第11話


こうして無事に変な誤解も解け、俺たちは朝食を摂っていた...。



「あぁそうだレイドよ。来週から剣術を教えてくれる奴がここに来る。」



「来週ですね...。それで一体どんな方が来るのですか?」



(つまり来週からはブラックの始まりか...。)



「えーっとだな...」


するとイリアは席を立ち、1冊の本を机に置いてから言った...。



「来るのはこいつだ。」




「っ...!?!?」




俺はその本の名前を見て喉を詰まらせた...。



「おい、大丈夫かレイド?ほら、これを飲め。」



そう言ってイリアから差し出された水を俺は勢いよく飲んでから言った...。



「ちょ...これって!まさか『剣聖オベロン』ですか!?」



するとイリアはにっこり笑って頷いた...。



(バカな...!剣聖オベロンって確か剣1本でドラゴンを退け、国1つは滅ぼせると言われているあの!?でも確か本の内容によると...)



「待って下さいイリアさん!たしか剣聖オベロンは引退してもう歳なのでは!?」



(そう、本に書かれていた年数を計算すると、今はもう60歳を超えているはず...)



するとイリアは笑って言った。



「歳?あいつはまだ60歳くらいだぞレイド。」



(え...?60ってこの世界では『くらい』なの...!?)



そう言って笑っていると、イリアは何かを思い出したようで、あまりの違和感に面食らっている俺に言った...。



「あぁそうだった...すまないレイド。そう言えばお前にはまだ言ってなかったな...私の種族は『ハーフエルフ』なんだよ。」



「ハーフって...えぇー!?!?!?」



俺はこの世界に転生して間もないが、この事実が今までで一番驚いた瞬間だった...。




「は、ハーフエルフって、世界に十人も居ないって言うあの!?」




(確かイリアとこの世界の種族について勉強したときに、「エルフとは別にハーフエルフと言う十人も居ないくらいの希少種もいるぞ。」ってめちゃくちゃさらっと言ってはいたけども...。)



「おぉ...どうやら座学はしっかりと身についているようだなレイド。そうだ、私はそのハーフエルフだよ。」




(と言うことは、エルフよりではないけども長命...。なるほど...確かにイリアにとって60年なんて体感6年くらいなものなんだろう...。)



俺はなんだか、色々と納得してしまった...。



「そ、それでイリアさんとオベロンさんはどういったお知り合いなのですか...?」



(さっきも「あいつ」とか言っていたし、友達...?いや、もしかしたらそれ以上...?)



恐る恐る聞くと、イリアは俺の考えている事が分かったのか、誤解だと言わんばかりに手を振りながら笑って答えた...。



「いやいや、あいつとはただの冒険仲間さ。」



「え?冒険仲間...!?」



するとイリアは頷き、昔を思い出すかのような目をして言った。



「あいつとは昔、たまたま『アオロス山脈』で出会ってね...」



(アオロス山脈!確かベルディオンとエルメアの間にある2つの山脈のベルディオン側だ...!)



「あいつは魔物の討伐依頼で、私は魔法研究に使う素材を探しに来ていたんだ...」



(あれ...?もしかしてイリアさんって、エルメアに居たことがあるのかな...?)



「その時、わたしのところに翼を持つ魔物が襲ってきてな...私は魔物と近くにあいつがいるのは感知魔法で知っていたから、攻撃魔法でどっちとも消し飛ばない様に結界魔法を張ろうとしたんだよ...」



(消し飛ばない様にって...一体どんな威力の魔法を使おうとしたんだこの人...。)



「そしたらあの馬鹿、なにを血迷ったのか「危ない!!!」とか言って私に飛んできてな...」


(あ...いやそれ多分魔物の攻撃から庇おうとしただけじゃ...。)



「とっさの事で気が散って結界魔法は発動出来なかったし、せっかく集めた素材もどこかに行ってしまうしで腹が立ってしまってな...。」



(まさかオベロンさんに魔法を...!?)



「仰向けで覆いかぶさる邪魔な顔ごと消し飛ばそうと、指先から攻撃魔法を放ったら奴め...運よく避けてしまってな。結局、上空にいた魔物にだけ当たって爆散したんだ...。」



(お...おっかねぇ...この人。)



「と、まぁ...後はなんやかんやあってしばらくの間、奴とその他数人でしばらく冒険したってわけだ。」




「あ、あの~イリアさん?今のところ恨みしか聞いてないので、なんやかんやのところも聞きたいのですが...。」



すると、イリアは作り笑顔で俺に人差し指を見せながら言った...。



「レイド...そろそろ休憩は終わりにして、座学の勉強をしようか...。」



「は、はいっ!!!」



俺はすぐに立ち上がり、急いで皿を片付けた...。

多分、恐らくだが、後少しでも行動が遅かったら今頃俺はあの指先から出たビームでやられていただろう...。





あれから一週間、俺はみっちりと座学を学んだ。

あれ以来、何度かオベロンさんとの話を聞こうとしてみたが、予想通りダメだった...。





そしてそんなこんなでデニスがやって来たのだが...。



「おはようございます賢者様!それにレイドも!」



「やぁ!久しいなイリア!元気にしていたか?」



何故かデニスの隣には、あの『剣聖オベロン』が居た...。



「お、おはようデニス...。えと...オベロンさん?いや様?もおはようございます...。」



あいさつをすると、オベロンは俺を見るなりすぐに近寄り、笑いながら背中をバシバシ叩きながら言った。



「ガハハッ!君がレイドか、まさか本当に魔力がないなんてな!ハハッ!まぁ元気出せ、今日から俺がしっかり鍛えてやるからな!ハハハッ!」



(け、剣聖様って人間族だよな...見た目は40手前くらいに見えるし、それになんだあの筋肉...これ現役そのもののだろ...。)



「は、はい...よ、よろしくお願いします...。」




(にしても痛い!痛いよ背中っ!!)




「あぁ、私は変わりない。来てくれて助かるよオベロン。」



イリアがそう言うと、オベロンは叩いていた手を止めて言った。



「なぁに、俺も引退して暇を持て余していたし、なにより昔の仲間の頼みだからな...あ、そうだ!ところでイリア、こいつはどのくらいに鍛えればいいんだ?」




するとしばらく考えたイリアが言った。



「そうだな...とりあえずはここから一人でベルディオンの冒険者の街に行ける程度でいいんじゃないかと思っているが...」



「ほう...?あれらを魔法無し、スキルも無しで剣だけでやり合うとなると...。ガッハッハ!これは鍛え甲斐があるな、なぁ弟子よ!」



(て言うかもう師弟の関係...!?)



俺は色々と突っ込んだら面倒だと察したので、とりあえず流れに身を任せることにした...。



「は、はい師匠...よろしくお願い致します...。」



(ほんとパワフルな人だ...。)



それからいつも通りに商品を確認し、走竜に水を与え、俺はしばしデニスと談笑を楽しんだ。


その間、オベロンはイリアと昔話に花を咲かせているようだった。



(オベロンのことあぁは言っていたけども...イリアさん楽しそうじゃないか。)



つかの間の時間は過ぎ、デニスは荷台の積み荷を確認してから手綱を振った。



「それでは賢者様!剣聖様!そしてレイド!またお会いしましょう!」



そう言って竜車が走り出すと、イリアとオベロンは先に家に入り、俺は竜車が見えなくなるまで見送ってから、いつも通りに荷物を運んだ。




それから俺達は3人で朝食を摂っていたとき、イリアが今後について話しはじめた。



「レイド。先ほどこいつと話し合って、剣術は明日からになった。」



(いよいよブラックが明日からか...俺、大丈夫かな...?)



「それでだ...。もともと座学はもう少し掛かると予想してたのだが、お前はその年にしては物分かりが言い。」



(まぁ、そこは正直ズルだけどね...。)



「なので、当初考えていた午前と午後で座学と剣術を学ぶのを変更させてもらうことにした。」



(え...?どういうことだ?)



俺が首を傾げると、イリアは微笑んで言った。



「つまり、座学は今日で終わりだよレイド。」



(え...!?ってことは明日から本を頭に詰め込まなくてもいい!?つまりブラックは回避っ!?)



俺は先走りそうになる喜びを一先ず抑え、念のためにイリアに聞いた。



「えっ!?本当にいいのですか...?」



するとイリアは関心した表情で言った。



「あぁ、今日学ぶものも合わせれば、たとえ一人でも十分生きて行ける知識量にはなるだろう...。」



(よっしゃー!!!!!!)



俺は心の中で喜びを爆発させた。


すると、嬉しさが表情に出てたのか、イリアが言った。



「レイドよ、煩わしさが一つ減ってさぞ嬉しかろう...。」



「はいっ!もうなんと言うか...嬉しい限りです!」



素直にそう言うと、イリアは何度か笑顔で頷き、そして不敵な笑みを浮かべて言った。



「まぁ、そう言うことでな。明日からは前に言った通り、お前の体質の研究と剣術の稽古を午前と午後に分けてやるのでな。どちらも励めよ少年。」




「あ.........。」



(.........。)



そう、このとき俺は嬉しさのあまり、体質の研究についてはすっかり忘れてしまっていたのだった...。



「ハッハッハ!やはり若者はやる気がないとな!俺も明日からが楽しみだ!」



「は......は...い...。」



結局はブラックからは逃れられないと悟った俺は、しくしくと心の中で泣いたのだった...。


































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る