第19話
そして、いよいよ『回復魔法』に移ろうとした時、少し遠くから師匠の声が聞こえてきた...。
「おーい!イリア!レイド!」
振り返ると、そこには3匹のウサギに似たこの世界の動物『ラビート』の足を縄で縛って肩に掛けた師匠がこちに向かって歩いて来ていた...。
「師匠!それ、ラビートじゃないですか!!」
俺は初めて目にするラビートに興味深々だった。
「ハッハッハ!見るのは初めてだろうレイド?実は晩飯にしようと思って狩りに出たんだが...どうせならお前が見たことない獲物にしようと思ってだな...。」
そう言うと、師匠は少し照れくさそうに指で頬をかいた。
(わざわざ俺の為に...。)
師匠はときどき狩りに出るが、ブラットボアと魚以外を持ち帰ることはなかった...。
「ありがとうございます師匠...!」
(もしかして、近々旅に出る俺への配慮なのかな...。)
恐らくだが、師匠なりに俺の旅の食事を気にし、美味しく食べられる獲物をさりげなく教えているのだろう。
礼を言うと、師匠の肩に吊るされている1匹の足がピクッ...と動いたのが見えた...。
「あれ...?このラビートまだ生きてるんですか?」
いつもは完全に仕留めてから獲物を持ち帰るので、俺は少し嫌な予感がした...。
すると師匠は、その訳を話した。
「あぁ、こいつらは鮮度が落ちるのが早いので気絶させているのだ!それに旅に出るなら捌き方も覚えないといけないだろうからついでに教えてやろうと思ってな!ハッハッハ!」
(うぅ...。やはり来たかこの時が...。まぁ...避けては通れない道だとは覚悟していたけども...。)
俺は気持ちを切り替え、覚悟を決めてから言った。
「よ、よろしくお願いします...師匠!」
(これも生きる為の知恵だ...!今の内に慣れる為にも頑張るんだ俺っ!!)
「うむ分かった!ではそっちの用が済んだら家の方で教えるとしようじゃないか!ハッハッハ!」
師匠がそう言うと、イリアが言った...。
「待ってくれオベロン。実はちょうど今レイドに魔法を教えていてな...そのラビートを1匹ここに置いて行ってはくれないか?」
すると師匠は不思議そうに言った。
「まぁ、別に構わんが...こいつはまだ生きておるぞ...それでも良いのかイリア?」
「あぁ構わん。と言うかそっちの方が今は都合が良い。」
俺はこの会話で全てを察した。
「分かった...ほれ!あぁそうだ、すぐには目覚めんとは思うが...レイドよ、こいつの鋭い爪には気を付けるんだぞ?」
「あ、はい、分かりました!」
そう言うと、師匠はラビートを俺達の足元に1匹置いて去って行った...。
「さてレイドよ...」
イリアが言いかけた時、俺はこれから何をするべきなのかを先に言った。
「はい!これからこのラビートを使って『回復魔法』の練習ですねイリアさん!」
するとイリアは頷きながら言った。
「私の意図に気付いていたのか...そう言う事だ、では早速試してみようか。」
俺はイリアに教えてもらった事を思い出しながら、まずはスキルを発動させた...。
『スキル:
すると、気絶して横たわるラビートの魔力がはっきりと見えた...。
(よし...次は、自分の魔力を流しながら状態の確認をっと...。)
すると、俺が流している魔力を通じて、ラビートの身体の情報が頭に流れて来る...。
(えーっと...まず足首辺りにダメージと、頭の骨にヒビ...それから脳へのダメージ...後はそれによる意識喪失と言ったところか...)
状態が分かったところで、俺は流していた魔力を異常があるところに集中させ、細胞活性のイメージを与えた...。
(よし、足はもう大丈夫...。骨もどうにか行けそう...だけど脳のダメージは流石にこれじゃ不十分か...。)
俺は活性だけでは回復が困難だと判断し、魔力に細胞をコピーし補うようイメージを与えた...。
(うーん...よし!これで負傷箇所は全部治ったな...!)
「ふぅ...。出来ましたイリアさん!」
そう言うと、イリアはスキルを発動して確かめた。
「どれ...。ふむ、問題ないようだな。これなら完璧だレイド、よくやった。」
「よおっし...!!」
俺は嬉しくて拳を握った...。
(これで『回復魔法』と『スキル:
すると、イリアがサーチについての補足をしてくれた。
「いいかレイド、サーチはこのように魔力を見ることができるが、それだけではなくさらに感度をあげれば周囲の索敵にも使うことが出来る...」
イリアは続けて言った...。
「だが...まぁ。ないとは思うが、もしもお前と同じ体質や死者の様に魔力が無い者は探知にかからないのでな、くれぐれも過信はしないようにするんだぞ。」
「はい!もちろんです!」
すると、俺の声が大きかったせいか...気絶していたラビートが急に目を覚ました...。
《ビッ...ビィ――ッ!!!!》
「うわっ...!ッ...て!」
そして、距離が近かったと言うのと、ラビートの脚力が想像以上に強かったと言うこともあり、俺は不意を突かれて反応が遅れてしまい、頬に爪痕を刻まれた...。
俺はすぐに傷を手で覆った。
「おい大丈夫かレイド!?」
不意を突かれたとはいえ、とっさに身を引いたお陰で幸い傷は浅かったが、イリアは少し慌てたようだった。
「あぁ大丈夫ですイリアさん!なんともありません!」
《ビィ―――ッ!ビィ―ッ......!》
そしてもちろん、ラビートはそんなことお構いなしに元気に走って逃げていってしまった...。
(あ...晩飯が...。)
走り去るラビートを見ながらそんな事を考えていると、イリアが優しく俺の手をどけて言った...。
「まぁ、仕方ないさ。あれも生き抜く為の知恵と力の一端だ。どれ...うむ傷は浅いようだな...よし、ではせっかくだレイド、その傷自分で直してみろ。」
「あ、はい...!」
俺は体内の魔力に意識を向けた...。
(えっと...今度は自分自信の治療だから...。まずは身体に魔力を巡らせて状態を確認して...)
(よし、ヒールっと...!)
こうして魔法を発動すると、俺の傷は見事に治った。
(自分に使うのは割と簡単だな...。)
「うむ、自己治癒も問題ないな、流石はレイドだ。」
「いえ、これもイリアさんの教えが良いからですよ!」
俺がそう言うと、イリアは軽く鼻で笑ってから言った。
「まぁ仕方ない、今回はそう言う事にしておこう。」
こうして、やるべきことも終わった俺達は、師匠が待っている家へと戻ることにした...。
「師匠、ただいま戻りました!」
俺は家の外で解体の準備をしている師匠に声をかけた。
「おうイリアにレイド!思ったより早く戻ってきたな!ハッハッハ!ん...?ところで先程渡したラビートはどうした?」
「あぁ...師匠、実はですね...。」
俺は師匠が帰った後のことを説明した。
「ハッハッハ!ついには『回復魔法』まで習得したのかレイドよ!これはもしかするとイリアより強くなったかもしれないな?ハッハッハ!」
すると、隣にいたイリアが少し笑って言った。
「確かに『賢者』と呼ばれるこの私でも、今のレイドとはやり合いたくはないな。」
それを聞いた俺は全力で否定した...。
「いやいや!俺だってイリアさんとは...と言うか、二人とはやり合いたくないですよ!?」
すると師匠が言った。
「どうしてだレイド?せっかく力を身に付けたと言うのに、試したくはならんのか?」
(いや、だってそりゃ...)
俺は2人に思っていることを正直に話した。
「そ、それは確かに気にはなりますが...2人はその......俺の大切な『家族』みたいな存在でして...。」
(自分の力が知りたいからと言って、大切な人達とやり合うなんて...そんなこと...。)
すると二人は大笑いしてしまった...。
「な、何が可笑しいんですか...!?」
俺はなんだか恥ずかしくなってしまった...。
するとイリアが言った。
「あぁ、いやすまないレイド...君は本当に優しい奴だな。そんな風に思ってくれて私は嬉しいぞ。」
すると今度は師匠が不思議そうに言った。
「全く、お前は変な奴だなレイド...普通は力を手にしたら相手に誇示するのが当たり前だろうに。だが、これも神の使徒の申し子ゆえの考え方なのかもしれないな!ハッハッハ!」
「うぅ......。」
俺は元の世界との価値観の違いにこれからも戸惑うのだろうなと内心思った...。
「さてレイド、例えお前が特別な何かだとしてもだ!人間である以上、腹も減るし油断していれば死ぬこともある!それに、これから一人で旅に出る以上は自分一人でなんでもこなさなくてはいけない!と言う訳で、自給自足の基本となる解体をお前に教えてやろう!」
「は、はい!よろしくお願いします師匠!」
(そうだ、もう旅に出る日は近いんだ...!!こんなことでビビッて躓くわけにはいかないんだ!)
俺は気持ちを切り替え、今は目の前の事にだけ集中しようと決めた。
「では、私は先に戻っているからな。しっかりやるんだぞレイド。」
イリアはそう言うと、俺達を横目に家の中へと入って行った。
「よし!ではまず、生き物の絞め方からだ......」
こうして俺は、師匠の指示に従いながら渡されたナイフを動かし...人生で初めて動物を殺め、血の抜き方や内臓の処理などを教わった...。
1匹目はまだ心に抵抗があったが。師匠は臓器の位置や骨の形状、さらにはそれに伴う弱点にいたるまで、細かくも丁寧に教えてくれた。
そのおかげもあってか、最初に感じていたモヤモヤ感も次第に薄れていき、俺はいつのまにか生物に対する学びの好奇心と、それを命をもって教えてくれる生物に感謝を抱いていた。
「よしいいぞ!では残りの1匹は一人で捌いてみろ!」
「はい!分かりました!」
こうして俺は、師匠の教えを元に残りの1匹に感謝を込めながら適切な処理を施した。
「ふぅ...。出来ました師匠...!どうでしょうか?」
そう言うと、師匠は処理の終わった肉や内臓たちを確認して言った...。
「うむ、問題ないな!では火を起こして調理といこうじゃないか!」
「はい!では薪を持って来ますね!」
そうして俺達は調理の準備をしてからじっくりゆっくりと肉を焼き始めたのだった。
「」
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