第7話
それからイリアの家に向かう道中、無言は流石に気まずいので、俺は色々と質問してみることにした。
「イリアさん、そう言えば俺が洞窟で見た半透明の物って一体何だったんでしょう...?」
イリアは俺の方を見た後、歩幅を俺に合わせ隣で歩きながら言った。
「あぁ、あれは私が張った結界魔法だよ。私は魔法が得意でね、昔から魔法の研究ばかりしていたらいつの間にか『賢者』と呼ばれるほどの力が身についていたのさ...。」
そう言ってイリアは遠くの方を見つめ、なんだか昔を懐かしんでいる様子だった。
「あれってイリアさんの魔法だったんだ!!あ...俺勝手に触ってしまったんですけど大丈夫でしたか...?」
結界に勝手に触れたとなると、俺はなんだか罰が当たりそうな気がした...。
するとイリアは少し笑ってから言った。
「心配するなレイド、あれは中身を守る為に私以外は入れない様になっているんだ。だから他の奴が触れたからといって別にどうもしないよ。」
俺はそれを聞いて安心すると同時に一つの疑問が浮かんだ...。
(あれ?ってことはあの白骨死体は一体...?)
するとイリアは続けて話した...。
「まぁ一応、あの結界には誰かが触れれば、私に感知されるようにはしてあるが、それ以外は普通の結界魔法さ。」
俺は今の話で1つだけ納得した...。
「なるほど、それでイリアさんは洞窟に来て...俺を見つけたと言う訳ですね!」
するとイリアは少し気まずそうな顔をしながら言った...。
「あ、あぁ。まぁそうなんだが...。正直、君を見つけた時は驚いたよ。」
俺はさっきの事を思い出した。
(そう言えば会ったとき「人間か?」とか言って驚いた顔をしてたような...?)
「え?どうしてですか?」
俺が聞くと、イリアの口からはとんでもない言葉が返って来た...。
「あぁ...正直言いにくいんだが、私は君を見つけた時...死人か幻想魔法を使う新種の魔物だと思ったんだよ...。」
「え...!?お、俺が死人!?」
俺は一瞬、心臓が飛び出しそうになった。
(まさか魔法で前世とか見れないよな...!?)
そんなことを考えていると、俺はイリアに頬をつねられた...。
「あ...い、いでで...!」
「落ち着け。今は人間だと確信してはいる、だが...」
イリアは手を放してから続けた。
「いいかレイド...本来、全ての生物には魔力があるのだが...いや、あるはずなのだがな。お前には何故か魔力がないんだ。」
「ふぇ...???どうしてそんな事が...。」
俺は頬をさすりながら聞き返した...。
「私はな、相手を見ただけでそいつの魔力量が分かる...。だがレイドにはその見えるはずの魔力が一切無い...。つまりこれは生きている限りありえないことなんだが、何か心当たり......って、そうだ記憶がないんだったな...すまない。」
そう言うと、イリアは自分を落ち着かせる様に深呼吸をしながら、少し悲しそうな顔で前を向いた。
(え...?魔力が無いって...。確かレイエルが魔素が魔力の源って言ってけど...ってあれ?魔力がないなら俺、魔法使えないんじゃ...。)
だが、せっかく前世では無かった魔法と言う概念がある世界...。俺は正直、簡単には諦めたくなかったので、一応聞いてみた。
「それって俺に魔法は使えないってことですか...?」
恐る恐る聞くと、イリアは頷いた...。
「えっ!?それってこの先もずっとなのでしょうか...?それとも勉強すれば魔法が使えるようになるとかっ...!」
するとイリアは少し考え込んでから言った...。
「すまんが正直なところ分からないんだ...。私もそれなりには生きてきたが、魔力の無い生きた人間なんて初めて出会ったし、これまでの文献や歴史においても見たことも聞いたこともないんだ...。」
「そ...そんな......。」
俺はこれまでで初めての気持ちの落ち込みを感じた...。
(せっかくだから、次レイエルと話す時までに魔法を習得しておこうと思っていたのに...。)
するとイリアはそんな俺を見かねたのか、頭をポンポンと叩きながら慰めた。
「まぁ、そんなに落ち込むなレイド。私は『賢者』だと言っただろう?今はなぜ魔力がないのかは分からないが...分からないのであれば、気が済むまで調べてみればいい。それに記憶が戻れば何か手掛かりがあるかもしれないし、私も全力で力を貸そう。だから今は焦らずゆっくり様子を見てみようじゃないか。」
「イリアさん...。」
俺はイリアの言葉に人の心の温もりを感じた...。
(あぁ...この世界で初めて会った人がイリアさんで本当に良かったな俺...。)
それと同時に、俺の記憶が戻る事はこの先ありえないので、魔法が使えないとなると必然的に自分自身の体を鍛える他この世界で生き残る事は出来ないと悟った...。
「ありがとうございますイリアさん...。俺、諦めずに頑張ります!」
そう言って顔を上げると、イリアは安心した顔をして言った。
「前向きなことは良い事だ、私もレイドの体質には興味があるのでな...どこまで解明できるかは分からんが、一緒に調べてみようじゃないか。」
(よし、とりあえず当面の目標は...体を鍛えつつ、この世界の常識やその他の知識を学んで、その合間に俺の体質について調べる...と、こんなとこか!)
正直、まだ少し落ち込んではいるが、目標を掲げてみるとなんだかやる気がわいてきた。
「レイド、もうすぐ着くぞ。」
そうこうしているうちに、少し遠くにイリアさんの暮らしている家が見えてきた。
(これから新しい生活が始まるんだ...!なんか、少し緊張するな...。)
家の全体が見えてくると、三角屋根に煙突があり敷地内は円状に拓けていて周りは森が続いている。
さらに外には薪割り用と思われる切り株と、少し離れた所には小さな井戸もあった。
「さぁ着いたぞ、ここが君と一緒に暮らす家だ。」
「おぉ...!立派な家ですね...!!」
(これがファンタジーと言うやつなのか...。でも、日本の歴史にはなかったこの造りはなんだか新鮮だし、なにより周りにある森とも合っている...。)
俺は家の前で立ち止まり感動していると、イリアが扉を開けて言った。
「レイド、今日からここは君の家でもある、だから遠慮せずに暮らすといい。さぁ、これからの事は中でゆっくり話そう。」
「は、はい!よろしくお願いします...!」
こうして中に入ると、イリアは早速部屋に案内してくれた。
「レイドはこの部屋を使ってくれ。」
そう言って扉を開けると、部屋の中にはベットに机と椅子、あと何も入っていない本棚があった。
(すげぇ...。シンプルだけどこの雰囲気凄く落ち着くなぁ...。)
「ありがとうございますイリアさん!」
笑顔でお礼を言うと、イリアは少し照れくさそうな顔をして言った。
「バ、バカもん...遠慮するなと言っただろう...。だから気にせず好きに使ってくれて構わないからな。さて、私はお茶を淹れてくるからレイドはくつろいでてくれ。」
そう言うと、イリアは俺を見て微笑んだ後に部屋から出て行った。
(イリアさんって...本当優しいよなぁ...。いつか恩返し出来るといいんだけど。)
俺は部屋の奥に行き窓を開けた。
(風が気持ちいい...!)
しばらくの間、外を眺めながら風を感じているとイリアの呼ぶ声がした。
「レイド、こっちに来てくれ。」
「はーい!今行きます!」
俺はイリアの声がした方へ向かうと、紅茶が用意されていた。
(紅茶なんて飲むの初めてかも...!)
俺はテーブルをはさんでイリアの向かいの椅子に座り、香りを嗅いだ...。
「これは私の特製の紅茶でな、気分が落ち込んだり体調が優れないときに飲むと落ち着く効果があるんだ。」
そう言って、イリアは一口紅茶を飲んだ。
「すごく良い香りですね...!いただきます!」
一口飲むと、胸の辺りから全身にじんわりとした温かさが巡り、鼻を抜ける香りはまるで全身の筋肉を緩めてくれる様だった。
「ふはぁ...すごく美味しいです...それにすごく落ち着く...。」
「そうか美味しいか!なら今度レイドにも淹れ方を教えてやるとしよう。」
紅茶のおかげで、俺の中の緊張はすっかりとなくなっていた。
「さて、レイドよ。」
イリアは紅茶を飲み終わると、ゆっくりカップを置いて言った。
「君のこれからについてだが、まず君はこの先記憶が戻らなかった場合どうしたい?」
そう言って、イリアは少し真剣な眼差しを俺に向けた...。
(どうしたいか......。)
こう言う時は、素直な自分の欲求に従うのが一番だと俺は思った...。
「そうですね...。俺は正直、色んな場所を旅したいです!」
自分の心に問いかけた俺の答えはこれだった。
(前世では旅行も行ったことなかった...と言うか、そもそも興味を持つ余裕すらなかったし...。でも今は純粋にこの世界を旅したい!色んな風景や色んな人々にも会ってみたいし話してみたい!!)
「ふむ、旅か...。ならば冒険者になるか、商人になるのがいいだろうな。」
(冒険者は後輩から少し知識を聞いたけども、商人って方法もあるのか...。というかこの世界での仕事って前世みたいに面接とか履歴書とかあるのだろうか?)
俺が首を傾げて考えていると、イリアが言った。
「まぁ、冒険者なら各国、各街にギルドがあるし依頼をこなせば収入も入る...だがレイドの場合、魔力が無いから剣術や体術といった技術を学ぶ必要があるな...。」
俺はふと、レイエルとの会話を思い出した。
(そう言えば、レイエルが魔法はほとんどの種族が使えると言ってたけど、ほとんどって事は俺みたいに魔法が使えない人もいるんじゃないだろうか...?)
「あの~イリアさん。」
俺は早速、今浮かんだ疑問をぶつけてみることにした。
「ちょっと気になったんですけど、冒険者の中に魔法が使えない...もしくは使わない人達っているのでしょうか?」
するとイリアは難しそうな顔をしてから答えた...。
「そうだな...。確かに魔力は保有しているが、単に保有量が少なく魔法と呼ぶにはお粗末な者も中には居る。しかしそういった者達は少ない魔力を魔法にではなく身体に巡らせることで、一時的な肉体の強度をあげたり一部位を強化して攻撃速度をあげたり工夫をして戦っているんだよ。」
(なるほど...魔力の使い方は魔法だけじゃないのか...。でもそうか...そもそも魔力がないとどっちみち意味はないんだよな...。)
どうやら、魔力がないと言うことは思っていたよりも深刻な問題らしい...。
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