第4話 


それから、食料と水の不安を抱えながら進んでいると、遠くの方に光ゴケよりも数倍は明るい妖光が見えた。



(もしかして出口か!?)



俺は期待に胸を膨らませながら、急ぎ足で向かった。


近くまで行くと、残念ながら外ではなかった。



(なんだこの空間...。さっきまでと段違いに明るいし広い...。)



そこはかなり広い空間で、周囲には妖光を放つ鉱石が地面からたくさん生えていた。



(それに...あそこに見えるのって一体...?)



俺は、空間の中心に半透明のドームがあるのを見つけ、得体の知れない怖さと純粋な好奇心と葛藤しながらもゆっくりと近づいてみる事にした。



(か...かなり大きいなこれ。と言うか、支柱もないのにどう言う原理だ...?)




目と鼻の先まで近づいてみたものの、俺の脳みそではこの半透明のドームを理解することは出来なかった...。



(なんだか巨大なシャボン玉みたいな...中はかすかにぼやけてて、はっきり見えない...。)



俺はドームの中を確認したい欲求が沸き、まずは指先でドームに軽く触れてみた。



(ん?)


俺はさらに指先で何度か突いてみた。



(あれ?思ってたより硬いぞこれ...。)



てっきりプヨプヨと柔らかいかと思っていたドームの感触は、まるで分厚い鉄板のように硬く冷たかった。



俺は触れても何も起きないことに、少しだけ得体の知れない怖さが減り、そして比例するように好奇心は増えていった。



(うーん、中にナニかはあると俺の勘が言ってるんだよなぁ...あぁっ!気になるっ!)



どこかに入口はないかと軽く外周を見てみたが、もちろん透明なドアがある訳もなく、ドームはツルツルしていて中に入る方法はさっぱり分からなかった...。



(はぁ...。すごく気になるけど、ここで時間を潰すわけにもいかないし...。そろそろ行くか...。)



俺はこの興味深いモノとの別れを惜しみながら、最後にもう一度なにか見えないかと、ドームに両手をついて顔が潰れる勢いで中を覗いてみた...。




「うわっ...!!眩しっ...!!!」



すると突然、ドーム内の地面が一瞬光ったかと思うと、ドームを囲う様に幾つかの円状の文様が現れた。



俺は自分よりも遥かに大きな文様に驚き、咄嗟にドームから離れた。



(まずい...どうしよう...!?)



すぐに隠れられそうな場所はないかと周りを見たが、あるのはデコボコの地面と岩壁のみ...。

一瞬パニックになりかけたが、すぐに気持ちを立て直して自分を落ち着かせた。



(いざとなればこのナイフで!!!)



俺はモンスターが出てくると言う最悪な状況を想定し、ナイフに手をかけて臨戦態勢に入った。



(く、来るならこいっ!!!け、喧嘩すらしたことはないけどっ...抵抗もできずに死ぬのはもうごめんだっ...!!!)



しかし覚悟を決めたのもつかの間で、想定は綺麗に外れ、何かが起こる事はなく円状の文様はドームを回るように動きそのまま消えたのだった...。



(あ、あれ???)



俺は文様が消えた後もしばらく固まっていたが、本当に何も起きなかったので臨戦態勢を解いた...。



「ぷはぁ~っ...なんだったんだ今の...。」



俺は緊張で止めていた息を吐きだしてからナイフを納めた。



(よし、中のことはもういいから本当にマズイ状況になる前にここから早く出よう!!!)



先程の事もあるので、俺はドームからさらに距離を取り、来た方向を確認してから先へと進んだ...。




それからしばらくは警戒しながら出口を探していたが、時間が経つにつれて自然と警戒も解けてきていた。




(うーん...やっぱ気になるなぁ...。)




俺はドームとその中身について考えていた。




(後輩が『異世界には魔法と言う概念があって...!』って言ってたし、もしかしたらあれがその『魔法』なのか...?)




気付けば、辺りの光る鉱石は少なくなっていて光ゴケの存在が目立ち始めていた。



(地底湖から目覚めてどれくらい時間が経ったんだろう...?さすがにそろそろここから出た......。)



その時、俺の頬が何かを捉えた...。



(今のって......!!)



俺はその場に立ち止まり、感覚を研ぎ澄ましてみた...。



すると、確かに頬をかすめていく少し懐かしくて待ち望んでいた感覚...。



「風だ!!」



俺は出口が近づいている事を確信し、ゆるい服の揺らぎと肌の感覚を頼りに風が向って来る方向へと歩いた。



歩くにつれて風をより一層感じるようになり、次第に周囲の光ゴケもなくなっていく。



すると前方に右側から暖かいオレンジ色の光が差し込んでいるのが見えてきた。



(よし!!この坂を上って曲がれば外だ!!!)



俺は新しい世界に期待を寄せて、薄暗い洞窟から抜け出せる喜びと共にやっと外に出る事ができた。




「うおぉーー!!!これが異世界!!!」




遠くの方を見ると、どこまでも続く緑の地平線。

そして影の動きからして少し顔を出し始めた朝日...。

極めつけは頭上に広がる数多の星々。




「綺麗なとこだな......。」




俺はこれまでに見たこともない圧倒的な自然に心奪われていた。




(俺...これからこの世界で生きていくんだ...。内心変な世界だったらどうしようか不安だったけども、これなら前よりかは楽しく生きていける気がする...。)




そんなことを思いながら俺はしばらくこの感動的な光景を目に焼き付けた。




(はぁ~っ。太陽の光ってこんなに気持ち良かったんだ......)



それから周囲が完全に明るくなり、頭上の星々も見えなくなった頃、俺はようやく自分がどんな場所にいるのか把握することが出来た。



後ろには岩山と洞窟があり、周囲には足首くらいの高さの草が生えている...。


前方には少し勾配がキツそうな下り坂になっており、下りていくと森が広がっているのが分かった。



(この場所は少し高くなっているのか...。うーん...どこかに人が居そうな場所はないかな...?)



俺は周囲を見渡してみたが、見えるのは森と山ばかりで街や村などは確認出来なかった。



(困ったな...。まさか人は俺だけってこともあるのか?)



一瞬そんな事が脳裏をよぎったが、洞窟にあった遺体を思い出しすぐに絶望感は消え去った。



(そうだ!悪い方に考えちゃダメだ!俺はまだこの世界のことを全然知らないんだ!知っていけば怖さもなくなるはず...!ならまずは知るために行動しないと!)




俺は気合を入れる為に両手で頬を叩いた。



「よし!まずは食料と水の確保だ!!」



こうして俺のナイフ1本でのサバイバル生活が始まろうとした時だった...。



『よかった!!無事でしたか!!』



まるで脳を支配されたような感覚と共に、どこかで聞き覚えがある声が頭に入ってきた。



『転生早々に死んでしまったかと心配しました...。』



俺は突然のことに驚きつつも、転生直前のことを思い出し頭の中に居るであろう声の主に話しかけてみた。



「あの~。もしかして以前にもどこかで...」



俺がそう言い終える前に、声の主は慌てて自己紹介をし始めた。



『あのときはごめんなさい!私の名は《レイエル》簡単に説明すると、この世界を生み出した神々の使徒で、あなたを《魂の回廊》から見つけこの世界へと導いた存在です。』




(やっぱり...あのときの声だ...。)



俺は転生する直前に光に吸い込まれた、レイエルの声はそのさなかに聞こえた声と全く一緒だったのだ...。



(確かあの時...『やっと見つけた』とかって言ってたような...)



すると、レイエルはまた俺に語りかけてきた。



『そうです!やっと見つけたんです!私を生み出して下さった神はあなたの様な魂をずっと探していました!』




「ちょ、ちょっと待って下さい!思考が読めるのですか!?」




俺は驚きと少し恥ずかしい感情で声が裏返ってしまった...。



するとレイエルは少し笑った後に説明してくれた。



『はい、言語だけでなく感情も伝わってきますよ。私は神ではないただの使徒ですが...これくらいの事は朝飯前と言ったところでしょうか...?ですので声に出さなくとも私と会話は可能なのです。』



俺は頭の中で誰かと会話が本当に出来ることに少しの興奮と、それと同時に悔しさも沸いてきた。



(あぁ...前世でもこれが出来たなら、仕事もプライベートでも上手く立ち回れただろうな...。ってやべ...これも聞こえてるんだっけ...。)




『はい、もちろん届いていますよ!ですが、ずっと会話が出来る訳ではないのですし、もちろんあなたの思考を操ったりも出来ないのでどうか安心して下さい。』



レイエルは俺の頭に浮かんでいた諸々の不安を消すように優しくそう言ってくれた。



安心した俺は、レイエルに色々と質問してみる事にした。



(レイエルさんは、どうして俺をこの世界に?)



するとレイエルは少しばつが悪そうに話し始めた。



『そうですね...まず私に「さん」付けは不要です。少し難しいとは思いますが、まずはこの世界についてお話しましょう...。』



そう言って、レイエルは話し始めた...。




































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