第12話

そして最後の座学も無事に学び終えた次の日、俺は日の出と共にオベロンに叩き起こされた...。


「起きろレイド!早速始めるぞ!ガハハ!!」


(うっ...まだ日が昇り始めたばかりだぞ...!?)


俺は少し不満に思いながらも、どこか懐かしくも色々と余計な事を思い出してしまいそうな感覚に苛まれていた。



「ふぁ...ふぁい...。」



まだ覚めきっていない身体をどうにか起こし、オベロンと一緒に外へ出た。



「さて、我が弟子よ!本日からこの師匠であるオベロン様が直々に鍛えてやるんだが......」



するとオベロンはまだ眠そうな俺を上から下まで穴が空きそうなほど見て言った...。



「うーん。なんと言う貧弱...。これでは剣を振るどころではないな...」



そう言ってオベロンは頭を掻きながらしばらく考えた後、何かを閃き言った...。



「よし弟子よ、走るぞ!ついて来い!」



そう言って、オベロンは走り出した...。



「え、ちょ!いきなりですか!?」



突然の事に驚きはしたが、俺は言われた通りについていく事にした。




こうして、数分間黙って走っていると、まだ柔らかい朝日のおかげもあってか、俺は完全に目が覚めた。



(いきなり「走るぞ!」って言われた時はどうなるかと思ったけども、スピードも軽いランニング程度だし、身体も若いせいかなんだか気持ち良さまで感じる...)




すると先頭を走るオベロンが振り向いて言った。



「どうだ?もう目は覚めたか弟子よ。」



「はい、もうすっかり覚めました!ところで師匠...?どこまで走ればいいのですか?」



(すごいな若い身体って...走りながら会話しても全然疲れないや...。)



するとオベロンはニヤリとしてから言った...。



「それは着いてからのお楽しみだ!速さは変えずに行くからへばるんじゃないぞ!!」



こうして俺たちは1時間程走ると、ようやく目的地に着いた...。



「さぁ着いたぞ弟子よ!ここが当分の間、修行の場になる!」



「はぁ...はぁ...はぁ...み、湖......。」



(す、すごいなオベロン...けっこう良い歳なのに、息も上がってないなんて...。)



最初こそ余裕だった俺だが...30分を超えたあたりから徐々に息が上がり始めていた...。



すると、そんな俺を見たオベロンは呆れた顔で言った...。



「なんだもうへばったのか!?情けないな弟子よ、これじゃあ動物すら狩れんぞ...。」



(いやいや...オベロンが凄いんだよまったく...。)



「す...すみません...はぁ...はぁ...それで...ここで一体何を...はぁ...はぁ...」




するとオベロンは、不思議そうな顔をして言った...。



「何って...湖だぞ?そりゃもちろん泳ぐんだよ。」



「はい...?」



(一体泳ぐのと剣術になんの意味が...?いや、でも『剣聖』が言うんだし、ただ泳ぎたいってわけでもない...はずだよな...?)



するとオベロンは服を脱ぎ、下着一枚で頭から湖に飛び込んだ...。



「ちょ、師匠!?」



「ぷはっ!やっぱ朝の水浴びは気持ちいいなぁ!って、おーい、何固まってんだ!?お前が来ないと修行が始まらんぞぉ!」



(あぁ、一応ちゃんと修行なのか...まぁこの世界に来てからは井戸の水で身体を拭くぐらいしか出来なかったし、水風呂と思えばちょうど良いか...。)



「わ、分かりましたよ!今行きますから!」



俺は急いで服を脱ぎ、大きく息を吸ってから湖に頭から飛び込んだ。



飛び込んですぐに目を開けると、湖は思っていたよりも深いようで、薄っすらと見える底のほうには魚たちが慌てた様子で泳いでいた...。



「ぷはっ!...それで師匠、修行って一体何をすればいいんですか?」



俺はオベロンの近くに顔を出し、湖で泳ぐ訳を聞いた。



「お?どうやら泳げはするようだな弟子よ!」



「そりゃ、泳ぐぐらいなら出来ますよ...。それより...」



そう言いかけると、オベロンは笑いながら説明した...。



「あぁ分かってるって!泳ぐ理由だろ?いやな、最初は直ぐにでも基礎の型を教えて木剣での稽古にしようと思ったのだが...。正直、お前の身体は貧弱すぎる!これでは木剣を振るどころか基礎も身には付けれないと判断した!」



(まぁ確かに...。そう言えば洞窟で見つけた剣も重くて置いてきたし...。)



「それでだ弟子よ!まずはお前の身体から鍛えることにした!だが、お前はまだ成長途中の子供...いきなり岩を持たせたところで、硬いだけの筋肉では自在に剣は扱えない。」



(い、岩を持たせようとしてのか!?正気か!?)



「だから当面はこうして泳ぎ、柔軟で強固な筋肉をつけつつ、さらに走りも加えて基礎体力を底上げしていくからな!しっかりついて来いよ!!」



(そんな無茶苦茶...じゃない!?理にはかなっている...!まぁ、岩持たされるのは素直に嫌だし、毎朝水風呂に入れるならマシか...。)



「はい師匠!よろしくお願いします!」



「良いぞ弟子よ!では今から湖を横断する!私に続けぇ!!」






それから俺は師匠を追いかけながら湖を泳ぎまくった...。

師匠は常に俺に追い付かれるギリギリを泳ぐので、俺はそれが師匠の策だと知らずにまんまとハマり闘争心を燃やしていた。



(よし!あと少しっ...!くッ...スピードを上げたか...。だが剣聖とは言え歳は歳!あのスピードをずっと維持するのは不可能!......よし、思った通りペースが落ちた...だが、今仕掛けるのはこちらの体力とスピードでは不利!ならここはあえて少し後ろでペースを合わせて......よし、体力と筋力に余裕が出て来た...後は息をしっかり整えて...今だっ!!!......ってなにぃ!?スピードをあげただと!?まさか、同じタイミングで師匠も休息を!?お、追い越せない...だが諦めるな俺!今のはタイミングが合わなかっただけだ...ほら、師匠だってまたスピードが落ちて来ている...よし次だ!!)


それから何度も猛攻を仕掛け、何度も作戦を練り、何度も適切なタイミングを見計らった...。

それでもあと少しで勝てない悔しさに少し腹を立てていたが、そんな俺をさらに煽るように、師匠は湖の端で切り返すたびに、俺の真下でわざと俺と顔を合わせるように泳ぎ、大人げない変顔を披露してくる...。



(クソッ......ムカつく...。次こそは...!!!)




こうして、時間も忘れひたすら師匠を追いかけていると、突然師匠が大きく差を広げたかと思うと、イルカのような泳ぎで潜り、勢いよく水面から飛んで地面に着地した...。



「よーし!そろそろいいだろう!弟子よ帰るぞー!」



そう言うと、ちょうど湖の淵に着いた俺に片手を伸ばしてきた。



(なんだよあの泳ぎ...本当に人間なのかこの人...。)



「ありがとうございます。」



俺は片手をつかみ師匠に引っ張り上げられたのだが...。



「うっ...!?!?!?」



足が地面に着いた瞬間、あまりの身体の重さに立っていられなくなった...。



(か、身体が...お、重すぎる...!!)



するとそんな状況をみた師匠は大笑いしながら言った...。



「どうだ弟子よ修行の効果は?ハッハッハ!」



「た...立てないで...す...。」



俺はまるでカエルのような格好で地面に腹ばいになりながら答えた...。



「まぁ無理ないな、お前には魔力は無いしそれにもう完全に日が出るまで泳いだんだしな!」



(え...もうそんなに時間が...。って言うか、師匠が余裕だったのってもしかして...)




「師匠...もしかして最後の泳ぎとあの速さって...」




すると師匠は少し気恥ずかしそうに言った。



「あぁあれか?あれはだな...魔力を肉体で使う『スキル』を応用したものでな...!どうだ?かっこよかっただろ!」



(スキル...そう言えば座学で習ったな、確か体内にある魔力を肉体にそのまま使って、強度を上げたり瞬発力を上げたり色々応用出来るって...。って言うか...)



俺はつい皮肉を口にした...。



「なるほど、つまり師匠は魔力が無く、魔法もスキルも使えない俺相手に力を見せつけたわけですね...?」



すると師匠は少し驚いた様子で俺をなだめた。



「まぁそんなにひねくれるな弟子よ、その...なんだ、必死で食らいついて来ようと奮闘する姿勢がつい可愛くてだな...!つい師匠として応えたくなったんだよ...。」



(はっ!?俺は何を...。)



「す、すいません!少し皮肉が過ぎました師匠...。」




「いや構わない...。俺こそ配慮せず煽ってしまってすまなかった...。」




(まただ...最近なんだか感情がおかしい...。今みたいに悔しさから皮肉をこぼしたり...イリアとの座学では危うく駄々をこねそうにもなった...。)




「いえ!俺こそ教えてもらう立場なのに...!」




「何を言うか、お前は弟子とは言えまだ子供だ。礼儀があるのは良い事だが、無理はしなくていい。」




(子供...そう言えばイリアにも同じこと言われたっけ...。この世界に転生して約1か月...もしかしてたまに沸くこの大人げない感情や、純粋な闘争心なんかも...俺の魂がこの身体に慣れようとしているのか...?)




すると、俺の腹が大きな音を立てて空腹を知らせた...。



「ハッハッハ!そろそろ戻るか!」



(もう朝食の時間か...。)



俺は重い身体を気合で動かし、どうにか服を着た.。



すると、その様子を見た師匠が俺に背中を向けてしゃがみこんだ...。



「その様子じゃ走って帰れないな...よし!ほら、乗れ弟子よ。」




「あ.........」



俺は一瞬、大丈夫だと断ろうとしたが...それと同時に今の俺は子供で『レイド』だと言う事を思い出し、素直に甘えることにした...。




「ありがとうございます師匠...。」




すると俺を背中に乗せた師匠が笑って言った。




「なんだこの軽さは!これじゃあ少し強い風でも飛んでしまうぞ弟子よ!」



俺は少し恥ずかしくなり言い返した。



「そ、そこまでヤワじゃないですって!!」



すると師匠は嬉しそうに高笑いしてから走り出した...。



「帰ったらたくさん食って力をつけないとな!!」



そう言うと、まるで風のようにスピードをあげ、1時間ほど掛けて走って来た道を10分掛からないくらいで走破したのだった...。








































































































































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