第8話
「ちなみに、剣術や体術を学ぶにはどうしたらいいのでしょうか...?」
するとイリアは微笑みながら言った。
「心配するなレイド、君にその気があるのなら私の知人に腕の立つ剣士がいる。それに奴なら体術もそれなりに使いこなせるからこちらから君を鍛えてくれないか連絡を取ってみよう。」
「いいんですか!?」
俺はイリアの判断の速さに少し困惑した...。
するとイリアは真顔で人差し指を立ててから言った。
「ただし、条件がある...。」
そう言って俺に提示された条件は3つ...。
1 体質の事は諦めずにイリアと共に研究しつつ剣術や体術を学ぶ。
2 座学...つまりは生きていく上で必要な知識を学ぶ。
3 この2つを習得出来ない限り、この地を離れて旅する事を禁ずる。
だった。
(1は恐らくイリアが俺の体質に興味があるのだろう...。まぁ、イリアは賢者で魔法の研究が好きみたいだし、俺自身も自分の体質には興味があるから問題ない...。ただ、一から剣術や体術を学ぶとすると...一体どれくらいかかるんだろうか...。)
(2は...多分だけどお金の計算とか、魔物についてとかかな?それか街とか...あ、国とか歴史とかかも!)
(3に関しては、恐らくこれらを習得しないと一人では出歩けないってことなんだろうか......だとしたらやはりこの世界はかなり物騒だと思える...。)
それと同時に、俺は重要な事に気が付いた...。
(あっ...これって、全部俺の為じゃないか...。)
俺はもちろん全ての条件を快諾した。
「本当にありがとうございますイリアさん!俺、全力で頑張ります!」
そう言って頭を深々と下げると、イリアは少し嬉しそうに言った。
「なに、気にするなレイド。私も久々にやりがいのある研究が出来そうで胸が高鳴っている。魔力の無い体質の研究...もちろん君の体で色々と試すつもりだが、良い成果が出るよう私も全力を尽くそう。」
(えっ?俺の体で色々試すって...もしかして痛い事なのかな...?)
俺は少し嫌な想像をしたが、イリアさんがそんなマッドサイエンティストな訳がないと思いつつも少し引きつった笑顔で応えた...。
「は、はい...どうかお手柔らかにお願いします...。」
こうして、俺の『旅』に出る為の言わば修行の日々が始まった...。
修行1日目...。
俺は朝、話声で目が覚めた...。
(うぅ...今何時だ......って...そう言えば時計なんてないんだっけか...。)
「ふぇっ!!朝っ!!!」
俺は昨日話した修行の事を思い出しすぐに飛び起きた。
「おはようございます賢者様!」
「おぉ!待っていたぞデリス!」
(男性の声...ハッ!もしかして...!!)
俺は急いで外に行き挨拶をした。
「お、おはようございますイリアさん!寝坊してしまってすみません!!!」
するとそこにはキョトンとした顔のイリアさんと、3メートルほどある二足歩行のトカゲに引かれた馬車...?と人型をした顔まで覆うモフモフの犬...?が居た...。
俺は目の前の光景に頭が追い付かず固まっていると、最初にイリアが声を掛けた。
「なんだレイドもう起きたのか?昨日、明日の朝はゆっくりで良いと言ったのに君のやる気には関心するよ。」
(あっ...そう言えばそうだっけ...。)
「あ、いえ...すみません。」
見たところ、このモフモフした方は剣を持って居ない...。
俺は剣術を教えてくれる方ではないと察し、恥ずかしくなった。
「まぁ、でも丁度いい。紹介しようレイド、こちら週に1度私の元に食料や生活消耗品、さらには情報まで届けてくれている商人のデリス君だ。」
するとデニスは手慣れた様に自己紹介をしてくれた。
「おはようございます!ただいまご紹介に預かりました、セルロン商会の獣人族デニスと申します。以後お見知りおきを!」
そう言うと、デニスは胸に手を当てて会釈をしてくれた。
「は、初めまして!俺はレイド...えーと人間族のレイドです!」
俺は気を取り直して、挨拶を交わした。
(獣人族...!レイエルから色んな種族がいるのは聞いていたけど...なんと言うか......かわいい!!)
俺のいた世界では動物はペットとしても飼われてたけど、よくよく考えるとこの世界では種族...。
それはつまり彼らも人と同じと言う事...。
ならばこう言った感情は失礼に値すると考えた俺は、デリスや他の獣人族にも人と同じように接しようと心に誓った。
「では賢者様!早速荷下ろしに移らせていただきます!」
そう言ってデニスは馬車?の後方へてくてくと歩いていき、荷台へよじ登った。
「あっ...俺手伝います!」
俺もすぐにデニスの後を追い、協力して荷物を下ろした。
「ありがとうございますレイド様、ご注文の品はこれで以上になります!」
俺はイリアがあらかじめ用意していた木箱に商品をまとめ、イリアは俺のとなりで商品のチェックをしていた。
「うむ。商品に問題はない、いつもありがとうなデニスよ。」
イリアが礼を言うと、デニスは慌てて両手をブンブンと振りながら言った。
「いえいえとんでもありません!こちらこそ、セルロン商会をいつも贔屓にしていただき感謝しております!」
するとイリアは、一瞬俺を上から下まで流れるように見た後に、デニスに話しかけた。
「ところでデニスよ。急で申し訳ないが、レイドの体に合う服など持ち合わせていないか?」
(え?服...??)
「えぇ、少々お待ちください!」
すると、デニスは俺に近づきしばらく観察した後、すぐに荷台へと上り見えなくなった。
「イリアさん?俺、服ならこのままでも別に...」
そう言い切る前に、イリアは真顔で俺に言った。
「ダメだ、その服はみすぼらしい。」
「み...みすぼらしい......」
俺は初めて言われた単語にショックを受けた...。
(た...確かに完全に着慣れていたけど、これもともと洞窟の白骨死体からいただいたんだよな...。)
「あっ...でも俺!お金とか持ってないですし...!!」
するとイリアはまたもや真顔で言った。
「何を言ってるんだお前は、仮にお前が金を持っていたとしても私が欲しい品を少年に払わせると思うのか?」
(確かに...!!それって傍から見ればかなり最低かも...。でも俺、いいのかなこんなに甘えてしまって...。)
「い、いえ...すみません...。」
するとイリアは俺の頭に手を置いて、優しく言った。
「いいか、君はまだ子供で私は大人だ。何度も言うようだが、子供は大人に遠慮なんてしなくていい。それに、一丁前に恩を感じる必要もないんだよ...」
俺は前世で大人だったせいか、はたまた遠慮をしないと続けられない関係の日々だったせいなのかどうやら感覚が麻痺していたようだ。
(そうだよな...。これってのも本当はすごく当たり前のことなんだよな...。)
「それに...。もしそれでも恩を感じてしまうのであれば、君が大人になってから好きなだけ私に恩を返せばいい。」
「はい。ありがとうございますイリアさん...。」
(俺も配慮が足りなかったな...。次からは相手の想いを汲めるように気をつけなきゃ...。)
お礼を言うと、イリアは少し俺の頭を撫でて微笑んでから手を戻した。
(頭撫でられたのなんていつ以来だろう...?)
俺は恥ずかしさで顔が赤くならないように必死で平然を装った。
「お待たせしましたー!」
するとデニスが何着かの衣服を持って荷台から降りて来た。
「こちらが今ある在庫になります。よろしければ手に取って見てみて下さい!」
「おぉ!流石デニスだ、どれ...私が選んでやろう...」
イリアはそう言って、デニスから衣類を受け取り、一着ずつ品定めを始めた。すると、それを見ていたデニスは俺の足元を確認した後に急いで荷台へと戻っていく...。
「ふむ...これからの訓練の事も考えると...これと、これ...いやこれがいいか...。よし!」
こうして、俺の服が何着か決まった時、デニスは荷台からいくつかの種類の靴を持ってきて言った。
「賢者様!こちらもご入用ではないかといくつか在庫を持って参りました!」
「おぉ!気が利くなデニスよ、レイドそっちは君が選んでくれ。」
「はい!分かりました。」
俺は一足を手に取り硬さを確認してみた。
(素材は皮だ...なら履いているうちに馴染んで程よく柔らかくなりそう...。紐も...皮だな...。こっちはすごく硬くて長持ちしそうだ!靴底は...っと...)
靴底を見ると、デニスが気を利かせて言った。
「レイド様!よければ実際に履いてみて下さいませ!」
俺はデニスにお礼を言ってから、お言葉に甘えて何足か実際に履いてみた。
「うん...これすごくしっくりくる!イリアさん、俺これにします!」
「よし、決まりだな。デニスお代はいつも通りで頼めるか?」
イリアがそう言うと、デニスは嬉しそうに頷いた。
「はいもちろんです賢者様!ではいつも通り当商会の貸金庫からお代は引かせてもらいます!」
「あぁ、頼む。あ、そうだ報告書と手紙を出したいのだが、そちらも大丈夫か?」
そう言うとデニスはニコッと笑った。
「もちろんでございます!ところでどちらも王宮宛でよろしいのですか?」
(え?王宮!?)
「いや、すまないが手紙の方は冒険者ギルトのマスター宛で頼みたい。」
(冒険者ギルド!?)
するとデニスは一瞬俺の顔をチラッと確認してからイリアに言った...。
「承りました!このデニスにお任せ下さい!」
そう言って胸に手を当てると、イリアが言った。
「助かるよデニス。では今から手紙を準備するから少し待っててくれ...そうだレイド。その間に井戸から水を汲んで、その子らにあげてくれないか?」
「はい、分かりました。」
そう言って、イリアは家の中に入って行った...。
(イリアさんって...実はかなり凄い人なのかな...?)
俺は言われた通り、井戸から水を汲んで飲みやすいようにと、桶を2つ用意して二足歩行のトカゲの前へと持って行った...。
《グルルッ......?》
水の入った桶を2つ目の前に置くと、2頭はお互いを見て首を傾げてから俺の耳の辺りを嗅ぎ始めた...。
「うっ......。」
俺はくすぐったいのと食べられたりしないかの恐怖でどうしたらいいのか分からず、その場で固まるしかなかった...。
《グルッ...グルッ...。》 《グルル......。》
すると2頭は嗅ぐのに満足したのか、ゆっくりと水を飲みはじめた。
(ふぅ~よかった...。一瞬食われるかと思った...。)
すると、その様子を見ていたデニスが不思議そうに話しかけてきた。
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