第13話


「よーし着いたぞ!」


家の前に着くと、師匠は俺を乗せたまま扉を開け、イリアを呼んだ。



「おーい!イリアちょっと来てくれ!」



俺は体験したことのないスピードと揺れで師匠の背中の上で目を回していた...。



「なんだ?思ったより早いじゃないか...ん?お前の背中に乗ってるのはレイドか?」



「うっ...気持ち悪い....ふぐっ..。」



初めて人で乗り物酔いを経験した俺はすぐに口を塞いだ。



するとオベロンは申し訳なさそうにイリアに言った。



「とまぁ、弟子がこんなんでな...。すまんが回復魔法を掛けてやってくれんか?」



「全くお前と言う奴は...子供相手にどんな稽古をつけたんだ。」



イリアは俺の状態を見て、どうやらオベロンに呆れている様だ...。



「あ、いや...その~」



オベロンが気まずそうに目を反らすと、イリアはため息をついてから言った。



「まぁいい、剣術についてはお前に一任しているしな。私が口を挟むのは野暮だろう...。どれ、治してやるからレイドを下ろせ。」




「あぁ...!すまない、頼む!」




そう言って師匠は俺を床に下ろし、ぐったりと座り込んでいる俺の目の前でイリアは手をかざした...。



「どれ......ん?これは筋肉疲労か。それと...平行感覚の異常...よし、『治癒ヒール』。」



そう唱えると、手の平から魔法陣が現れ、身体の痛みや目眩、倦怠感まで徐々になくなっていった...。



(なんだこれ...すげぇ温かくて気持ちいい...。)



数秒して魔法陣が消えると、イリアは手を下ろして言った。



「もういいぞレイド。それで身体の調子はどうだ?」



俺は立ち上がり身体の状態を確認した...。



「はい...問題ありません!ありがとうございます!」



(あれが魔法か...一瞬で痛みが消えるなんて、凄いな『治癒ヒール』!!)



するとイリアは自分の足元を見て、顎を軽くつまみながら珍しく独り言を話しはじめた...。



「なるほど...魔力を持たない生物でも『治癒ヒール』は可能...。いやしかし、死人に『治癒ヒール』は効果はなかったはず...。いや...だが魔力は生まれる前から保有しているのが理...そして死と同時に拡散...消滅...。」





俺はあまりの集中力に声を掛けれずに固まっていると、後ろに居た師匠が笑いながら声を掛けた...。



「イリアよ、お前も相変わらずだな全く!」



すると声に気付いたイリアは独り言を止め、顔を上げた...。



「あ、あぁすまない、どうにも性分でな...。それにしてもレイドよ、お前は本当に興味深い存在だな。」



そう言うと、イリアはニッコリと笑った。



「え、えーっと...ありがとうございます?」



そう言うと、また俺の腹が鳴った...。



それを聞いた二人は顔を合わせ、何故だか笑った...。



「さて、私はもう朝食は済ませているのでな、二人も早く食べると良い。あぁそれとレイド、午後は私の仕事部屋の方に来てくれ。」




そう言うと、イリアは仕事部屋へと行ってしまった。




「よし!それじゃ俺達も食べようじゃないか!」



「は、はい...。」




こうして俺と師匠は二人で朝食を摂り、師匠と今後の流れについて話した。




「師匠?この後は何をするんですか?」



「うーん...そうだな...。」




すると師匠は少し考えてから言った...。



「とにかくお前のその身体じゃ剣はまだ早い、だからこの後は俺と素手で戦い身体の使い方を覚えてもらおう!」



(え...?それってスパーリングみたいなことか?)



それを聞いた俺があからさまに嫌な顔をすると、師匠は笑いながら言った。



「まぁ心配するな!多少の怪我ならイリアが治してくれるさ!それにもちろん手は抜いてやるから、思いっきりぶつかって来い!ハッハッハ!!」



(いやそもそも痛いのが嫌なんだが...?まぁ、これもこの世界で生きていく為と思えば仕方ないか...。)





こうして朝食を食べ終わった俺達は午後までの間、家の外で体術の修行をすることになった...。




「違う!そうじゃない!」



「え?こ、こうですか?」



俺は師匠に、拳の打ち方を教えてもらっている...。



「ふんっ...!そうだ!いいぞ今の感じだ!!」



「はい!」



正直、師匠は感覚派だと決めつけていたが、案外ちゃんと言葉にして教えてくれる...。



「いいか、大振りは隙が出来るからダメだ!それに相手に届くまでの速さも遅くなる...だから動きはなるべく小さく!そして素早くこうだ!」




「おぉ...さすが師匠...!ですが、これだと威力は劣るんじゃ...。」




「おっ!さすが俺の弟子、いいとこに目を付けたな。お前の言う通り、確かに威力は落ちる...だがそれは攻撃を当てる場所によっての話であって、逆に言えば場所によっては一撃で相手を沈めることも出来る!」




「ふぐっ...!?」




「ハッハッハ!どうだ、指での攻撃だが先程とは桁違いだろう?」




「うっ...くっ、なん...で...?」




「いいか弟子よ、大抵の生物には弱点がある!強い奴はもちろん鍛えたり、魔力で強度をあげたり装備で防御したりするがな!だが、人においては弱点は一つじゃない...それに加え致命的になりうる箇所がいくつもあるんだ。だからそれを覚え、当てることさえできてしまえば...。」




「少しの力でも...かなりのダメージを与えられる...と...言うわけですね...。」




「そうだ...だがそれだけではなく、その弱点となる部位をどう守るか。こと戦闘においては一瞬の隙は命取りだからな、しっかり学び対策しそして常に備えておく...これこそが長く生きるコツみたいなものだ!ハッハッハ!」




俺はそれからも色々な動きや、戦闘の考え方などを学びながら、何度もぶつかり打ちのめされながら、ひたすら体と頭に覚えさせていった...。





こうして時間は過ぎていき、あっという間に太陽は真上まで登っていた。




「ふげっ...!!」




「よーし!今日はここまでだ!いいか、今学んだことは痛みも含めてしっかりと覚えるんだぞ!」



(うっ...忘れたくても忘れられるかよ...っ...。)



「はい...師匠...。」



俺は倒れながら腹を抑えてそう言った...。



それから俺達は昼食を食べる為に中へと戻り、俺はまたイリアに回復魔法を掛けてもらった。



そして食事中、イリアに進捗を聞かれた俺達は、各々に状況を報告し俺と師匠両者の希望もあり、これからも修行終わりにイリアが回復魔法を掛けてくれることとなった。



それから昼食後、俺は片付けを済ませイリアの仕事部屋へと向かった。昼食時、師匠に午後はどうするのか尋ねたら、俺の筋肉が早く成長するように森で肉を狩りに行くと言っていた...。



(晩飯は肉かぁ...ここに来てからは果物とパン。そして野菜スープだったもんなぁ...。)



俺は久々の肉を楽しみにしながら扉をノックした。



「イリアさん、俺です!」



「来たか、入ってくれ。」



俺は扉を開け、中へと入った。



(おぉ...!座学の時はキッチンでだったから初めて入ったけど、本の数がすげぇ...!)



部屋にはいくつもの本棚があり、イリアの机の上には無造作に積んだ本と紙や羽ペンなどが置かれていた。




「それでイリアさん、今日から俺は何をすればいいのですか?」




するとイリアは椅子から立ち上がり言った。



「そうだな、まずは記録を取りながら魔力について基本的なことから試してみようと思う。」



そう言って俺に近寄ると、後ろの方に周り俺の背中に手を当てて言った。



「まずは君に魔力を留める器があるかどうかから調べてみよう...。」



すると、ゆっくりと俺の背中から温かい何かが身体の中に入ってきた。



「今、私はお前に魔力を流している...。どうだ?何か感じるか?」



俺は自分に起きている状況を正直に言った。




「はい、俺の背中から温かい何かが体に入るのを感じます。」




「ふむ...。器は問題なさそうだな。他には何か感じるか?」




そう言われ、俺は自分の感覚に集中した。



「うーん...。なんと言うか、入ってきた温かいものが全身に広がって...それから湯気みたいに揺らいで出て行っている?みたいな感覚です...。」



すると、イリアは流していた魔力を止め、机に戻りたったままメモを取り始めた。




「なるほど...。今分かったのは、器自体は問題ない...が、魔力を留める事が出来ずに外側へと流してしまう...と言うことだな。」



メモを取り終わると、イリアはまた俺のところへ来て言った...。



「よし、レイドこの前座学で教えた初歩的な魔法は覚えているか?」



(あぁ、確か火の『炎球フレイムピット』と水の『水流ウォーターフロー』だっけ...。)



「はい、火と水どちらも覚えてます。」



すると、イリアはまた手を当てて言った。



「では『炎球フレイムピット』の方を唱えてみてくれ。」



そう言うと、俺の背中から魔力が流れてきた。




「分かりました...『炎球フレイムピット』」



俺は教わった通り人差し指を立てて唱えたが、魔法は発動しなかった...。



「ふむ...発動しないか。よし、次はもう少し流す魔力を濃ゆくしてみよう。」




それからも何度か挑戦し、それでも発動には及ばず...。

場所を外に変え、イリアが教えてくれた魔法の詠唱をいくつも試したけども結果は変わらなかった...。




「ふむ。正直何か一つは発動すると思っていたのだがな...。」




「俺も少し期待はしてたのですが...。でも、不思議ですよね?イリアさんの回復魔法は俺に効果あるのに、イリアさんの魔力で魔法が発動しないなんて...。」




(どっちも同じ『魔力』のハズなんだけどなぁ...。いや待てよ?それってただ単に俺のやり方が下手なんじゃ...。)




「そうだな...まぁなんにせよ、今は焦らず一つずつ試していく他ないだろう。さぁそろそろ日も暮れる、今日はこのくらいにして帰ろうかレイドよ。」




「そうですね!明日もまたよろしくお願いします!」





こうして俺たちは家に戻った。




家の近くまで来ると、なにやらいい匂いが漂ってきた...。



(この嗅いだだけでヨダレがでる匂いは...!?)




「おぉ二人とも帰ったか!」



「師匠!それってまさか...!?」




家に着くと、そこにはイノシシによく似た見た目の成獣...『ブラットボア』を丸焼きにしているオベロンが居た...。




「すげぇ...!俺、本に書かれてた絵では知っていたけど本物は初めて見ましたよ!」



俺が目を輝かせながら興奮気味に言うと、師匠は少し照れくさそうに言った。



「お、おぅ...そうか?実は貧弱な弟子にどうしても力が付く物を食べさせたくてな!」



(うひょー!肉だ肉!ブラットボアは本で見た時から食べてみたいと思っていたんだよなぁ~さすがは師匠だ...!)



ブラットボアとは、赤い目が特徴で小さく鋭い2本の牙と、額から生える1本の角が特徴のイノシシに姿が似ている動物で、性格は獰猛だがこう見えて草食。

額の一本角はオスは大きくメスは小さくて、オス同士はその角を使って縄張りやメスを奪い合ったりすると言う。



「それで師匠?こんな立派な成獣、どこで狩ったんですか!?」



(この辺りでは鳥と魚くらいしか見たことないけど...。)



「それなんだが...普段ブラットボアなんてそこら辺の森にたくさんいるはずなんだが、何故かこの辺りには1匹も居なくてな?仕方なく南に見えるあの山の近くまで走ってようやく見つけたんだ。」



(南のって...あの山!?こっからどんだけの距離あると思ってんだこの人...。)



こうして改めて師匠の凄さを実感していると、イリアが言った。




「あぁ、それは多分私がここら一体に結界魔法を張っているからだな。」




「え!?イリアさん洞窟以外にも結界魔法を使ってるんですか!?」




俺は意外な事実に驚きを隠せなかった...。



「当たり前だレイドよ、自分の住処にこんな野獣や魔物なんかにうろうろとされては困るだろう?それにここら一体のは洞窟のものとは違ってあくまでも寄せ付けにくくするものだ。」



(いや確かに困るかもだけど、一体どれだけの範囲だよ...。)



すると、師匠が笑いながら言った。



「通りで全然食えそうなのが見つからないわけだ!ハッハッハ!それにもし結界内に入ったとしてもイリアの膨大な魔力なら奴らも感づいて近寄らないわな!ハッハッハ!」




「ほえぇ......。」




(まぁ、分かってはいたけどイリアさんも相当なんだな...。)




「おっ!そろそろ焼きあがるぞ!どうだ?イリアも食うか?」




「いや、遠慮させてもらうよ。私はひと足先に中に戻るから、そいつは気にせず二人で食べてくれ。」



イリアは微笑みながらそう言うと、軽く手を挙げてから家の中へ入って行った。



(やっぱり女性だから油っこいものとか苦手なのかな...?)



「よし!それじゃ俺達で食っちまうか!」



「はい!そうしましょう!!」



こうして俺は、久々のお肉を師匠と二人で堪能したのだった。






















































































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る