第3話
それからしばらく右手に触れる岩壁を頼りに歩いていると、偶然にも小石を蹴ってしまった。
「いてっ...!」
足の親指の先が脈を打つ様に痛む。
(前世では当たり前だったけども、やっぱり履物がないと足への負担が半端じゃないな...。)
俺はぶつけた親指を確かめる為に、かがんで光ゴケを近づけた。
(よかった...幸い血は出てないみたいだ。)
《コッ...コッ...カンッ......》
すると少し前の方で、蹴ってしまった小石が何かに当たる音がした。
俺は音が鳴った方向を見て立ち上がった。
(今の音って...金属音か?)
それから音の正体を探るべく、足元を注意深く確認しながら進むと...
「うわあぁっ...!!!!いでっ......!」
俺はその正体に驚き尻もちをついた。
急いで落とした光ゴケをいくつか手にとり、ゆっくりと照らしてみるとそこには白骨化した人間の死体が岩壁にもたれかかっていた...。
「ッ......びっくりした...。」
俺はこの時、何故だか相手が生きていない事に安心した。
よく見ると傍らには少しさび付いた丸く小さな盾と、すぐ近くには剣が落ちており少しカビ臭くはあるものの、白骨死体は服を身に付けていた。
(これって...ある意味ラッキーなのでは?いや、でも流石にどうなんだ人として...。)
俺はしばらく考えた後、恐る恐るその人の前に正座をして手を合わせた...。
(申し訳ありませんが...あなたの遺品、使わせていただきます...。どうか、安らかに眠って下さい...。)
俺は一礼した後、丁寧にお骨をどけながらこの人が身に付けていた物たちを回収した。
「あれ...?これはなんだろう??」
回収した物を丁寧に並べ、せめてもと思いお骨を一か所にまとめていると、この人のであろうブロンズ色のドックタグのネックレスを見つけた。
(ん?これは模様?...いや、この世界の文字...?...なのか?)
光ゴケを照らしながらまじまじと見てみたけども、文字なのか図形なのかも分からず。もちろん読むことは出来なかった。
(うーん...でもこういうタグって持ち主の情報とか飼い犬の名前とかが書かれてることもあるし...。もしかしたらこの人をずっと探している誰かが居るかもしれないしなぁ...。)
俺は置いていくかどうかで迷った末に、とりあえずこの人の形見として大事に持っておく事にした。
(後は盾と剣だけど...。と言うか、この人の服装といい盾と剣といい。どうやら後輩が言ってたゲームやアニメの世界とほぼ一緒だなこれ...。)
俺は近くに落ちている錆びた剣を拾ってみた。
「うっ...おもっ!!」
体が若返って小さくなっているせいか、それともただ想像よりも重いだけだったのか、どちらにせよ片手でこれを振ることなんで想像出来なかった。
(よし、剣と盾はここに置いて行こう...)
幸いにも、この人が身に付けていた物の中に、皮の腰ベルトに小型のナイフとその鞘が装備されていた。
俺は一先ず、剣と盾をまとめたお骨の隣に持っていき、それから靴や服を自分に合わせてみた。
(靴は少し大きいけど問題ない...ズボンは明らかに丈が合わないし、でもまぁ着ないよりかはマシだよな...。上着も流石に大きいか...)
俺は今あるものを眺めながらどうするのがいいかを考えてみた。
(ズボンに関しては、うまくあのナイフ付きの腰ベルトを使うとして......上は最悪なくても大丈夫...いや、本当に大丈夫か?俺はまだこの世界のルールを知らない訳だし、もし半裸は罰則!なんてこともありえなくはない...。)
そのとき、俺は閃いた。
(そうだ!ナイフがあるじゃないかっ!!)
俺はベルトからナイフを取り出し、すぐに刃を確認した。
(少し錆はあるけども、刃こぼれはなさそうだしあの剣よりかは全然綺麗だ!)
それから試しにズボンの裾に上手いこと刃を当てて滑らせみる。
(よし、これならいけそうだ!!)
歯切れは良いとは言えなかったが、焦らずに時間をかけて布を切り、服のサイズをどうにか調整した。
「これなら歩くときも邪魔にならないし、上もどこかに引っ掛けたりはしないはず!」
俺は以外にも器用な手先と、普段なら考えることもない事に全力で取り組める実感になんだか嬉しさが溢れていた。
(さてと!行きますか!!)
最後に軽く身なりを確認し。お骨に手を合わせてから、再び出口を探して歩き始めた。
それから大体1~2時間ほど歩いたと思う。
壁伝いに歩いているせいもあり、なかなか出口を見つける事が出来なかった...。
「うわっ...!!って...またか...。」
俺はあれから3体の白骨死体を見つけたが、最初の人よりも損傷が激しく装備はどれも朽ち果ており、唯一タグだけは回収してお骨はひとまとめにしておいた。
(最初は剣と盾...次が折れた矢と矢筒で...それから切り裂かれた長い服と、なにも残っていない裸のお骨...。)
(見つけた場所はそれぞれ違うけども、共通してるのは同じブロンズ色のタグ...。)
(あ...。そう言えば後輩が『異世界には冒険者って職業があるんです!』って言ってたっけな。)
俺は、記憶の続きを思い出して足を止めた。
《って...先輩聞いてます?》
『あーうんうん、それで?』
《それでですね!剣とか魔法とでモンスターから人々を守るんですよー!!》
『ふーん、そうか。』
《そして、俺は助けた美女と......恋...って先輩!?センパーイ!》
『先行ってるぞー』
何気ない記憶の一部だったが、俺はすぐに辺りを警戒した。
(後輩が言っていたことが確かなら、たぶんこの人達は冒険者なんだろう...。でも、今考えるべきはモンスターの存在...!!)
俺はナイフを取り出し、周囲の音を確認した。
(いや...今のところ生物らしき音は聞こえないな...。)
俺は、臨戦態勢を解きつついつでもナイフを取り出せるようにイメージしながら進んだ。
あれからしばらく歩いたが、一向に出口は見つからず俺は途方に暮れていた。
(まずいな...全然出れる気がしない...。それに生物の気配もまるでない......このままだと水と食料の確保が問題になってくる。)
相変わらず洞窟内は薄暗く、遠くまでは視界が見えない。
(幸いここはジメジメしているから、水はどうにかなるにしても...食料がな......最悪あちらこちらに生えている光ゴケでも食べるか...?いや......これは最終手段だな...。)
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