第2話  6年後、不穏な影

それから6年の月日が流れ、ジンは16歳になりクロードと同じくらいの身長になった。初めての狩りの日の悔しさを忘れられなかったジンは、クロードから教わった狩りの技術を毎日欠かさず練習し、今では頼もしい狩りの相棒となっていた。一方、マリアは14歳になり、ラミリスに負けない料理の腕を持つようになった。彼女の作る料理は、ただ美味しいだけでなく、食べた人が疲れた心を癒せるような不思議な力があった。


その年、人間の国の中でも大きな国、ラージャ王国の軍が、魔族の領地にほど近いクロリアの森にいる危険な魔物について調査するために派遣されていた。

「この森は、数年前から人間領の畑を荒らす魔物がいると報告されている。クロリアの森にいると断定はできないが、我が国の調査隊を何人も失っている以上、この機会に徹底的に調査する」。隊長らしき人物はそう告げ、隊員たちの士気を高めた。その動きは、表向きは調査という名目だったが、その裏には、魔族の軍事力や地形を探るという真の目的があった。

その動きを察知した魔族側は、人間が侵攻してきたと判断し、魔族軍をクロリアの森に派遣。こうして、人間と魔族の争いが勃発した。



その夜、マリアが「なんか外から音がする」とラミリスとクロードに伝えた。耳を澄ますと、静かな森に聞いたことのない怒号と、金属がぶつかり合う音が響き渡っていた。

クロリアの森の異変に気づいたジンとクロードは、外の様子を見に行く。ラミリスとマリアは家で隠れていた。外に出て音のする方へ向かった二人は、思わず「なんだこれは」と声を漏らす。燃え上がる木々、血に染まった地面、剣を振り上げる人間と魔族の姿。平和だったはずの森が、地獄のような光景に変わっていた。そんな中、魔族の一人が「人間を許すな!人間を殺せー!」と叫んだ。

その叫び声が、ジンの頭の中で何度も反響した。「殺す?」誰を?クロードは魔族で、ラミリスは人間なのに。彼にとって魔族と人間は、愛する家族そのものだった。その二つの種族が憎しみ合い、殺し合う現実を、ジンは初めて知った。

数十分後、魔族側が優勢となり、ジンたちがいた場所は彼らに制圧されていた。魔族は魔法を使える者が多いため、普通の人間には勝てない。なのになぜ魔族がすぐに人間の領地に攻め入らないのかというと、魔族に対抗するために作られた魔法剣という強力な武器が両者の均衡を保っているからだった。

戦いが落ち着き、ジンとクロードはラミリスとマリアに情報を伝えようと、その場を離れようとした。その時、「ポキッ」とジンの足元の木の枝が折れる音が鳴った。「あっ」とジンは声を漏らし、焦る。このままでは見つかってしまう。静かに移動を始めようとしたその時、「そこにいるのは誰だ!」と魔族の声がした。

ジンとクロードは息を潜めたが、魔族の足音が確実に近づいてくる。ジンの心臓はうるさいほどに脈打っていた。クロードは魔族だが、ジンは人間と魔族のハーフだ。魔族と人間の顔立ちは似ているが、魔族には角や尻尾など、人間にはない特徴がある。クロードには、鬼のような赤い角が一本生えていた。

しかしジンは、そのような魔族としての特徴はなく、以上な「視力の良さ」を受け継いだだけで、外見的な特徴はなかった。もし見つかればジンが殺されるかもしれない。クロードはそう思った。

そして、二人は見つかってしまう。「お前たち、何者だ?」その一言に、クロードは意を決したように立ち上がり、ジンの前に立った。まるで王族の威厳をまとったかのように背筋を伸ばした彼の顔は、かつての優しい父親のそれではなく、冷徹な王子の顔だった。「俺の名はクロード。魔族領の第二王子である」

その一言を聞いた瞬間、ジンの頭は真っ白になった。クロードはただの優しい父親ではなかった。魔族の王子……?ジンは、その言葉の意味を理解できなかった。

すると、魔族軍の隊長らしき人物がクロードに話しかけた。

「クロード様、今までどこにおられたのですか?」と尋ねられ、クロードは静かに答える。

「俺は、人間と魔族の間に生まれた家族と、静かに暮らしていた。」

隊長は、その言葉に不審な顔をする。クロードは、自分の身分を隠してまで守りたかった家族を思い、複雑な表情を浮かべた。魔族軍の一人が「それではその後ろにいる子供はその...」と尋ねる。クロードは表情一つ変えず、静かな声で言った。「俺の息子だ」


一方、ラミリスとマリアは家で二人の帰りを待っていた。すると、家の近くが騒がしくなり、魔族との戦いから撤退していた王国軍がラミリスたちのいる家を見つける。王国軍の隊長が「こんなところに家が」と言って扉を開けると、そこにラミリスとマリアの姿があった。マリアはジンと同様に外見的な特徴がないため、魔族には間違えられない。彼女は聴力が突出して良かった。人間と魔族のハーフは、五感のどれかが鋭くなる傾向があるのかもしれない。

扉を開けた王国軍の隊長は、ラミリスの姿に気づくと、信じられないといった様子で愕然とした声を出した。「ラミリス王女……?」

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