Episode.2 討伐試験と呪われた王子

◆追放される少女◆


ハンターギルドの試験会場――石造りの広間には、百人を超える受験者たちがひしめき合っていた。

空気は重く、期待と緊張が渦を巻き、そこに笑いと嘲りが混じっている。


そんなざわめきの中、小さな影が白衣の裾を翻し、堂々と歩みを進めた。


ネルフィ・アウルディーン――齢わずか十歳。

鮮やかなオレンジの髪を後ろで束ね、首には大きめのヘッドフォン、腰には工具ベルト。

学者であり職人でもある独特の装いは、他の受験者たちの中で異様な存在感を放っていた。


だが、すぐに周囲から冷笑と罵声が浴びせられる。


「……子供じゃねぇか?」

「ははっ、冗談だろ。嬢ちゃんが試験だってよ!」

「遊び半分で来る場所じゃねぇぞ!」


嘲りの声は瞬く間に広がり、空気がざわめきに満ちる。受付係でさえ困惑した顔を見せ、ネルフィに声をかけた。


「き、君……本当に受験するのか?」


だが、ネルフィは一歩も退かず、澄んだ声で告げる。


「規則には『十歳以上』とあるはずです。私は十歳です。問題はないでしょう?」


凛とした言葉に、一瞬、広間全体の空気が凍った。

だが直後、冷笑が爆発する。


「チッ、好きにしろよ。どうせすぐ脱落だ」

「俺たちの足だけは引っ張るなよ」


受験者の一団は彼女を追放するかのように固まり、ネルフィは孤立した。


その様子を見守るホログラム越しのアルスが、黒猫の姿で肩をすくめる。

「ネルフィ様、気にする必要はありません。結果で黙らせればいいのです」


ネルフィは口元に笑みを浮かべ、小さく答えた。

「ええ。成果こそがすべて、だから」


――その時だった。


白衣の袖口に仕込んだ小型ホログラム端末が震え、ネルフィの瞳が一瞬だけ輝く。

王城から、リュシェルがこっそり接続してきていたのだ。


『ネル、聞こえる? 周囲の受験者、君を完全に孤立させるつもりよ。気をつけて』


声は誰にも聞こえない。ネルフィの耳だけに届く秘密の支援。

リュシェルの分析データが次々と転送され、彼女は即座に把握する。


――他の受験者たちの行動パターン、試験会場に仕組まれた監視網、そして「意図的に仕組まれた罠」の可能性。


ネルフィは小さく頷き、声を潜めて答える。

「ありがとう、リュシェル。大丈夫。私はひとりでも勝ち残る。だけど……この情報、必ず役に立つ」


心の中で交わした秘密の絆。

孤独に見えた彼女の背後には、確かに支えてくれる存在があった。


そして――その小さな少女は、嘲笑の嵐を真正面から受け止めたまま、胸を張って歩みを進めていくのだった。




◆◇◆◇


◆仕組まれた試験◆


課題は「近郊の森での魔物討伐」。

本来なら相手は弱い狼やゴブリン程度――新米ハンターの試験に相応しい、命に関わらぬはずの相手。


だが森へ踏み込むにつれ、空気は重く淀み、異様な瘴気が漂い始めた。

木々の葉は病に侵されたように黒ずみ、土はじっとりと濡れている。


ネルフィは立ち止まり、眉をひそめる。

「……おかしい。この濃さは“下級魔獣”じゃない」


すぐに彼女の耳元で、通信の雑音が混じる。

《ネル、聞こえる?》

ホログラム越しのリュシェルの声が届いた。王城からの遠隔支援だ。


《森の衛星魔導観測データを解析したわ。瘴気濃度は試験レベルを大きく逸脱している。……気をつけて》


ネルフィは短く答える。

「ありがとう、リュシェル。こっちはアルスに索敵させる」


黒猫姿のアルスの瞳が青白く輝き、索敵モードが起動した。

「――目標、補足しました」


空間に投影されたホログラムウィンドウには、巨獣の姿と異常な数値が次々と表示される。


名称:C級魔獣ダスク・ベア


体高:約4メートル


特徴:瘴気を纏い、鋼鉄をも砕く鉤爪を持つ


耐久値:極めて高い。通常の武器では効果薄


特殊情報:胸部から腹部にかけて“瘴気腺”を確認。ただし外殻が硬質化しており、貫通は困難



アカとシロが同時に声を上げる。

「にゃにゃっ! 数値が振り切れてるにゃ!」

「にゃふふ〜♪ これ、絶対試験のレベルじゃないよぉ!」


ネルフィは冷静に唇を引き結び、ホログラムを睨みつけた。

「……やっぱり仕組まれてる。これは“受験者を試す”んじゃなく、“私を消すための舞台”」


その瞬間――森の奥から轟音が響き、木々がなぎ倒される。

現れたのは、全身を漆黒の瘴気に覆った巨獣。

目は血のように赤く、咆哮一つで地面が震える。


C級魔獣ダスク・ベア


その威圧感に、多くの受験者が腰を抜かし、次々と後退していった。

だがネルフィは一歩も引かず、銃を握り直す。


「アルス、弱点の位置を投影して」

「承知しました。ターゲット・ロックオン――瘴気腺、ここです!」


ホログラムに弱点の赤点が浮かぶ。

ネルフィはその情報を胸に刻み、瞳に決意の光を宿した。


「……逃げない。仕組まれた罠だとしても、私は突破する」


その背後で、ギルド職員の識別証を持った男が木陰から口元を歪めていた。

「――さて、小娘。どこまで持つか、見せてもらおうじゃないか」


森は完全に、死の舞台へと変貌していた。





◆◇◆◇


◆呪われた王子の参戦◆


森を切り裂く轟音。

その中心から、巨獣ダスク・ベアが鉤爪を振りかざし、受験者たちへ襲いかかった。

絶望が広がり、誰もが背を向けて逃げ出そうとした瞬間――


「退けぇええええッ!」


重低音の咆哮と共に、銀光が森を貫いた。

巨体の前脚に赤い閃光が走り、分厚い皮膚を裂く。


現れたのは、銀髪に赤い瞳を宿す青年。

漆黒の外套を纏い、背に大剣を負う姿――


レオンハルト・ティア・ヴァルガルド。


その登場は、まるで嵐を呼び込んだかのようだった。


ネルフィは息を呑み、リュシェルの声が通信越しに響く。

《ネル! その人物……ヴァルガルドの血筋よ! 帝国の第一王子アドラステアスと同じ系譜に連なる“呪われた一族”の……》


「……呪いの王子」ネルフィが小さく呟く。


レオンは巨獣に斬撃を叩き込みながらも、額に汗を浮かべていた。

その体から滲み出す黒紫の瘴気が、次第に広がり始める。


枯れ木が音を立てて崩れ、草花は瞬く間に黒ずんで枯死していく。

最前列にいた受験者が膝を突き、叫んだ。

「な、なんだコイツ……! 空気が吸えねぇ……!」

「やめろ、近寄るなッ! 化け物だぁ!」


恐怖と嫌悪が入り混じり、受験者たちは次々と彼を罵りながら森の奥へと逃げていく。


だが、レオン自身もその恐怖から逃れられなかった。

彼の胸は苦しげに上下し、握った剣が震えている。

「くっ……また……抑えられねぇ……!」


瘴気は濃くなり、まるで彼の心そのものを侵食していくかのよう。

大剣を握る腕は制御を失い、巨獣だけでなく――ネルフィの方へと振り上げられかけた。


「レオン!」ネルフィが思わず声を上げる。


その瞬間、リュシェルの声が再び響く。

《ネル、気をつけて! 彼は危険だけど……完全に敵じゃない。むしろ“助けを求めている”の》


ネルフィの胸に、確信のようなものが芽生えた。

「……あの人は、ただ呪いに縛られているだけ」


巨獣と呪われた王子。

二つの脅威が、同時に森を覆い尽くそうとしていた――。




◆◇◆◇


◆暴走――瘴気の嵐◆


森の空気が急に重くなった。

それは単なる圧迫感ではない。肺に鉛を詰められるような息苦しさ、体の芯から凍えるような悪寒――黒紫の瘴気が、辺り一帯を飲み込んでいった。


レオンの全身からあふれ出す瘴気は渦を巻き、突風のように広がる。

枯れ木が次々と朽ち、葉は灰となって舞い落ちる。森の生態系そのものが破壊されていく様に、受験者たちは恐怖で叫び声を上げた。


「ぎゃああっ! 助けてくれ!」

「ち、近寄るな! 触れたら死ぬ!」


誰も彼のそばに留まることができない。

人も獣も、彼の存在そのものに蝕まれる。


――黒紫の暴風はやがて巨獣ダスク・ベアにすら襲いかかる。

巨体が呻き声をあげ、体毛を焦がされながら膝を折った。あの規格外のC級魔獣すら、レオンの暴走には抗えない。


「ガルルルッ!」

漆黒のリルがネルフィの前に立ちはだかり、牙を剥いて唸る。

だが、瘴気はその鋼鉄の装甲すら侵食し、黒ずんだひびがじわじわと走っていった。


「アカ、シロ! システム解析!」ネルフィが叫ぶ。

「にゃにゃっ! 数値が振り切れてるにゃ!」

「にゃふふ〜……シロのセンサーが焼き切れる〜!」


ミーナの声が冷静に響く。

《警告。対象の瘴気値、Sクラスを超過。制御不能――》


その瞬間、リュシェルの声がホログラム越しに割り込んだ。

《ネル! 彼の瘴気は自動循環して暴走状態に入ってる! このままじゃ周囲一帯が汚染される!》


ネルフィは奥歯を噛みしめ、目の前の青年を見つめる。

レオンの瞳は完全に黒紫に濁り、すでに理性の光を失っていた。握られた大剣は意思を持つかのように唸りを上げ、巨獣だけでなく――ネルフィ自身へと振り下ろされかける。


「レオン……!」


その光景は、まるで運命の分かれ道だった。

呪いに飲み込まれるか、あるいは――救いを掴むか。


黒紫の嵐が吹き荒れる中、ネルフィと彼女の仲間たちは、ただ一歩も退かずにその暴走に立ち向かっていた。




◆◇◆◇


◆ネルフィの救済◆


大剣が空気を裂いた。

黒紫の瘴気をまとった剣閃が、まっすぐネルフィの小さな身体へと振り下ろされる。


「ネルフィ様ッ!」

アルスの悲鳴。


その瞬間、リルが猛然と跳びかかり、漆黒の装甲顎でレオンの腕を噛み止めた。

「ガルルルルルゥッ!」

鋼鉄と鋼鉄がぶつかるような衝撃音が響き、リルの脚が地面を抉る。


「にゃああっ! レオンにゃんがネルフィを斬っちゃうにゃ!」

「にゃふふ〜……止めなきゃ! 今止めなきゃ……!」

アカとシロが必死に警告音を飛ばし、フィクスが援護の光弾を発射して軌道を逸らす。


だが、それでもレオンの力は常軌を逸していた。

黒紫の瘴気はなおも溢れ、リルの牙を軋ませながら押し切ろうとする。


――その時。

ネルフィは腰のベルトから銀色の小型装置を引き抜き、床に叩きつけるように展開した。


「――錬金魔導具、《瘴気還流フィールド》、起動!」


青白い光が炸裂し、複雑な錬金陣が彼女の足元から広がる。

魔法回路と科学式の混合プログラムが稼働し、瘴気の流れを読み取り、逆流させるための制御フィールドが生成された。


ホログラム越しにリュシェルの声が飛ぶ。

《ネル! レオンの瘴気は自動循環型よ! 胸郭付近にある“瘴気核”を吸引して逆流させれば抑制できる!》


「任せて! ……絶対に助ける!」

ネルフィは両手を広げ、装置を制御する。


フィールドがレオンを包み込み、嵐のように荒れ狂っていた瘴気が吸い込まれていく。

黒紫の渦が青白い光の輪に絡め取られ、分解され、無害な魔力へと変換されて逆流していった。


「ぐっ……! あ、あぁぁ……!」

レオンが苦悶の声をあげ、膝をつく。剣が地に落ち、瘴気の奔流が収まっていく。


ネルフィはその場に膝をつき、荒く息をする彼に向かって真っ直ぐ言葉を投げかけた。

「あなたは化け物なんかじゃない。呪いに飲まれても――私は何度でも、助ける」


レオンの濁っていた瞳に、赤の光が戻る。

震える唇から、掠れた声が漏れた。

「……誰も……俺を救えなかった。誰も近づこうとしなかったのに……」


彼は拳を握りしめ、俯きながらも必死に言葉を紡いだ。

「……君は……違った。君がいなければ、俺は生きる意味を見失っていた……」


ネルフィは静かに首を振る。

「意味なんて、これから作ればいい。私たちが一緒にね」


その言葉に、レオンの胸の奥で何かが確かに芽吹いた。

それは呪いではなく、確かな希望の炎だった。





◆◇◆◇


◆討伐の結末◆


暴走の瘴気が収まり、レオンの瞳に赤が戻った瞬間――

巨体を揺らしながら《ダスク・ベア》が咆哮を上げた。


「まだ……来るのか!」

レオンが剣を構える。


全身を覆う漆黒の瘴気と硬質化した毛皮は、並の武器では到底傷を与えられない。

森の木々は黒く枯れ、空気すら重苦しく淀んでいる。


ネルフィは小さな胸を大きく上下させながら、空間魔法陣ディメンション・ストレージを展開した。

両手に握った小型魔導銃を左右から引き抜き、連射モードを解放する。


「左右連射――展開!」


雨のように銃弾が巨獣へと叩き込まれる。

だが硬化した外殻に弾かれ、ほとんど傷をつけられない。


「……やっぱり通らない」

ネルフィは舌打ちをし、小型銃を投げ捨てた。


その瞬間、リュシェルからのホログラム通信が飛んでくる。

《ネル! 解析完了! 瘴気腺は腹部。外殻は硬質化しているけど、衝撃と光で攪乱すれば、一瞬だけ隙ができる!》


「助かる、リュシェル!」

ネルフィの目が輝き、工具ベルトに手を伸ばす。


散らばった金属片、魔晶石、砕けた樹皮、そして魔導回路の欠片――

彼女は全てを両手に集め、錬金陣を刻む。


「素材収束――《即席クラフト・モード》!」


青白い光が炸裂し、ネルフィの腕に重量が生まれた。

現れたのは三連バレルを持つ魔導ショットガン――

《対ダスク・ベア専用:ベア・バスター》。


「……でも撃つ隙を作らないと!」

ネルフィは腰のポーチから小型光弾を取り出した。

「――投げる! 《シール・フラッシュ》!」


閃光弾が宙を舞い、白い太陽のように炸裂する。

「グォォオオッ!」

《ダスク・ベア》が咆哮を上げ、網膜を焼かれたかのように目を覆って暴れた。


「今だ、レオン!」

ネルフィが叫ぶ。


「任せろ!」

レオンは剣を握り、瘴気を纏ったまま巨体に突撃した。

彼の剣閃が肩を裂き、わずかに体勢が崩れる。


「撃て、ネルフィ!」

レオンの声に呼応し、ネルフィは《ベア・バスター》を構える。


三連バレルが輝き、魔力が唸りを上げて収束する。

「全弾装填――フルチャージ……発射ッ!!」


轟音と共に、魔力鋼弾が雨のように巨獣の胸を撃ち抜いた。

外殻が砕け、内部の瘴気腺が露わになる。


「レオン、今よ!」

ネルフィの叫び。


「うおおおおッ!!」

レオンは渾身の力で跳躍し、瘴気腺めがけて剣を振り下ろす。


刹那、アカとシロの支援弾が軌道を正し、リルが背後から噛みつき動きを封じる。

「にゃにゃっ! もう逃がさないにゃ!」

「にゃふふ〜♪ トドメは任せたにゃ!」

「ガルルルルゥッ!」


レオンの剣が瘴気腺を貫き、爆ぜるように黒い靄が散った。

《ダスク・ベア》の巨体が大地を揺らし、断末魔を上げて崩れ落ちる。


――静寂。


ネルフィは《ベア・バスター》を下ろし、肩で息をついた。

「ふぅ……一発で壊れちゃった。でも、十分……」


レオンは剣を地に突き立て、荒く息を吐く。

二人の視線が重なり合い、自然と拳を突き出した。


「……!」「……!」


こつん、と拳と拳がぶつかる。

ただそれだけの仕草が、戦いの全てを物語っていた。


「これで、私たちは“仲間”だね」

ネルフィが微笑むと、レオンは照れくさそうに目を逸らしつつも力強く頷いた。

「……ああ。どんな呪いがあっても、俺は君と共に戦う」


赤い夕陽が森を照らし、二人の間に「信頼」という見えない絆が芽生えた瞬間だった。





◆◇◆◇


◆二人の余韻◆


《ダスク・ベア》が地鳴りを立てて崩れ落ちると、森は嘘のように静寂を取り戻した。

黒い瘴気は霧散し、風が通り抜けると――それまで押し潰されていた空気が一気に解放される。


ネルフィは小さな肩を上下させ、息を荒げながら《ベア・バスター》の残骸を地面に降ろした。

「……ふぅ……やっぱり、一回撃ったらもう壊れちゃったか……」

彼女の額から汗が伝い、白衣の袖を濡らす。それでも瞳には、達成の光が宿っていた。


そのすぐ傍で、レオンもまた剣を突き立て、荒い呼吸を繰り返していた。

「はぁ……はぁ……すげぇな……君がいなければ、俺は……」

言葉を途中で切り、視線を落とす。その眼差しには、戦いの中で感じた恐怖と、そして救われた安堵が入り混じっていた。


「違うよ、レオン」

ネルフィはわずかに笑みを浮かべて言い返す。

「隙を作ってくれたから、私が撃てたの。……二人で、勝ったんだよ」


その言葉に、レオンの胸が強く打たれた。自分の存在を「化け物」ではなく「仲間」と呼んでくれる声。

彼は俯きかけた顔を上げ、真っ直ぐにネルフィを見つめる。


周囲では仲間たちが動き始めていた。

リルが低く唸りながらも主の無事を確かめ、

「ガルルル……ネルフィ、守れた」

と小さく安堵の声を漏らす。


アカとシロは飛び跳ねるようにネルフィの足元に駆け寄った。

「にゃにゃっ! ネルフィちゃん、すごすぎるにゃ!」

「にゃふふ〜♪ レオンと一緒なら、最強だにゃ!」


さらに、アウルディーナのメカたちもホログラム越しに拍手の動作を示した。

《討伐確認――成功。ネルフィ様、レオン様、勝利をおめでとうございます》

冷静なミーナの声に、二人の心臓がようやく落ち着きを取り戻していく。


沈黙が一瞬、二人を包んだ。

やがてネルフィは、ゆっくりと拳を突き出す。小さく震える手だったが、その仕草には確かな誇りがあった。

「これで……私たちは“仲間”だよね」


レオンは一瞬目を見開き、そして口元に不器用な笑みを浮かべた。

「……ああ。どんな呪いがあっても、俺は君の隣に立つ」


二人の拳が――こつん、と小さく音を立ててぶつかり合う。

ただそれだけの動作なのに、胸の奥がじんわりと温かくなる。


それは「契約」でも「義務」でもない。

二人の間に芽生えた、確かな信頼の証だった。


赤く沈みかける夕陽が森を染め、倒れ伏した巨獣の亡骸を長く伸びる影に変えていく。

その光の中で、二人のシルエットは並び立っていた――未来へと続く、最初の絆として。




◆◇◆◇


◆影の視線◆


森の奥。

《ダスク・ベア》の亡骸が沈黙し、腐蝕の瘴気が散っていく。

ネルフィとレオンは互いの拳を合わせ――確かな信頼の絆を結んだ。


だがその瞬間を見ていたのは、敵だけではなかった。





◆仲間たちの祝福


ネルフィが肩で息をしていると、黒猫姿のアルスが足元に駆け寄り、深々と頭を下げた。

「おめでとうございます、ネルフィ様。……そしてレオン様。お二人は立派に“合格”を勝ち取りました」


ホログラム越しに姿を現したアウルディーナのメカたちも、一斉に声を上げる。


コルト:「いやぁ最高だった! あのショットガンの一撃、記録映像に残したぜ!」


デイジー:「ネルフィ様、すっごく輝いてましたよ〜♡ はい、祝福のお茶をどうぞ!」


フィクス:「おいおい、無茶しすぎだ! ……だが、あんたらならやれると思ってたぜ」


ミーナ:「戦闘データを保存完了。これで次はもっと効率的に戦えます!」



さらに、アカとシロが勢いよく飛びついた。

「にゃふふ〜♪ ネルフィ、レオン! すっごくかっこよかったにゃ!」

「アカも祝福にゃ! おめでとにゃー!」


リルも大きく吠え、二人の後ろに堂々と立ちはだかる。

「――ネルフィ、レオン。よくやった」


ネルフィは少し照れながらも微笑む。

「みんな……ありがとう。これは私だけじゃなく、全員で勝ち取った合格よ」




試験合格の宣告


やがて試験官リカルドが姿を現し、戦場を見渡した。

呆然とした表情から、やがて大きく笑い、両手を叩く。


「ははは! 見事だ! これ以上の証明はない!

――《ネルフィ・アウルディーン》、そして《レオンハルト・ティア・ヴァルガルド》。両名、試験合格だ!」


その言葉に、ネルフィは思わず目を見開き、レオンと顔を見合わせる。

次の瞬間、レオンは小さな彼女の手を掴み、高々と掲げて叫んだ。

「やったぞ、ネルフィ! 俺たち、合格だ!」


ネルフィは赤くなりながらも、堪えきれず笑みを浮かべる。

「……もう、大げさなんだから。でも……うん。やったわね」


アルスとメカたち、アカ&シロも一斉に「合格おめでとう!」と声を上げ、リルが再び咆哮してその場を包み込んだ。


こうして――二人の挑戦は、正式にハンターとしての第一歩となったのだった。





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