
鏡の前でレイナが新しいドレスを広げると、すかさずエレナが別の布地を掲げて張り合う。
「こっちのほうが絶対似合うわ!」
「なに言ってんの、私のほうが映えるに決まってるでしょ!」
その騒ぎに、外の廊下まで香水の香りと嬌声が漏れていた。
◇ セレナの部屋
その対照に、セレナの部屋は整然とした「事務所」。
帳簿と在庫表が几帳面に並び、棚には在庫が種類ごとに仕分けされていた。
ペンを走らせる彼女の白い耳が小さく動き、淡々と数字を積み上げていく。
「双子がまた布地を勝手に使ってる……在庫、減るんだけど」
ぼやく声に呆れが混じりつつも、仲間を支える責任感が滲んでいた。
◇ リーの部屋
その隣にあるのは、異国情緒にあふれた鮮やかな空間。
紅い提灯が灯り、金糸で刺繍された布が壁を彩っている。
中央には円卓、そして山のように積まれた食器。
リーは笑顔で椅子に腰掛け、大皿に山盛りの料理を豪快に平らげていた。
「くぅ~! 戦いの後はやっぱり食い倒れに限る! 食べ放題、ネクサスにも作っちゃおうかしら!」
彼女の笑い声は、空腹さえも吹き飛ばすほどの豪快さだった。
◇ ユリウスの部屋
壁に飾られているのは鏡と派手なジャケット。
棚には香水やお洒落小物が並び、机には商談で得た小金やお酒の瓶。
「よし、今日も世界一チャーミングな俺様を磨くか!」
軽妙なセリフとともに、自室で自分を整えるチャラ男の聖域。
◇ カインの部屋
帳簿や投資資料が整然と並ぶが、壁には美女のポスターや写真。
机の上には計算機とワイングラスが並んでいた。
「女も金も、計算次第……ふふっ」
経理担当の部屋は、数字と女性で埋め尽くされていた。
◇ リュミエールの部屋(酒場カウンター裏)
彼女の居場所は酒場そのもの。
カウンター奥に半透明な姿で腰掛け、並ぶ酒瓶を指先でなぞる。
「今日もいい夜になりそうね」
幽霊の彼女にとって、それが唯一の“帰る場所”だった。
◇ ラムの部屋(小部屋)
透明な水槽と柔らかな布で満たされた小さな空間。
ぷるぷるした体でベッドに乗り、「ぷるるん……」と寝息を立てる姿は、癒しの象徴だった。
◇ アカ&シロの部屋
子猫サイズの二匹のための小さな部屋。
シロの布団はふかふかで、アカの布団は派手なフリル付き。
おもちゃとおやつが散らばり、子どもの遊び場のように賑やかだった。
◇ ゼルダンの部屋
サングラスとスーツが雑多に掛けられ、壁には各国の地図と裏社会の人脈メモ。
机には“金庫”と“契約書”。
「へへっ……これが俺の生きる道だ」
金と情報の匂いが染みついた、情報屋の隠れ家だった。
◇ マリウスの部屋
机の上には整理された設計図と、定時退社用の時計。
壁には家族写真が飾られ、ベッド脇には弟妹のために買ったぬいぐるみ。
「よし、今日も定時で帰る……っと!」
その信念が彼の部屋の全てを物語っていた。
◇ 共用施設
さらに奥に進めば、巨大な格納庫。
並ぶのは新たに完成した戦闘機群と、ネルフィが調整したばかりの武器群。
光沢を放つそれらは、いざという時に仲間を守る“牙”そのものだった。
武器庫は整理整頓され、棚ごとに発明品が輝く。
大食堂は、仲間たちの笑い声と香ばしい料理の匂いで満ちている。
さらに奥の大浴場では、湯気が立ち込め、笑い声と歌声が混じり合って響いていた。
そして酒場カウンター。
磨かれた木のカウンター越しに、リュミエールが淡く微笑みながらグラスを拭いていた。
「さあ、お疲れさま。今日は一杯、どう?」
その声に、戦いで張り詰めた仲間たちの心が、ふっとほぐれていく。
――こうしてアウルディーン=ネクサスは、ただの要塞ではなくなった。
そこは仲間が集い、笑い、力を蓄える新たな拠点。
外の世界が牙を研いでいても、この都市の内部には確かな「家族の温もり」があった。
◆◇◆◇
◆ 新兵器と進化する仲間たち◆
巨大ラボの中央で、ネルフィはホログラムに浮かび上がる三体の巨影を見上げていた。
古代の設計図と彼女自身の錬金魔術、そして最新鋭の工学技術を融合させた産物。
《アイアン・レギオス》 ― あだ名「獅王(しおう)」
鋼鉄の獅子。全身の装甲は岩盤を思わせ、咆哮と共に地面を震わせる振動波を放つ。
「王者の誇りを持つ機械獣……戦場の前線を切り開くのにふさわしい」ネルフィは呟いた。
《エコーズ・アーマメント》 ― あだ名「幻軍(げんぐん)」
兵士たちの姿を幻影として生み出す、戦術兵団型の兵装。
敵に敵を攻撃させ、混乱を広げるその姿はまさに“幻軍”。
「数で押すのは悪党の専売特許じゃない。私たちも幻を武器にしてやる」
《セラフ・ディフェンサー》 ― あだ名「氷炎(ひえん)」
白銀の翼と赤き翼を併せ持つ飛行機械。片翼は凍てつく吹雪を、もう片翼は焼き尽くす灼炎を撒き散らす。
その飛翔は空そのものを封鎖する。
「空を狙う者には、空から返す。それが“氷炎”の役目」
ネルフィは息を吐き、胸を高鳴らせた。
「これで……戦場を制圧できる」
だが、彼女の創造は止まらなかった。
《ディザスター・フレーム》にはさらなる改造が施され、量産型計画が始動。
戦場に複数の巨兵が立つ光景は、まさに悪夢そのものだ。
さらにネルフィは、旧いアイアン・センチネルを解体・再構築。
禁忌の技術を応用し、AIコアをその胸に搭載する。
次の瞬間――その瞳に光が灯った。
コアは脈動し、まるで心臓の鼓動のように「ドクン、ドクン」と響き渡る。
「……君の名前は、ボルト」
ネルフィは柔らかく微笑んだ。
「これからは、私たちと一緒に歩もう。工房の“弟”として」
「ボ、ボルト……がんばる!」
まだ声はたどたどしく、動きもぎこちない。
だがその不器用さが、かえって愛嬌を漂わせ、仲間たちの笑みを誘った。
榊は鼻を鳴らし、レオンは肩を揺らして笑い、デイジーは「可愛い子が増えたわね」とお茶を差し出した。
そして、アウルディーナメカたちもまた進化を遂げていた。
アルスはさらなる知識を獲得し、黒猫の姿のままでも都市中枢と即時にリンクできる。
「ネルフィ様、私はすでに“未来の情報”すら演算できます」その声に自信が宿る。
リルは装甲を強化され、影に溶けるステルス能力が一段と鋭くなった。
「次は誰を狩る?」低い咆哮が格納庫に響く。
アカとシロは演算処理能力を倍増。
「アカの通信にゃ、3倍速だにゃ!」
「シロも……シロもがんばるにゃ~」
子猫たちのはしゃぎ声が、研究室を賑やかにする。
ラムは新たな擬態機能を獲得。小さな翼を生やして飛び跳ねながら、「ぷるるん、飛べる……!」と得意げに叫んだ。
そして――。
中枢オラクル・ハートの光が一層強まり、やがてラボ中央に淡い人影が現れる。
白銀の光をまとった女性の姿。虹色の瞳は柔らかく、けれど確かな意志を宿していた。
《私を……“オラクル”と呼ぶとよいでしょう》
その声は静かでありながら、工房の壁を震わせるほど力強かった。
ネルフィは微笑み、仲間たちと視線を交わす。
「……私たちは進化する。都市も、仲間も、そして未来も」
――ネクサスの内部は、まさに“生きる都市”。
家族のように賑やかで、戦場のように厳しく、そして未来へと牙を研いでいた。
◆◇◆◇
◆ 嵐の前の日常◆
承知しました!✨
◆ 終章 ― 嵐の前の日常 を、工房らしい賑やかさと少しの温もりを大切にしながら長文に膨らませました。
◆◇◆◇
◆ 嵐の前の日常◆
戦いの余韻が静かに遠ざかり、アウルディーン=ネクサスの内部には柔らかな光が差し込んでいた。
仲間たちはそれぞれの部屋やラボで笑い合い、工房はかつてないほどの活気に包まれている。
格納庫ではリルが翼を畳みながら大きく伸びをし、ラムはぷるるんと転がってアカとシロに追いかけられていた。
「待つにゃ~!」「ぷるるん速いにゃ!」
楽しげな声が反響し、堅牢な壁すら柔らかく感じさせる。
大食堂ではリーが大皿を両手に抱え、豪快に笑っていた。
「くぅ~! この餃子は百個食べても飽きないわ!」
その横で双子が「百個も!?」「また在庫が減るわよ!」と突っ込みを入れ、セレナは真顔で帳簿に赤字を記入する。
酒場のカウンターではリュミエールが透明な手でグラスを磨き、ユリウスと軽口を交わす。
「なぁ、オレとあの幽霊姉さん、どっちがモテると思う?」
「……比較対象にすらならないわ」
冷ややかな双子の声に、場がどっと笑いに包まれる。
デイジーは湯気を立てるポットを抱えて紅茶を配り、フィクスは「壊れた椅子は直しておきました」と煤のついた手を拭っていた。
コルトはいつものように入口に立ち、外を睨むその背は門番のように頼もしい。
その中心で、ネルフィは机の上に小さな指輪をそっと置いた。
指輪型転移装置――所有者が一度訪れた場所なら、何度でも瞬時に行き来できる夢の技術。
「これで……どこへでも行ける」
ネルフィは小さく頷いた。
アルスが黒猫の姿で肩に乗り、穏やかに告げる。
「ネルフィ様。ですが、どこへ行こうとも、まずは休息をお忘れなく」
「……うん」
苦笑しながらも、その忠告に心が和らぐ。
窓の外、アウルディーン=ネクサスは空に浮かび、都市全体が脈打つように光を帯びていた。
オラクルの幻影が現れ、静かに囁く。
《継承者よ。嵐は迫っている……だが今は、安らぎを享受せよ》
世界は牙を研ぎ、嵐を孕んでいる。
帝国も、裏社会も、異国も、次なる一手を狙っている。
だが――その時が訪れるまで、ここは「家族」として共に過ごす場所。
笑い合い、食べ、語り合い、未来を作る小さな日常を積み重ねていく。
ネルフィは窓越しに広がる空を見上げ、胸の奥でそっと誓った。
「母さん……嵐が来ても、私は負けない。
この都市も、禁忌も、未来も――全部“完成させて”、世界を救ってみせる」
空の要塞は静かに答えるように光を放ち、仲間たちの笑い声がその中に溶けていった。
――嵐の前のひととき。
だがその笑顔こそが、次なる戦いへ踏み出す力になるのだった。
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