第17話
そして次の日の早朝、今日は師匠の提案で日課の水泳はやらずに、剣術の特訓にいつも使っている場所に来た。
「朝日が気持ちいいな弟子よ!」
「えぇ、そうですね師匠。」
俺たちは朝日に向かって両手を上げ、軽く身体をほぐした...。
「よし!それじゃあ『スキル』について教えるとするか!」
「はい!よろしくお願いします師匠!」
すると師匠はまずは『スキル』についての説明からはじめた。
「まぁ、以前にも少し話したから分かるとは思うが...。『スキル』は魔力を魔法としてではなく、直接的な身体部位の強化や、視覚、聴覚、嗅覚、触覚の感覚強化に使われるものだ。そして魔法は詠唱が必要なのに対して『スキル』は己の中にある魔力さえ意識しておけば詠唱が無い分、お互いの直感で同時に動いたとしても魔法よりも圧倒的に早く発動することが出来る!そしてさらに魔法よりも魔力の消費が圧倒的に少ない!」
それから師匠は、戦闘時に使う主な一般『スキル』を3つ教えてくれた...。
「まず1つは『スキル:ビルドアップ』だ。これは筋肉の強度を上げ、一撃の攻撃を重くしたりまた相手の一撃を食らった時のダメージを緩和してくれる...。次に2つ目は『スキル:ラッシュステップ』これは足の起動力を上げ相手の懐に飛び込む時などに使われる。そして最後が『スキル:ブースト』だ。これは己の上げたい感覚次第で魔力を配置する...例えば嗅覚を上げたいなら魔力を鼻へ、聴覚を上げたいなら耳へと言った具合にな!」
(聞いてる感じだと『スキル』はあくまで能力の向上で魔法みたいな直接攻撃はなさそうだな...。)
「とまぁ、基本はこの3つだ!だが、もちろん独自で編み出された『スキル』も世の中には腐るほどあるから油断はせんことだな!ハッハッハ!」
(なるほど...あくまでも基本なんだな...。)
「そしてもちろん『スキル』は万能ではない...。今挙げた『基礎スキル』も対策をしようと思えばいくらでも出来てしまうし、昨日イリアが言っていたように魔法同様、魔力の『濃ゆさ』で鉄よりも硬い防御も出来るが、逆に紙切れみたいな防御にもなりうる。」
(つまり大事なのは魔力の濃度と、魔力をどう操作するか...それから使う判断の早さと言うところかな...?)
「説明はこんなもんだ!さて、後は実際に身体に『スキル』の感覚を叩き込んでいくぞ!」
「はい!」
こうして、俺の『スキル修行』が始まった。
魔力濃度は魔素を器と呼ばれる体内に吸収しつつ魔力へと変換。
そして変換した魔力に凝縮のイメージを加えれば解決できた。
魔力操作に関しては器にある魔力を気体から液体へとイメージを加え、より具体的にすることで操作の実感をより強く感じることができた。
後は『スキル』に応じて、魔力を移動し発動するだけで『基礎スキル』は簡単に習得する事が出来たのだった...。
「流石は俺の弟子...いや、使徒の子と言ったところか...。俺は1つのスキルでも早くて3日は掛かると思ってたんだがな...。」
(え?そうなの...?ならこのことは常識として覚えておこうっと...。)
「多分、昨日イリアさんと魔法の特訓をしたおかげですかね...。あの特訓で魔力の操作には自信が付きましたから。」
「まぁ今更驚くほどでもないか!ハッハッハ!よし、では次に移ろう!」
そして次は、師匠にランダムで言われた3つのスキルを素早く発動する訓練に入った。
(これは結構難しいな...少しでも気を緩めたら魔力を再配置するとこからになってしまう...。)
だが、最初こそは苦戦したものの、コツを掴んでしまえばどうってことはなく、師匠からもOKがでたのでこの訓練もクリアとなった。
「よしいいぞ!では一度戻り、朝食後に俺との実戦と行こうじゃないか!」
「分かりました!師匠、今日こそ一撃入れれるよう頑張ります!」
「ハッハッハ!では楽しみにしておこう!」
こうして俺たちは一旦引き上げ、朝食を摂った。
すると食事中、なんだか浮かれた様子のオベロンを見てイリアが言った。
「どうしたんだお前?やけに機嫌がいいじゃないか。」
するとオベロンはニヤニヤしながら嬉しそうにイリアに言った。
「あぁすまんすまん!実はこの後レイドとの手合わせがあってな、『スキル』もあっという間に覚えてしまったしどんな戦いになるのか楽しみでたまらねぇんだ!なっ...!お前もそうだろうレイドよ!」
(え?俺...?まぁ、自分の実力がどれだけ師匠に通じるかは気になりはすけども...。)
「え、えぇ...まぁ...。」
すると、イリアが言った。
「ほう...確かにそれは楽しそうだな...。ふむ、私も少し興味が出てきた...ならばその手合わせ、私が立ち会うとしよう。」
(あれ...?稽古のはずでは...?)
こうして話は進み、朝食後3人で家を出た...。
「では始めるとしよう。両者、剣を構えろ。」
イリアに言われ、向き合っていた俺と師匠は素早く剣を構えた。
ルールは事前に話合い、魔法無し...『剣術』と『スキル』のみ使用OKとなった。
そして勝利条件は『相手の身体に一撃を当てる事』となった...。
(よし、今日こそ師匠に一撃を...!)
俺は構えたまま深呼吸をした...。
「それでは、始め。」
俺は開始の合図と同時にすぐ師匠から距離を取った...。
(師匠は身長もある分、間合いも広い。まずは初手でやられないよう距離を...。)
「っ...!!」
すると師匠は距離をとる事を分かっていたように、一気に詰めて来た。
(速いっ!ラッシュステップか...ならこっちはっ...!!)
『ビルドアップ!!』
そして俺は師匠の剣を受け止めた。
(重っ...でも初手は防げた、よし!)
そして俺達はすぐに剣の打ち合いに移行した。
師匠はまるで踊るように乱撃を繰り出し、しかもその一撃一撃は確実に人体の弱点を狙ってくる...。
(くっ...。剣の速さもだけど、重さが半端なさすぎる...こままじゃ木剣が持たないぞ...。)
『ラッシュステップ!!』
俺は正面から攻撃を受け続けるのを止め、かわせる攻撃は少ない動きでかわし、どうしてもかわせないものはまともに剣では受け止めず、少ない動きで受け流す工夫をした。
(よし、さっきよりはましだ...後はっ...。)
俺はタイミングを見計らって、攻撃へと移った。
しかし師匠は、余裕の表情を浮かべながら、片手で俺の繰り出す攻撃を受け流していく...。
(か、片手で...!?くそっ......師匠、俺の攻撃に速さと重さがないからって完全に遊んでやがるな...!だが、どうする?このままだとどこかのタイミングでカウンターをもらって終わる可能性もあるぞ...。)
俺は打ち合いを止め、素早く後ろへ下がった。
(よし...追撃は来ない...様子見かな...?)
俺は考えた、どうすれば攻撃の速度と重さを出せるのかを...。
(スピードだけだとダメだ...かと言って重さだけでも...って、そうか!同時発動か!!よし、ぶっつけ本番だけど...やってみるか...!)
俺は体内の隅々に魔力が行きわたるよう操作魔素をすると吸収同時に、濃度を上げる為に魔素の吸収を始めた...。
師匠は、何かを感じ取ったのか、木剣を両手で構えなおし、真剣な表情に変わった。
(あともう少し...。よし、後は身体全体にスキルを発動...!)
『ラッシュステップ』
『ビルドアップ』
俺は一気に間合いを詰めた。
(うおっ...!!)
自分の出すこれまで以上の速さに驚きつつも、俺はすぐにタイミングを見極めて剣を思いっきり振り下ろした...。
(ここだっ...!!!!!)
しかし、師匠の頭をカチ割る勢いで放った攻撃を、師匠はよけようともせずにニヤリと笑い真正面から剣で受けた...。
木剣同士がぶつかると同時に高い打撃音が響き渡り衝撃波が発生した...。
(マジ...かよ...)
俺の重撃は俺達の足元を地面に沈ませるほどだったが、師匠の表情は変わる事なく完全に止められてしまった...。
すると師匠は俺の剣を受け止めながら口を開いた...。
「今のは見事だったぞレイドよ...。2つのスキルの同時発動...お前ならやってのけると信じていた...」
(っ...!気づいてたのか...)
「よくぞここまで育ったな。だから褒美に教えてやろう。弱点はな、剣にだってあるんだ...。」
その瞬間、俺の木剣が砕け散った...。
(マズイっ...!!!!!)
「今回の敗因をしっかり刻み次に生かすべしっ!!」
師匠は俺の木剣が砕けると同時に身体を回転させ、強烈な一撃を俺の脇腹に叩き込んだ...。
「ふぐっ...!!」
そして俺はおもいっきり横方向へ吹き飛んだ...。
「いててて...死ぬかと思った...。」
俺の身体は2本の木にぶつかり破壊した後にやっと止まった...。
(とっさにビルドアップを強化してなかったらヤバかったな...。)
とは言え、どうにか立ち上がると全身はあちこち悲鳴をあげていた...。
すると少し遠くから、心配そうに俺の名前を連呼しながら叫ぶ師匠が慌てて走って来た。
「レイド!!大丈夫かレイド!!!」
俺は手をあげながら師匠に言った。
「こ、ここです師匠...。どうにか無事です...。」
すると俺の居る場所に気付いた師匠は安心したような顔をして、謝りながら走って来た。
「いやーすまんすまん!ついやりすぎてしまった...身体は大丈夫か!?」
師匠はそう言うと、すぐに俺に手を貸した...。
「はい、全身痛いですが...大したことありませんよ!」
「そうか...それは良かった...さぁ、すぐにイリアに治療してもらおうレイド。」
こうして俺は師匠に支えてもらいながらイリアのいる場所へ戻った。
「ふむ。全身打撲だな...どれ『
(ふぁ~気持ちいい...。)
「よし、もういいぞレイド。それにしてもあの攻撃をまともに受けてよくこれで済んだもんだ...。」
そう言ってイリアは驚いていたので俺はあの時の事を説明した。
すると側で一緒に聞いていた師匠が先に驚いた...。
「なにっ!?魔法で防御したのではなく濃度を上げた魔力でとっさに『ビルドアップ』を強化しただと...!?」
「は、はい...そうですが...。」
するとイリアは笑いながら言った。
「流石はレイドだな...。なんにせよよくやったな。」
「ありがとうございます。」
すると師匠は腑に落ちない様子で聞いてきた。
「ま、待てレイドよ。スキルの同時発動と言いスキルの強化と言い...本来ならかなりの魔力操作の訓練を積まないと出来ない事なんだぞ!?」
すると、イリアは不思議そうな顔をして師匠に言った...。
「なんだお前、レイドから魔法のこと聞いてないのか?」
「魔法?使える様になったのは知っているが...。」
師匠からそう聞くと、イリアは俺に呆れた表情を見せた後に師匠に言った...。
「まったく...仕方ない私から教えよう。いいか、レイドの魔法は『無詠唱魔法』なんだよ。」
すると師匠は首を傾げた...。
(あ...そう言えば言うの忘れてた...な...。)
「まぁ、説明するより実際に見た方が早いだろう...レイド分かりやすいように見せてやれ...。」
「は...はい...。」
俺は片手を空に突き出して、大きな火球を出した...。
「な、なんだそりゃ!?!?!?」
そう言うと師匠は上を見上げたまま後ずさりした。
(さっきの濃縮魔力が残っているから思ったよりもデカくなっちゃった...。)
俺が火球を消すと、イリアが師匠に説明した。
「とまぁ、この様に無詠唱で魔法を使えるんだが、これは本来私たちが使う魔法とは発動方法が違くてな...簡単に言うと最初から魔力操作の能力が必要なんだ。」
すると師匠は言った。
「つまりレイドはすでに魔力操作を身体で覚えているという訳か...。」
イリアと俺は同時に頷いた。
するとどうやら師匠は納得できたようだった。
「ハッハッハ!全く、俺の弟子はどこまで強くなることやら。ハッハッハ!」
「そうだな...私にもレイドの底は計れんが、いずれはこの世界を変えてしまうかもしれんな。」
「ちょ...二人とも、俺は旅がしたいだけで、世界をどうこうしようとかはないですよ!」
すると二人は何故かわからないが顔を合わせた後に笑ってしまったのだった...。
それから俺たちはイリアの提案で、昼には少し早いが家に戻ってゆっくりすることにした。
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