第9話


「おや?レイド様は走竜そうりゅうが苦手なのですか?」



(へぇ...この生き物、ソウリュウって言うのか...。)



俺は念のためデニスの側まで退避してから答えた。



「いえ、苦手と言うか...その、馬車は知ってるのですが...これは初めて見たのでつい...。」



そう言うと、デニスは笑いながら走竜について教えてくれた。



「そうでしたか!この子達の種族は何と言っても足が強くてですね!それに性格もみな温厚で雑食なんです!」



(へぇ...見た目は恐竜みたいだけど、優しい性格なんだ...)



「ちなみに馬車と比べても、運べる荷物の重さもこの子達の方が上でして!価格はそれなりにしますが、私は馬よりこちらをすすめますよ!」



(さすが商人...。さらっと商売してくるんだよなぁ...。)



「あ、ありがとうデニス...大人になって稼げるようになったら考えてみるよ...。」



そう言うと、デニスはにっこりと笑顔で言った。



「はい!その際は是非とも、セルロン商会を贔屓にして下さい!」



「う...うん。」



(本当...しっかりしてるな...。)



デニスとの会話が終わったところで、イリアが戻ってきた。



「待たせてしまってすまない。」



「いえいえ!レイド様のおかげで楽しいひと時を過ごせました!」



それを聞いたイリアは俺を見て微笑んでからデニスに言った。



「それはなによりだ。では、こちらを頼む。」



そう言って、何枚かの重ねた紙と、しっかりと蜜蠟で塞がれた手紙をデニスに渡した。


「はい、確かに預かりました!」



すると、イリアは何かを思い出したようにデニスに念を押した...。



「あぁすまぬがデニス、手紙の方は渡す際に『他言無用だ』と伝えてもらえるか?」



「はい、かしこまりました!どうぞこのデニスにお任せ下さい!」



デニスはそう言って一礼したあと、馬車...ではなく竜車へと戻った。



「それでは賢者様!そしてレイド様!またお会いできることを楽しみにしています!」



そう言って手綱を一振りすると、走竜は荷台を引いて方向を変え、デニスがさらに一振りすると、そのまま真っすぐと走り出して行った。





(商人か...俺にはあそこまでの売り込みに自信はないけども、竜車で旅をするのも案外悪くないかも...。)




「.........。」



思ったよりも速い速度で見えなくなっていく竜車を見つめながらそんな事を考えていると、イリアが後ろから俺に言った。



「どうしたレイド?寂しくなったのか?」



「あっ...いえ!少し考え事を...。」



咄嗟に返すと、イリアは高笑いをした後に俺の背中を叩きながら言った...。



「心配するなレイドよ!あの商会とデニスとは長い付き合いでな、週に1度こうしてここに荷物を届けにきてくれるのだよ。だから来週になればまた会えるさ!」



イリアはそう言って、笑いながら玄関へと歩いて行く...。



「ち、違いますって...!俺は別に寂しいわけじゃ...!!」



商人について考えてた事を説明しようとしたが、イリアは俺が説明する前に遮った...。



「さぁ、早く中に入って朝食にしようではないか。その後は私と座学の勉強だから覚悟しとくんだぞ。」



「わ、わかりましたよ...もう。」



俺は荷物をまとめた木箱を持ち上げて、イリアの後に続いた。





それから俺達は朝食を摂り、先程買ってもらった服に着替えた。



「おぉ...!似合っているぞレイド。やはり私の目に狂いはなかったな。」



ガラスに反射した自分を見たが、確かにイリアの言った通りしっくりくる恰好になっていた...。



「ありがとうございますイリアさん!この靴も、すごく良い感じです!」



正直、靴下がないので内心落ち着かないが、裸足と先程まで履いていた靴と比べると快適さは天と地ほどだった...。



「そうか、それはよかったな。さてそろそろ始めるとしよう。」



そう言ってイリアはいくつかの本を持ってきた。



「っとその前に、レイド文字は読めるか?」



そう言ってイリアは一冊の適当なページをめくり俺に突き出した...。



(確かドックタグの文字は読めなかったから...)



「いえ...俺、文字はよめ......あれ!?よ、読める!?俺、読めます文字!!」



俺は驚きのあまりそのページに張り付いた...。



(あれ?でもなんで?昨日は変な模様としか思わなかったのに...。)



するとイリアも驚いた表情で言った。



「レイド、記憶はどうだ?戻っていたりしないか?」



(記憶は......あっ、そう言えば!)



俺はレイエルから貰った贈り物を思い出した。



(確かあの贈り物は、『この世界の共通言語を理解して話せる様になる』だったけども...もしかして言語を理解って文字にも適用されるのか!?)



「あっ...いえ、記憶の方はさっぱりで...。」




するとイリアは少し残念そうに肩を落とした。



「そうか...。でもまぁ、これは良い兆候かもしれないし、なんにせよ文字が読めるなら教える手間も省けるってことだな。」



そう言うと、イリアは調子を取り戻したようだ...。



(レイエル...。今度また話せたらしっかりお礼を言わないとだな...。)




そんなこんなで、文字から教わる予定だった俺は、段階を飛ばして本を使ってイリアから座学を学ぶ事になったのだった。







それから数時間...。俺はみっちりと知識をイリアに叩き込まれ、昼食の頃合いとなった...。



「あ...頭が...重い...。」



俺は机に頬を付け、目を回していた...。



「ふむ。なかなか飲み込みが早いなレイドよ。これなら私も教え甲斐があると言うものだ。」



(ま、まぁ...これでも一応中身はそれなりに生きてましたから...。)



イリアは何かのスイッチが入ったのか、すごく生き生きとしている様に見える...。



「さて、一先ず昼食にでもしようか。午後も励むんだぞレイド。」



「は、はい...頑張ります...。」




こうして、俺たちは昼食をとりながらしばしの雑談をしていた。




「ところでイリアさん、今朝の報告書と手紙って何だったのです?」



そう聞くとイリアは飲んでいた水の入ったコップを置いてから話した。



「あぁ、私が洞窟に結界魔法を張っているのは知っているだろう?」



俺は頷いた。



「簡単に言うと、あれの中には悪いものがあってな。それが世に出るのを国は良しとしないんだ...。それであれを唯一抑えられる『賢者』であるこの私に、国からあれを見張るようにと頼まれたのさ。」



「なるほど...。」



(世にでたらマズイものって...一体なんなんだろう?)



俺は気になったのでやんわりと聞いてみることにした。



「ちなみにそれが世に出るとどうなるんですか?」



するとイリアは少し考えてから笑いながら言った。



「そうだな。まぁ十中八九ここら一体と、周辺の街や村は一瞬で滅びるだろうな!」



「そ、そんなに...!?」



(俺そんなにヤバいところにいたのか......。)



俺は自分が洞窟でした行いを思い出し恐怖で震えた。



「まぁ心配するな、私がこの地に居る限り恐れる事はないさ。」



(と言うことは、あれはそのヤバいものの経過を国に報告する書類だったのか...。)



「それじゃあ、あの冒険者ギルド宛の手紙は...。」



そう聞くと、イリアは優しく微笑んでから言った。



「あぁ、あれはレイドに剣術を教えてやるようにと、私の知り合いに宛てた手紙さ...。それと...レイドと言う名前と君の容姿を元に、周辺の街や村も含めて家族や君を知っている者がいないか調べるようついでにギルドに依頼したんだ。」




そう言うと、イリアはちょっとだけ寂しそうな表情をした気がした...。



(イリアさん...そんな事まで...!?あれ...でも『口外するな』とか言ってた気がするけど...考え過ぎか...。)



「ありがとうございますイリアさん。」



お礼を言うと、イリアは笑顔に戻っていた。



「うむ。私も早く家族が見つかるよう祈っているよ...。それはそうとレイド...」



「はい、何でしょう?」



「恐らく来週には、私の知り合いから返事が届くとは思うが、もしもあいつが承諾してくれればこちらで一緒に暮らすことになる...」



(ん...?何か問題でもあるのかな?)



俺が頭にハテナを浮かべながら首を傾げていると、イリアが言った...。



「つまり、その時は1日に剣術と座学を学ぶ事になるのだが...。」



(あれ...?ちょっと待って...ただでさえ数時間の座学で目を回すのにそれに加えて剣術もとなると......。)



俺はその先を想像して青ざめた...。



「どうやら気づいたようだな...。もちろん地理を知らないお前はこの場所から逃げることもできないし、一日たりとも学びの無駄にはしないのでそのつもりでな。」



「えぇっー!?!?」



(つまり休み無しで1日に剣術と座学を1週間...。)



「さて、休憩はこれくらいでいいだろう。さぁレイド、片付け終えたら午後の座学を始めるぞ。」



(超ブラックじゃねーかよそれえぇぇーーー!!!!!)



俺は心の中で叫んだあと、しぶしぶ皿を片付けて座学の勉強へと戻って行った...。












































































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