第16話


そして家までの帰り道、俺はイリアに褒められていた...。


「まさか私が教えた魔法を全て無詠唱で発動できるなんてな。流石はレイドと言ったところか?」



「いえいえ!イリアさんの魔法の説明がとても分かりやすくて想像しやすかったからですよ。」



「想像...君が言うところの『イメージ』と言うやつだな。」



「そうです、イメージです!」



するとイリアは俺に言った...。



「ところでレイド、私にはまだ腑に落ちないことがあるんだが...。」



「はい?なんでしょうか...?」



「確か赤子は母親の魔力の影響で、本能的に吸収と蓄積を覚えるんだったよな...?」



「はい、俺はそうではないかと考えます。」



「では、たとえ記憶を失ってても、本能で身体に沁み込んでいなければおかしいのではないか?」



「あ...そ、それは...。」



俺はイリアに痛いとこを突かれ面食らってしまった...。



「で、なければそれはつまり...母親から生まれてないことになる。」



「うっ......その...。」



俺が気まずさのあまりイリアから顔を背けると、イリアは俺にトドメを刺した...。



「なぁレイドよ...あえて聞くが、お前は一体何者なんだ?」



そしてその言葉と同時に、俺達は足を止めた...。



(どうしよう...。)



俺の頭の中には、騙していた罪悪感や真実を言った後の不安と言った諸々の感情が渦巻きだした...。



「.........。」



その瞬間、自分でも驚くほど冷や汗が出て来た...。



すると、その様子を見たイリアは、前を向いてゆっくりと歩きだした...。



「まぁ、お前が悪い奴だとは思っていないさ。それに、話したくないなら無理に話す必要もない...さぁ帰ろうかレイド。」



(やっぱりこのままじゃダメだよな...!)



「あ、あの!イリアさん!」



(きっとこの人達なら...)



「ん?なんだレイド。」



(大丈夫...分かってくれる...!!)



俺はこの瞬間、これまでの事を二人に話す決心をした...。



「帰ったら、イリアさんとオベロンさんに大事な話があります!!」



そう言うと、イリアは振り返り微笑みながら言った...。



「そうか...なら夕飯を食べてから聞くとしようじゃないか。さぁ、帰るぞレイド。」



「は、はい!」



こうして俺は一歩を踏み出し、二人で家へと向かった。



そして頭の中で二人にありのままをどう話すか整理し、話す順序が決まったとこで気づけばいつの間にか家に着いていた...。



「おぉ二人とも!今日は遅かったじゃないか!」



するとちょうど家に入ろうとしていた師匠がドアの前で迎えてくれた。



「ただいま師匠!実は...」



俺は師匠に、夕食後二人に話があるから時間をくれと伝え、それからはイリアを手伝いながら三人でいつも通り夕食を摂った...。


今思えば、このとき二人は俺が話を切り出しやすいようにと、気を使っていつも通りに接していたんだと確信している...。



そしていよいよ二人に打ち明ける時が来た。



「イリアさん、オベロンさん。実は俺、二人に黙っていたことがあるんです...。」



そして俺は二人に、別の世界から転生してきた事...レイエルとこれまでに話した内容...そして前世の俺のこともつつみ隠さず全て話した。


俺が話している間、二人は驚きつつも俺の話に割って入ることはなく、ただじっと真剣に話を聞いてくれた。



「と、言うわけなんです...。今まで黙っていて本当にごめんなさいっ!!!」



そう言って俺は深々と頭を下げた...。



(もしも二人に受け入れられなかったとしても、それは仕方がないことだ...。たとえこれまで騙していた罰受けろと言われても、俺は喜んで受け入れよう...。)



しばらく沈黙が続き、最初に声を上げたのはオベロンだった。



「レイドよ!よくぞ話してくれたな。確かにお前の話には驚いたが、つまり俺は『神の使徒の子』を弟子にしたと言う事だな!ハッハッハ!これは俺の生涯で一番の名誉だぞ!」



「ふぇ...?」



俺はてっきり、罵声や怒号が飛んでくるもんだと構えていたので拍子抜けし変な声が出てしまった...。



「そうだな。この私でさえ流石に驚きはしたが、だからどうだと言うことはない。今のお前は紛れもないレイドで、これまでもこれからも私の大事な子だと思っているよ...。」




俺は二人の寛容で温かい言葉に涙がこぼれた...。



「二人とも...こんな俺を受け入れてくれて本当にありがとう...。」



それから俺は二人に慰められ、少し落ち着いたころにイリアが言った。



「そうだレイド、まだこいつには言ってない事が残っていないか?」



「な、なんだ!?まだあるのかレイドよ?」



(あれ?もう全部話したと思うけど...。)



俺がなんのことか思い出せずに考えていると、イリアがニコニコしながら俺に向かって人差し指のジェスチャーを送ってきた...。



(あ!そうだった忘れてた...!)



「師匠!言うのが遅れましたが...俺!魔法が使えるようになったんです!!!」



すると師匠は過去一の驚きを見せた...。



「なあぁにいぃーっ!?!?」



師匠はそう言って勢いよく席から立ち上がると、まるで本当の事かを確かめるためにイリアの顔をじっと見た...。



「.........。」



そしてイリアが頷くと、ようやく信じた師匠は嬉しさのあまり俺の両脇に手を当てると、そのまま高く持ち上げて言った。



「本当なのかレイドよ!?」



「うをっ...!は、はい。本当です師匠!」



俺が首を縦にブンブンと振りながらそう言うと、師匠はゆっくりと俺を下ろしてから両手で肩を揺らしながらc言った。



「と言うことはつまり、今後は俺の好敵手になりえると言うことだな!?そうなのだな!?」



「は、はい師匠...!だからとりあえず落ち着いてっ...!!」



そう言うと、ようやく師匠は手を放してくれた。



(そう言えば前にも『好敵手が』とか言ってたな...まぁ、剣聖と呼ばれるくらい強いんだから恐らく渡り合える人がいないのだろう...。)



すると師匠は嬉しそうに笑って言った。



「よし!弟子よ、それなら明日はお前に『スキル』の使い方を教えてやろう!」



(スキル...!?そうか、もう魔力は使えるんだからこれからは『スキル』も使えるっ!!)



「はいっ!是非よろしくお願いします師匠!」



そう言うと、師匠は満足げに頷いた。


すると今度はイリアが言った...。



「ところでレイドよ、魔力に関して気になることがあるんだが、君の意見を聞いてもよいか?」



「はい、もちろんです!どんなことでしょうか?」



「あぁ、助かる。前に私は『魔力』が無いのは死人くらいだと言ったのを覚えているか?」



俺は過去の記憶を遡った...。



「はい、覚えています。確か洞窟で会った後でしたね...。」



「うむ...まさにそのことなんだが。私は過去、実際に魔力が底をついて絶命した者を見た。それ以外にも、魔力が少なると頭痛や吐き気、倦怠感や失神なんかも実際にあるんだ...。」



「なるほど...。それらの魔力と俺が使う魔力、同じ魔素から来ている筈なのにどうして俺にはその症状がでないのか...ですね?」



「察しが良くて助かるよレイド。」



今のは決して俺の察しが良かった訳ではなく、俺は魔法が使えるようになったあの時からこれについては考えていたのである...。

そして俺は、一つの可能性を思いついていたのだが、今の話で『死』以外にも症状があると知り、俺の中では確信に変わった...。



「実は俺の中で今、確信に変わったんですが、それは魔力を長期間器に留める事によって『魔力依存症』になっているのではないかと思います。」



すると、イリアは申し訳なさそうに聞いた。



「あぁすまんレイド...イゾンショウ?とはなんなのだ?」



(えっと...なんて説明しようか...。)



「えーっとですね、依存症とは俺が居た世界にある病気の一種みたいなもので...。あぁそうだ!イリアさん過去に酒に溺れて、常に飲まないと体が震えたり気性が荒くなったりする人を見たことはありませんか?」



(おそらくだが、この世界にも酒はあるはずだし、皆命を掛ける仕事が多い分、飲む人もきっと多いはず...!)



すると、イリアは少し考えてから思い出したように言った...。



「あぁ、確かにそのような兵士を何度も見かけたことがあるぞ。」



(やっぱり...酒があるところにはどこにでも居るんだな...。)



「そうです!そんな感じで、簡単に言うと。特定の物を定期的に体に入れないとまともじゃ居られなくなるのが依存症なのです!」



すると、どうやらイリアは納得したようだった...。



「そうか、そう言うことだったのか...。つまり生まれながらに魔力を持つ者は皆それが当たり前だと思い込み、そして物心がつく頃にはもうすでに依存している...。そして魔力が少なくなり、薄くなると禁断症状としてそれらが出ると...。」




俺はイリアの言葉の最後の方に気になる部分を見つけた...。



「はい、それで合っていると俺は思います...。ところでイリアさん?俺からも一ついいですか...?」



「あぁ構わないが、どうかしたか?」



「今、魔力が薄くなるとかって...。」



するとイリアは少し首を傾げて言った...。



「なんだ?教えてなかったか?」



(初耳なんですけども...イリアさんでも忘れることってあるんだなぁ...。)



俺は首を縦に振った...。



「そうかまだ教えてなかったか...。いいか、魔法にはその者の魔力量と質が大きく反映されてな。量は単純に魔法の発動に関わるもので魔力量が少ないといくら複雑な魔法を詠唱したところで発動しない。次に質だが、これは言うなれば魔力の密度でな、鍛錬と経験を積めば濃ゆく、逆にどちらも少ないと薄い傾向がある。そして魔力の濃ゆさは魔法の威力に直結するんだ。」



(そうか...器は多少の大小があるのは知っていたけども...つまり密度のおかげで小が大を兼ねることも起こりうるってことか...。)



「まさか魔力に濃淡があったなんて...ありがとうございますイリアさん!勉強になりました!」




「このくらい気にするなレイド。さて、明日も早い事だしそろそろお開きにしようか。」




こうして俺は無事に肩の荷を下ろすことができたのだった...。









































































































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る