第15話


そしてさらに月日は流れ、俺は最初に体術と反射神経を鍛えていたおかげで、剣術の飲み込みも早く、師匠から及第点を貰うくらいには成長していた。



「よし!魔力無しでここまでやり合えるなら問題なかろう!よくぞここまで耐えたな弟子よ!後は日々の研鑽を怠らなければ、いずれは俺の様に『剣聖』と認められる日がくるかもな!ハッハッハ!」



俺は師匠の言葉に、稽古の終わりを悟った。



「はい!これまでご指導いただきありがとうございました師匠!!」



俺は木剣を腰に納め、深々と頭を下げた。



(結局、師匠には一撃も入れることはできなかったな...。)



「うむ。だが弟子よ...稽古は終わったとは言え、お前が旅に出るまでは俺もここに居るつもりだ。だからそれまでの間、手合わせくらいは付き合ってやるぞ!」



(お?それならまだチャンスはありそうだな...よし!)



「はい師匠!では改めまして俺が旅立つその日までよろしくお願いします!!」



すると、師匠は笑いながら言った。



「ハッハッハ!可愛い弟子の頼みだ!任せろっ!」




こうして、無事に剣術の稽古は終了となり、旅立ちの心残りはイリアとの約束だけとなった...。


昼食時、俺は考え事をしていた。


(座学は学び終えた...体術と剣術も師匠からはOKが出ている...。一応これで旅立つ条件は整ってはいるが...。正直このまま出て行くのは気持ちが良くないよな、師匠はまぁ弟子の成長を喜べたから良いとしても、イリアはどうだ?俺の体質を頑張って研究はしているが、俺は喜んでもらえるような成果を上げたか...?)



俺はイリアとのこれまでを思い出した...。



(確かにイリアの性格なら、このまま旅に出ても「気にするな。」と言って送り出すだろう...。けど、じゃあ俺はそれでいいのか?)



俺はイリアが夜遅くまで部屋の明かりを付けていたのを知っている...。



(いいや、いいわけないだろう!イリアは俺にとってこの世界での沢山の初めてを経験させてくれた『家族』だろ!短い間だったかもしれないが、ここまで育ててもらった恩は少しでも旅立つ前に返したい!)



このとき俺の中で何かが変わった気がした...。



(よし!そうとなれば...!!)




俺は急いで昼食を食べ終え、イリアにこれまでの俺の体質に関してのレポートを見せて欲しいと言った。



「あぁ構わないよ、私の机の上にまとめてあるから好きに見るといい。」



「ありがとうございます!」



そして食べ終えた皿を片付けてから、俺はすぐにイリアの仕事部屋へと向かった...。



「よしこれだ...。」



俺はまとめられたレポートを手に取り、1枚づつ読んだ。



(すごい...全て細かく記録してある、さすがはイリアさんだ...。)



レポートには、これまで俺の身体で試した全ての事、実際に詠唱した魔法の種類と数。そしてイリアの見解などが書き記されていた。




(.........あれ?)




俺はレポートを一通り読んでから、いくつかのおかしな点に気付いた...。




(確かレイエルは『魔法の源は魔素』だと言ってたけど、このレポートを見てるとまるで『魔法の源は生成された魔力』と断定している気がする...。)




(それに『魔法』についてもだ...レイエルは『魔法は技術』と言っていた...。だが、空気中の『魔素』が身体に吸収、蓄積されて『魔力』に...あっ!そうか!技術は『魔力』を『魔法』に変化させることを言っていたのか!)



そして俺はまた、おかしな点に気付く...。



(あれ?でも『魔素』には願いや祈りを具現化できる力があるはず...。そして『魔法』の基本は確か想像と詠唱...。でも願いと祈りって、言葉は違えど想像...つまりイメージと本質は一緒なんじゃ...。)



俺はそれらの考えから一つの仮説を立て、レポートを持ったままいつもの場所へと向かった。



(イリアさんは...まだ来てないな...よし。)




俺は仮説を試す為に目を閉じて集中した...。



(イメージするのは蠟燭の火...。)



そして俺はゆっくりと人差し指を立てる...。



(指は蝋燭...そして指先に火が灯るように......。)



するとだんだんと指先が温かくなっていく...。


しかし、火が灯る気配はない。



(うーん...まだ何かが足りない気がする...。)



俺は目を開けもう一度レポートを確認した。



(魔法の発動には魔力が必要...。でもイリアが魔力を流してくれても俺には発動出来なかった...。)



(魔力はお腹に居る時から赤子にも宿っているもの...。じゃあ、なんで宿るんだ...?)



(そして魔素は魔力の源......生物は息をするように自然に魔力を吸収...はっ!?)



俺の中で新たな仮説が生まれた...。



(もしも『魔素』を『自分の魔力』として認識しないといけないとしたら...?赤子が『魔力』を宿しているのは、『母親が持つ魔力』をお腹に居る時から『自分の魔力』と無意識に認識......いやもしかしたら『生きる為に必要な力』として『本能』で身体に留めている...!?)



(それなら生まれた記憶がない...と言うかそもそもこの世界の人間じゃない俺にイリアがいくら魔力を流したところで発動できるはずがない...。)



(だが、逆に言えば『魔素』を『自分の魔力』と認識さえ出来れば...!!!!)



俺はもう一度目を閉じ、人差し指を立てた...。



(細かくイメージしろ...まずは指先に『魔素』が集まるように...。)



すると先程同様、指先が温かくなっていく...。



(そして、集めた『魔素』を『俺自身の魔力だと』イメージ...。)



この瞬間、俺の中に絶対的な自信が溢れ出して来た...。



(後は蝋燭の火を灯すイメージ...!!!)



俺はイメージしたまま目を開いた。



「っ......!!」



そこにはまさにイメージ通りの火が指先に灯っていた...。



「よっしゃーーーー!!!!!」



俺は火の灯った指先を高く上げ嬉しさのあまり飛び跳ねた...。



「出来た!!俺にも魔法が!!出来たんだ!!!」



その後、灯した火を消して俺はガッツポーズで嚙み締めた。



(よし!仮説は正しかった!これでやっと...!やっと俺にも魔法が使えるように...!!)



すると背後からイリアの声がした...。



「こ、これはどう言うことだレイド...。」



振り返ると、そこにはこれまで見たことがないくらい驚いた表情のイリアが立っていた。



「イリアさん!俺、魔法が使えるようになったんです!!」



そう笑顔で言うと、イリアは表情を変えることなく俺に近寄ると、方に両手を掛けてきて言った。



「あぁ...それは見ていたから知っている...そうではなくて、レイド...なぜ『無詠唱』で魔法が...?」



「え、えーっと...それは...。」



俺はイリアのあまりにも真剣すぎる眼差しにたじろいだ...。



「レイド、それは魔法研究者達が誰一人成しえなかったことだ。だから頼む...。」



イリアは少し興奮しているようで、俺の肩を握っている力がどんどん強くなっていく...。



(そう言えばイリアさんは魔法研究者だったな...。いててて...さて、どう説明したらいいか...。)



「い、イリアさん...と、とりあえず一旦落ち着いてください...。俺の見解でいいならちゃんと説明しますからっ...!」



そう言うと、イリアは我に返りすぐに俺から手を離した...。



「す、すまないレイド...。私としたことが柄にもなく興奮してしまったようだ...。」



(イリアさんって...力も割と強いんだな...。)



「それで...レイドの見解でもいいなら...だったな。あぁ構わないから聞かせてくれ。」



(どうやら落ち着いたようだ...。)



「分かりました。実はですね...」




俺は、イリアにレポートの内容と俺が感じた違和感を話した。

それから『魔素』の事...そして『魔力』について...さらに『赤子』についても。



するとイリアは額を抑えながら言った...。



「馬鹿な...魔力の源がそのマソ?とか言うものだと...。もしそれが本当なら魔法学はひっくり返るぞレイド...。」



そして俺は、自分が考える『詠唱』の必要性を説明した。



「これはあくまで俺の考えなのですが...。今話したこれらを踏まえると、『詠唱』は簡単に『魔法』を想像出来るように手助けしているものなのではないかと...。」



説明が終わると、俺とイリアの間に沈黙が流れた...。

そしてしばらくの沈黙の後、先にイリアが口を開いた。



「確かに...これなら私が考えていた全ての謎にも辻褄が合う...。」



「どうでしょう...?納得できましたか...?」



恐る恐る聞くと、イリアは満面の笑みで言った。



「あぁ...納得だ。全く...お前はおもしろいヤツだと思っていたが、まさかそれ以上だったとはな。」



そう言ってイリアは俺の肩をポンポンと叩き、その後に俺を抱きしめた...。



「ち、ちょ...イリアさん...!?」



もちろん俺はどうしていいか分からず固まってしまった...。

するとイリアは優しい声で言った。



「とにかくだ...おめでとうレイド、よくやったな...。」



「は...はいっ!」



俺はその言葉にこれまでの苦労やイリアとの思い出が蘇り、思わず泣きだしそうになった...。



「これもイリアさんのお陰です...!本当にありがとうございます!」



俺はどうにか涙をこらえ、これまでの感謝を伝えた...。



するとイリアは俺を離した後に頭を優しく撫でながら言った。



「気にするなレイド、こちらこそありがとうだ。」



「はいっ...!」



俺はなんだか恥ずかしくて照れてしまった...。



その後、顔の赤くなった俺を見たイリアが少しおかしそうに笑ってから言った。



「しかしレイド、これは私の推測なんだが...恐らくこの原理が分かったからと言って、誰しもが『無詠唱魔法』を使える事はないだろう...。」



「え?それはどう言う...」



すると、イリア人差し指を立ててから言った...。



「それはだなレイド...私達は君が言った通り、想像の手助けとなる『詠唱』に慣れすぎているんだよ。だから現に今、賢者であるこの私にさえ君がやったように火を発動することが出来ない...。」




「そんな...!イリアさんが無詠唱魔法を使えるようになれば少しでも恩を返せると思ったのに...。あ。」



(まずい...つい口が滑って...。)



するとイリアは少し呆れたように切り出した。



「そんな事まで考えていたのか全く...。だが、心配はいらないぞレイド。お前は洞窟で会った時に体質の事は諦めないと私に言ったな。そしてお前はそれを守り成すことができた...。だから私も決して諦めないとお前に誓おう。」



そう言い終わると、イリアは笑顔に戻っていた。



「はい!イリアさんなら必ずできると信じてます!!」



「ありがとう、では今日は『魔法』の種類と使い方についてレイドに教えるとしよう。」



「よろしくお願いしますっ!!」



こうして俺は、日が暮れるまでイリアに魔法を教わったのだった...。










































































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