第10話


あれから1週間...。俺は最初こそ目を回し頭を痛めていたが。知識が付くごとに理解力は増していき、今となっては座学の日々も慣れ始めて来ていた...。



「おはようございます賢者様!そしてレイド様!」



今日は週に1度のデニスの日...。


俺は前回と同様に、荷物を下ろすのを手伝いイリアは商品の確認。

そして手が空いてから走竜たちに井戸から汲んだ水を与えた。



「して、デニスよ返事は来ているか?」



「はい、来ております!こちらになります!」



そう言うと、デニスはイリアに手紙を渡した。



「賢者様?返事はどうなさいますか?」



「そうだな...。」



するとイリアは少し考えてから手紙を開封しながら言った。



「すまんなデニス。内容を確認するまでしばらく待っていてくれ。」



「はい、もちろんです!」



そしてイリアは手紙を読みながら家の中へ入っていった。


俺は走竜に水を与え終えたので、桶を片付けてからデニスと話すことにした。



「デニスさん!少し聞きたい事があるのですが...。」



「はい、何でしょうか?」



俺は最近イリアから学んだ周辺諸国について気になっていた。



「俺、目が覚めたら記憶がなくなってて...洞窟の辺りを彷徨っていたときにイリアさんに保護されたんですが...」



するとデニスは目を真ん丸に開いて驚いた...。



「なんと!そんな事情が...。デニスはてっきり賢者様の隠し子なのかと...。」



俺は慌てて説明した。



「いえ!そうじゃないんです...!それで今はイリアさんに色々と教わっているんですが、最近この辺りに色んな国があると知って気になっちゃって...。」



申し訳なく言うと、デニスはそれならと荷台へ戻り地図を持ってきて見せてくれた...。



「こちらがこの辺り一帯の地図になるのですが...残念ながらデニスも全ての国に行ったことがあるわけではありませんので、デニスに分かる範囲でしたらお教えできますよ!」



そう言って広げた地図を俺も一緒に覗き込んでみると、シンプルながらも丁寧に国の名前や国境、地名や大まかな道まで記載されていた。



(えーっと、描かれている国は4つ...。そういやここって地図だとどこなんだろ?)



「デニスさん、まずは今いる場所が知りたいです!」



「もちろんです!今いる賢者様の住まいはこの森のここになります!」



そう言って指をさしたのは、地図の中央よりも少し右側だった。



(なるほど...ってことは、一番近い国は左上の『ベルディオン』か...確か『自由国家』で冒険者と勇者の始まりの地って言われているんだっけ...。)



「デニスさん!ベルディオンには冒険者がたくさん居るんですよね!」



「はいそうです!流石は『冒険者と勇者の始まりの地』だけあって、住民の8割が冒険者の街もあるんですよ!」



(冒険者の街か...みんなどんな暮らしをしてるんだろう...)



俺は想像に心躍らせながら、次は地図上の現在位置から近くにある右上を指さして聞いた。



「じゃあ、『グレスタ帝国』ってどんなところですか?」



(ここはイリアもあまり触れなかったんだよな...)



すると、デニスは何かを思い出したように顔をしかめながら言った...。



「ここはデニスも行ったことはないのですが...。同業者や周りの噂では良い事を聞いたことがないところですね...。」



俺は純粋にその『噂』が気になった。



「それって...?」



デニスに期待の眼差しを向けると、しばらく考えてからしぶしぶ教えてくれた。



「正直なところ、子供には言いづらいので賢者様には内密にして下さいね...」



(まぁ...イリアから教わったときから何かしらはあるとは思っていたけども、これは聞くのに覚悟が必要そうだ...。)



俺はデニスの言葉に真剣な顔で頷いた...。



「噂では、グレスタ帝国は『人間族至上主義』を掲げているらしく...デニスのような獣人族やその他人間族以外を『亜人』と呼び、かなり嫌っているようなのです...。」




(至上主義...前世でもいざこざは知っていたが、解決はほぼ無理に近いよな...。)



するとデニスは、イリアが来ていないか確認し、小さな声で言った。



「しかもですね...。やつらはその『亜人』達をさらったり、奴隷商人から買ったりしてはボロ雑巾のように使って処分しているって言うんですよ...。」



そしてデニスはギュッと拳を握り、フルフルと震わせながら言った...。



「デニスは許せません...!『奴隷商人』などと、奴らが商人を名乗るのがどうしても納得いかないのです...!」



(確かに同族をそんな風に扱う帝国も、そもそもの奴隷商人とか言うのもデニスにとっては『魔族』みたいなものだよな...。)



「デニスさん...」



俺はデニスの怒りが落ち着くまで、黙って背中に手を置いた...。



「ご厚意感謝しますレイドさん...。」



「いいんです!元はと言えば俺が変なこと聞いてしまったからで...」



するとデニスさんは頭をあげてニコっと笑った。



「レイド様もお優しいのですね!おかげで落ち着きました!」



そう言うと、デニスは残った国々を指さしながら順番に教えてくれた。




現在地から右側、グレスタ帝国の下には『中立国家リュネール』があり、名前の通り各国の戦などには手を出さず、近隣国の有事の際には避難民を分け隔てなく受け入れ、物資なども必要に応じて同じ値段で国に売ると言う徹底した『中立』を貫いているらしい。


ただし、デニスが言うにはリュネールには『奴隷制度』があり、人間族を含めたあらゆる種族が奴隷商により売られていて、扱いは帝国よりかはかなりマシではあるが、あまり好きにはなれない国らしい...。




そしてリュネールの左の方には、『小国ウォーレント』と言う国があり、国土はリュネールに劣らないものの、王都以外に街などはなく。最近、先代の王が亡くなり今の国王はかなり若いんだとか...。

デニスは何度か商売をしに行ったそうなのだが、あちらにはどうやらどの品も高額らしく...先代王直々に値切られてからは、セルロン商会全一致で取引をやめたそうだ...。



そしてこの地図に載っている最後の国、場所はウォーレントの左、『アスラト山脈』を跨いで左にあるのが『魔法都市国家エルメア』

この国はなんと『魔法』の始まりの地だそうで、王都には『魔法学院』があり、貴族や富豪のご子息達がこぞって入学していると言うまさにエリート学校だそうだ...。


しかし『魔法都市』ともあって、街並みは美しくいたるところに魔法が使われ不便に感じる事が難しいそうな...。

そしてこの国では今なお魔法の研究が盛んに行われており、そのおかげで日々魔法は進化しているらしい。



(もしかしたら、ここに行けば俺の体質の原因も分かるかもしれないな...。あ、いや...研究材料にされるのがオチだな...うん、やめておこう...)




「とまぁ、この辺りの国々はこんな感じでございます!」



「ありがとうデニスさん!すごく勉強になったよ!」



するとデニスは照れくさそうにして言った。



「いえ、とんでもございません!あっ...そうだ!」



そう言って、デニスは地図を丸めて荷台へ向かった...。



(どうしたんだろ...?)



するとデニスは荷台からもう一枚の地図を持ってきて俺に渡した...。



「レイドさん!これよろしかったらどうぞ!」



「えっ!?いいんですかもらってしまって...。」



するとデニスは俺の手を取り、地図を置いてから笑顔で言った。



「はい!これはデニスから友への贈り物です!遠慮なく受け取って下さい!」



(と、友!!!)



俺は久しく聞かなかった『友』と言う言葉に感動してしまった...。



「あ、ありがとうデニスさ...いや、デニス!」



俺は嬉しさのあまり、とびっきりの笑顔をデニスに向けた。



「こちらこそです!その...レイド!」



俺達はこの何とも言えない空気がおかしくなり2人で笑った。



「すまない待たせた...ん?なんだお前たちそんなに笑って...。」



すると丁度イリアが戻ってきた。



「あ、いえ!なんでもないです!」



俺が笑顔でそう言うと、イリアは不思議そうな顔をしていた。



「それでイリアさん?手紙は大丈夫でしたか?」



俺がそう尋ねると、イリアが言った。



「あぁ、詳しくは後程話すが、結果から言うと剣術の稽古はやってもいいそうだ。」



(さて、これでもう後には引けなくなったぞ俺!)



「分かりました!俺頑張ります!!」



そう意気込むと、イリアは俺の覚悟を受け取るように頷き、手紙をデニスに渡して言った。



「何度もすまないが、返事をギルドまで頼めるか?」



「はい!もちろんです賢者様!」



デニスはそう言って、受け取った手紙を大事にしまった。



こうして、デニスが竜車で去っていくのを見送っていると、隣にいたイリアが言った。


「ところでレイド。その手に持っているものはなんだ?」



「これは......っ!」



イリアの顔を見ると、何やら誤解をして怪しんでいる顔をしていたので、俺は慌ててデニスと友達になった経緯を説明したのだった...。




































































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