第5話

『この世界は元々、我らが主によって作られました...。私に話して下さったのは、遠い昔に主は生命が豊かなあなた方の世界に魅入られ、死と言う概念のある生命への愛が芽生えたとおっしゃっていました。』



(あなた方の世界って...つまり地球のことだよな...?)



『はい、おっしゃる通りです。ですのでこの世界の時間や生き物達といったおおまかな部分はあなたの居た世界とさほど変わらないのですが...。』



(ですが......???)




『コホン...。主はより多種多様な生命を愛したいと言う願いが膨らみ、そして世界はその願いに答えるように『魔素』と言う概念を生み出しました。』



(マソ...???)



『えぇ、魔素とは願いや祈りなどの強い想いに共鳴します。それにより魔素同士が結合しそれに答えるように具現化してこの世界に影響をもたらします。そしてこの魔素は、生物に必要不可欠である空気と同じようにこの世界に溢れていて、現代で言う《魔法》の源となっています...。そして生物はこれらを長い時と共に自然と取り込み、長く途方もない子孫繁栄を繰り返しながら進化を続け、この世界に多種多様な種族が誕生したのです...。』



(魔法か...この世界に後輩がいたらきっと泣くほど喜んだだろうな...。)



『ですが...この世界で様々な種族が誕生してしばらく経った頃。各種族間で小さな争いが頻発するようになりました...。』



(.........。)



『最初の頃は生きる為の争い...。それでも愛おしいと主は感じていたのですが...。何十、何百、何千年と経つにつれ、争いはだんだんと大きくなり。それに伴って多くの種族が絶滅と誕生を繰り返しました...。主は次第に消えていく愛おしい者たち...さらに争いによって『力』のみに重きを置く新たな種族達が誕生していくことに、いつしか疑問が生まれてしまったのです。』



(争い......やっぱりどこも同じなんだな...。)



『そう...なのかも知れません...。しかし、主はおっしゃっていました...争い自体は理解できると...。しかし何の為に愛おしい者達はこんなにも争うのか...そしてその果てに生まれるものを私はこれからも同様に変わらずに愛し続けれるのか...?と、主はこれらの悩みを何千何億年と考え、時には世界が滅亡しないようにと干渉している内に力が薄れてしまい、現在は深い眠りについておられるのです...。』



(さ...さすが神様...時間のスケールがとんでもない...)



『いえいえ、あくまで時間とは......んっ、コホン。話を戻しますね。』



(あれ?何かまずかった...?)



『いえ、大丈夫です。主は人間族が誕生した頃に私を生み出し、様々な事を教えて下さった後、眠りに入ったのですが...。』



(が...?)



『最初はただ、他より好奇心が強く身体的強度が弱いだけの人間族でしたが...ある日『魔法』と言う技術を生み出し、他種族よりも力で勝るようになりました。』



(好奇心...なんだか心が...。)



『そして人間族は徐々に様々な種族とも交わり、新たな種族を生み出しながらこの世界に繁栄していったのですが...。それと同時に、蹂躙された者達の憎しみや怒り、復讐や嫉妬などの負の感情も次第に世界に溢れはじめてしまい...。そしてそれらは長い時を経て魔素と干渉し、いつしか世界は『魔族』と呼ばれる種族を生み出してしまったのです...。』



(魔族...!?それって後輩が言っていた魔王とかの...)




『そうです...ついには『魔王』と名乗る者も現れてしまい...魔族はあらゆる種族に矛先を向け、これまでには無いほどの大規模な争いが何度も世界を襲いました。』




(これって...もしかして後輩が言っていた『勇者』になってどうのこうのって話に......)



『あ、いえいえ!そうではありません。確かに勇者も存在します...。しかしそれは魔族との争いで世界に溜まった多くの祈りや願いなどに魔素が反応し、あくまでもこの世界がそれに応え生み出した者達なのです。』



(と言うことは...勇者って転生とは違うんだな...。)



『そう言うことです。そしてこれまでに魔族が誕生してから約200年おきに魔王と勇者は現れ、その度にどうにか魔王は討伐されているのですが...。討伐される度にまた憎しみと怒りが溢れ、世界はそれに応えると言う循環に陥ってしまっているのです...。』



(勇者になるわけでもないなら。じゃあ俺は一体なんの為にこの世界に?)




『主は元々あなた方の世界に魅入られてこの世界を創造された...。ですので私は思ったのです、今までになかった世界の魂...。あなたと言う変化をこの世界に加えれば『何』かが変わるのではないかと...。』



(ちょ、ちょっと待ってくれ!!俺は普通の人間で何の力も持ち合わせてないし!前世でだって結局なにひとつ成し遂げられなかったんだぞ!?そんな俺に...世界に変化なんてとてもじゃないけど...。)



『大丈夫です心配いりません。あなたにはただ、この世界で生きたいように生きて欲しいのです。たとえば魔法を極めたり、世界を冒険したり、様々な種族と交流してみたり。もちろん何もせずに静かに生きるのだって構いません!』



(そ...そんなんでいいのか...?勇者になってとか、魔王を説得してとかもなし?)



『えぇ、なしです!あ、もちろんあなたがそうしたいのなら勇者でも魔王でもなってもらって構いませんよ!』



(いやいや!なる気はないよ!さすがに俺には荷が重すぎる...。)



『そう...ですか...。とにかく、気負わずにあなたらしく自由にこの世界を生きて欲しいのです!それに...あなたがここにいる、それだけでももうこの世界にとっては変化のひとつなのですから!』



(わ、分かったよ!この世界で自由に生きる。それだけでいいんだな?)



『はい!』



(まぁ、せっかくの転生だし...楽しんでみるか...。)



『ありがとうございます!あなたならきっと受け入れてくれると信じていました!』



(お礼なんていいって!前世ではあまり楽しい思い出もなかったし...それにここで『嫌だ!』なんて言ったら後輩にも申し訳ないしな...。だから、こちらこそありがとうレイエル...その...転生させてくれて!)



『いえいえとんでもない!私はあなたの素敵な人生を祈っていますよ!それでは私から新たな人生を祝して『名前』を贈ろうと思うのですがよろしいですか?』



(もちろん!...って名前はもう......あ、あれ?おかしい...名前が思い出せない...?あれ?なんでだ?前世の記憶はあるのに...自分の名前のとこだけ靄がかかったみたいになってて...)



『慌てなくても大丈夫ですよ。あなたは転生し新たな肉体に魂が入ったので前世の名前は思い出せないのです。』



(そ、そうなのか...?)



『えぇ、名前はあくまでも肉体と魂を繋ぐもので、どちらとも離れてしまうとその役割が無くなるものなのです。』



(あぁ......そうか...俺の肉体は前世の駅のホームにあるし、魂はこの世界の新しい肉体に入っているから...)



『そう言うことです!それでは早速『名前』を贈りたいのですが...。』



(わかった!その...よろしく頼むよ!)



『では、少し恥ずかしいのですが...私の名から分け与えるのはど、どうでしょうか!?』



(レイエルからか......となると2択かな?いや...2択だな...)



『そ、その!イエルなんて...!!』



(え、あ...すまん、却下で。)



『え、えぇー!?な、ならレエルなんて...』



(あーうん、却下で。)



『そ、そんなぁ...。私、名付けなんて初めてなので...じゃ、じゃあルエレ!ルエレでどうでしょう!?』



(却下。)









こうしてしばらくの間、俺はレイエルの考えたいくつもの名前を熟考しようやくこの世界の俺の名前が決まった。



(いや~途中からポチやらタマやらジョンが出て来た時はどうしようかと思ったけども、この名前ならここでも頑張れるよ!本当にありがとうレイエル!)



するとレイエルは疲れが吹き飛んだような明るい声で言った。



『い、いえ!こちらこそ付き合わせてごめんなさい!これからもよろしくお願いしますねレイド!』



こうして、俺の名前は『レイド』に決まった。

そしてやりとりをしている内に、いつしか俺とレイエルには友情に似た感情が芽生えていたのだった。



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