冒険者の街デオルトを目指して... (仮)

第22話


俺は竜車の荷台から二人が見えなくなるまで手を振った。



(二人には本当、世話になりっぱなしだったな...。)



二人との思い出を噛み締めながら手を下ろすと、御者台に居るデニスが声を掛けた。



「レイド、少しの間だけどよろしくね!」



「あぁ、こちらこそよろしくなデニス!」



そう言うと、デニスは隣の席をポンポンと叩くので、俺は荷台からデニスの隣へと移動した。



「それで?目的地まではどれくらいなんだ?」



「えーっとね...あ、レイド地図はある?」



「あぁ、デニスがくれたのを持ってるよ...ほら!」



俺はポケットから畳んだ地図を取り出して膝の上で広げた。



「今、僕達が向っているのがここで、レイドが向う街はここなんだけど...」



デニスが地図を指さすと、いくつかのルートがあった。



「この街道に出る為に、僕がいつも使っている安全な道はここで...2日もあれば着くよ!」



(あれ?後の2つの方が近そうだけども...)



「デニス、こっちの2つの道は使わないのか?」



「あぁ...えっと、ここは急いでるときにたまに使うけど、あまり道が綺麗じゃないから商品が乗ってる時は使わないかな...。もう一つの道は、この辺りを縄張りにしてる盗賊団の拠点があるって噂があるから絶対使わないようにしてるんだ。」



(えぇ...盗賊団か...それは会いたくないな...って、あれ...?)



俺は地図を見ながら、ある疑問が生まれた...。



(確かイリアさんが言ってた、ここから人の足で3週間掛かる近い街がちょうど俺が目指している冒険者の街『デオルト』で...?)



「あ、あれ?デニスが所属してる商会って、確か王都ベルディオンだよね?」



(確かにデオルトと王都は他の街より近いだろうけども...。)



「うん、そうだけど?」



(どう言うことだ...!?どう考えても距離があるように思えるんだが...。)



「こ、この距離って2日で行けるものなのか...?」



するとデニスは自慢げに言った...。



「フッフッフ...。レイド君、この竜車にはとっておきの装置があるんだよ!」



(ん?装置??そんなもの見当たらなかったと思うけど...。)



そう言うと、デニスは俺達の間から出ている装飾の金属に固定されている緑のクリスタルに手を向けて言った...。



「これは我らがセルロン商会に、賢者様がご厚意で作って下さった特別な魔法装置なんです!!」



そう言うとデニスは自慢げに鼻を鳴らした...。



「えっ!?それ、イリアさんが作った魔法装置だったの!?」



(てっきり夜に光るかただの飾りだと思ってたけど...。)



俺はけっこう驚いたが、すぐに装置の魔法とやらが気になった...。



「それで!?それってどんな魔法が!?」



食い入るように聞くと、デニスは待ち望んでいたかのように説明しだした...。



「フッフーン!この『魔鉱石』には、賢者様が作りだした風魔法が刻印されててね!誰でもこの石に魔力を流せば発動する仕組みになってるんだよ!」



(なるほど!魔力さえ流せばいいのか!)



俺は魔素を身体に集めながら言った。



「なぁデニス!試してみてもいいかな!?」



(魔素を魔力に変換してっと...。)



「もちろんいいよ!それなら僕は走竜たちをしっかり見ておくね!」



そう言うと、デニスは手綱を握り直して前を向いた...。



「よし、じゃあいくよデニス!」



俺は魔鉱石に手をかざし、魔力を注いでみた...。



「うおっ...!?」



すると、俺達が乗っている荷台全体が車体の下から地面に向かって出てる風の渦で少し浮いた状態になった...。



「レイド!掴まっててね!」



デニスがそう言って、手綱を振ると走竜たちが一気に走り出した...。




「ふぇえぇええぇえぇえ!!!!!!」




そのスピードは恐ろしく速く、俺はまるでジェットコースターにでも乗っている気分になった...。



「あははは!レイドすごく変な顔になってるよ!」



俺は風圧で振り落とされないように、必死に体を支えていた。



「で、でで、デニス!?これって少し速すぎない!?」



するとデニスは余裕の表情で言った。



「えー?いつもこれくらいだけど!この子達はもっと速く走れるよ?」



そう言って、デニスが手綱で合図を贈ろうとしていたので、俺は慌てて止めに入った...。



「ま、待ってデニス!!こ、これ以上はいいから!流石に厳しいからっ!!」




「えーっ?それは残念だな...せっかく走竜の本気を見せる良い機会なのに...。」



確かに2頭を見ると、なんだか楽しそうに走っており。まだまだ余裕を感じた。



「そ、そうなんだ...でも、それはまたの機会に頼むよデニス!だから一旦落ち着こうか...!!」



するとデニスは小さくため息をついてから手綱で合図を送ると、走竜たちは徐々にスピードを緩めた...。



「あ、ありがとうデニス...助かるよ...。」



俺は竜車のスピードが落ち着いたとこで、ようやく安心して座り直すことができた...。



「全く、レイドは大げさだな~」



デニスはそう言って笑うと続けて言った。



「でもレイド、今の内に慣れておかないと今の速度じゃ2日以上かかっちゃうよ?」



そう言ってデニスは困った顔で俺を見つめてきた...。



「うっ...。」



(確かに...デニスは商売で王都まで行かなきゃいけないだろうし、俺のせいで商売に支障が出るのも申し訳ないよな......。)



俺は急いで対策を考えた...。



(そもそもこの竜車、体を支える為に掴めるところが無いからあの速さでまともに風を受けると体が持っていかれそうになるんだよなぁ...。まぁ我慢しようと思えば出来なくはないけど...それだと風の音で会話すらままならなくなる...。せめて車みたいに窓とかベルトがあれ...ば......!!)



俺は頭の中でイメージをしてみた...。



(よし、これならいけそうだな...!!)



俺はデニスに言った。



「いいぞデニス...!それなら走竜の全力...見せてもらおうかっ!!」



するとデニスは目を輝かせながら言った...。



「えっ!?本当にいいの!?」



「あぁ、問題ない!」



自信満々に言うと、デニスは手綱を強く握った...。



「それじゃあ...いくよ...!!!」



俺はデニスが走竜に合図を送るわずかな間に魔法を発動させた。



「結界発動っ...!!」



すると竜車は先程よりも桁違いのスピードで進んで行くが、俺の張った結界魔法のおかげで正面からの風は遮断され、さっきに比べてかなり乗り心地はマシになった...。



「あれ?進んでいるのに風がない!!何をしたのレイド!?」



俺は嬉しそうにしているデニスに自慢げに言った。



「これはイリアさんから教えてもらった『結界魔法』の応用だよ!」



するとデニスは興奮気味に言った。



「すごいよレイド!この速さで普通に会話まで出来るなんて!!」



今の状況を簡単に説明すると、俺は結界魔法を俺とデニスが座っている御者台を四角く囲むように展開し、風や飛び石なんかが入ってこない空間を作ったのである...。



「よろこんでもらえて嬉しいよ、どうデニス?これなら予定通りに目的地に付けそうかな?」



するとデニスは前方を指差しながら言った。



「十分だよレイド!あ、ほら見て!もう賢者様が張ってた結界の端まで来たよ!」



「こ、これがイリアさんの結界魔法...。」



前方を見ると、そこには微かに揺れ動く結界の壁が見えた...。



(範囲はどれくらいなんだろう...?そうだ...!サーチ!)



「うおっ...すげぇ...!!」



俺はスキル:空間把握サーチを使って、結界に使われている魔力が見えるようにした。



すると、イリアの張っている結界は、洞窟のと同じくドーム状に展開されていて、驚くべきなのはその範囲だった。



(これって...家を中心に広範囲で展開されてるよな......。確か魔物を寄せ付けないようにって言ってたけど。流石はイリアさんだ...。)




こうしてあっという間に結界も通り越え、旅の出だしとしては順調に進んでいったのである。





























































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る